この世界に必要なのは君だけでいい。

高良橋

【1章 出会いと予感】



『俺は、里紗のことが好きだ』



電話越しでそう伝えた。



君と出会ってから自分の気持ちを伝えるまでに時間は必要なかった。




1章 出会いと予感



―――あれは8年前。



2013年7月。


暑い夏の日、君と出会った。



地元の東京に引っ越してきて半年が過ぎた頃、


知り合いに勧めてもらってアルバイトを始めた。


地域密着型の支援センターだ。



アルバイトを始めて1ヶ月ほど経ったある日。


予定表に「木村 里紗」と書いてあるところに丸がついていることに気付いた。



「木村さん…、今日初めて会う人だな。」


木村さんは学生でここ数週間、職場体験に行っていたそうだ。


顔はしっかり知らないもののアルバイトを勧めてくれた人には、


『とても可愛い子だよ』と聞いていた。



内心、「可愛い子かぁ…、まぁ何も起きるわけがない」


その程度で席についた。



入り口から足音がする。



コツコツコツ。


ロングヘアでゆるふわパーマをあてた髪、


少し焼けた肌、


白いニットのカーディガンワンピースを着ていた。



「はじめまして、木村 里紗です。よろしくお願いします。」


彼女はそう言って頭を下げた。


緊張した面持ちだったが、目がとてもキラキラしていて、口角がしっかりあがっている、可愛らしい笑顔がそこにはあった。


「はじめまして。田中 晴樹です。よろしくお願いします。」



一目惚れだった。


目がキラキラしていて、笑顔だった。


可愛いとは聞いていたけど、本当に可愛かった。



彼女のことを好きだと悟った瞬間、彼女が自分に好意を持ってくれたことに気付いた。



自惚れかもしれないが、他人の恋愛を側から見ていたら、この子はこの人のことが好きなんだってことになんとなく気付くことがある。



そう、それだ。


そのものが自分に向けられていることに気がついた。



当時、彼女は20歳。


自分は24歳だった。



さすがに20歳の大学生とは恋愛はできないだろうと気持ちを抑えることに決めた。



挨拶が済んだところでお互い席についた。



彼女はバイト中終始、楽しそうに笑顔で会話してくれた。


自分の気持ちが出ていないか、と不安になるくらい、それだけ胸を弾ませていた。



午後10時。


アルバイトが終わり、戸締りをして玄関を出た。



商店街の中心で挨拶をして別れた。


「お疲れ様でした。今日はありがとうございました。」


そう彼女と所長にお礼を告げた。


彼女も続いて


「お疲れ様でした。これからよろしくお願いします。」と返した。


所長は「これから仲良くよろしくねー。」と声をかけて各々帰路についた。



アルバイト先から自宅までの帰宅途中、


スマホが鳴った。



横断歩道で信号待ちをしたタイミングで、画面を覗いた。


スマホの画面には「木村里紗から友達申請がきています。」と表示されていた。



――これは承認すべきだよな……。



一瞬、迷った。


このまま申請を承認したら



"二人の間で、なにかが始まってしまう。"



そんな予感がしてんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

この世界に必要なのは君だけでいい。 高良橋 @takarabashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ