息ができない生きられない僕たちのためのレクイエム

君の死因は夏に散ったカエデの緑に

奪われたことだと診断が下った


遠方から飛来した

風の誘いに二枚も三枚も散ったわけではない緑


散る様の夏の熱の激しさをチョコに混ぜて

甘いにおいに酔うように時をわすれ

ひたはしる君のシーン

夏に死んだカエルの緑に似て

鮮やかすぎることはなかった


黒板消しで消された無数の言葉を孕んだ

風の誘いに二枚も三枚も散ったわけではない緑


ガラスみたいに脆い僕の

冴えた意識の凍るような感覚だけが透明で

カビ臭いエアコンの風すらも拒み

からからに渇いた喉を潤すための白い夜を

いっぱいいっぱい注ぎ込んだ

甘いあまい闇のなかから

老廃物を絞り出すんだ


生に負い目を感じた日から

春は遠く

蝋燭みたいなどろどろの夏だけを泳ぐ

不自由な賢さだけを身につけ

重たくなって

脱ぐのを忘れた制服みたいな

ベッドと一体化した自分みたいな

翌朝の後悔と皺と汗臭さに嫌気がさして

脈打つ心臓に針を刺す


止まらないかな

という呟きが

画面のなかだけにとどまらないのは

きっと僕たちがいつまでも

生きてない息していない

親を持たない孤児だからだ

詩を読むよ

私人だから死を呼ぶよ

醜い合理性を持ち出して

絶対性とか相対性とかに当惑して驚喜する

から


愁死、殤死、水死、刎死、死、死


と詩を読むよ


言葉にならない

僕たちの心のために

何度だって僕たちは

言葉を紡がなければならないから


死ぬまで詩を読むよ

生を紡ぐことのない

息ができない生きられない

僕たちの生き方が

いつだって

死を叫ぶしかないからさ

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