光速近くで僕を迎えに

夜は遠くの音がよく聞こえるって

しん

しん

森に降る雪の音に

吸い込まれる静かな死が

声をあげるってのに


耳を塞いで

目を閉じてって

君が言うから

ずっと待っていた


『薔薇の名前』の上下巻を

抱えて帰る道に見た

花の名前も知らないのに


君の名前だけは呼ぶことができる

音速

さんびゃくよんじゅうめーとる

おそいおそいよと

装い新たに可憐なドレスの裾ゆらし

もっともっとはやくはやくと吐く言葉は

マッハを超えて

雲をすべて

散らして消えた


十六歳が三十二歳になるには十六年が必要だと

僕が追いつくには十六年が必要だと

追いつくために止まるしかないのだと


君を迎えに行きたい僕は

いつまでもそこにとどまるしかなかった

駅前の松の木の下に滴るしずくは

いつかの君だったなにか


かもしれないとか


思って見上げた空は今日も曇り

いつの間にか雨

待つことしかできない

僕はふがいなくて

なにもなくて


消えるしかなくて

光速近くで迎えにくる

君をまた待つ

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