蝶を追って、電車に轢かれて、蝶になった少女のはなし

追う理由は美しさにのみあると信じたのは

問うまでもなく

一匹のちょうちょうに魅入られたから


にわかに降る雨に翅を濡らし

琴線の震えのように光を散らし

低空飛行で蝋人形たちの愛だの間だのを

するすると抜けて

揺れて

ゆれて


夕暮れ時の行方不明の空のしたで

行ったり来たり生きたり死んだり

自由に行き交う生命の巡りを

羨ましく思ったりして気がついた

君は去年と同じ君ではないのだね

駅前のまつの木の下の君は

僕をみとめて微笑みかけて

本を閉じ

虚構を投じた

綴じた紐の長さを憂いた黄昏時

端が余るから切ろうかと問う僕に

切らないでとやさしくさとした


ふりして


くさした君は

きみは

きみがわるい

君は

長い眠りの向こうに

何を求めるのだ


蝋人形を乗せた

鉄の箱が走る夜に

ちょうちょうは君を魅了した


不遇をかこつ猫の秋の肋骨のように

みすぼらしい歩き姿で

ほら

近づいていく空に

からっぽに

空に

ふみきりは閉じていたのに


自殺は論理的に不可能だけど

他殺は合理的に可能だから

君は君を疎外してしまったのだとのたもうて

他人としての自分を殺すことにしたらしい

美しいちょうちょうになるため

固い決意は発狂と見紛うほどに重たい色で

濃紺を泳ぐ星は隠れ

朝と夜の境界線を探しに家を出た


ユートピアの海で泳いで

星をつかまえそこねた

渦を巻いた雲から垂れる雨

雨という名前の

あめという名前の

あめという甘いあまいおまえの

声をわすれてちょうちょうになるのだ君は


れきしのなのもとに

七色の虹のふもとに

宝箱が埋まる夢と同じ音楽で

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