仰げば尊し(スカートの中を覗きたい)

青キング(Aoking)

仰げば尊し(スカートの中を覗きたい)

 スカートの中を覗きたい。


 中井がその欲望を抱いたのは 高峰麗という女子生徒に同じクラスになってからである。

 高峰麗は中井が通う高校で一番の美少女である。黒髪を背中へ長く下ろし、慈母のような柔和な相貌で、さらにはスタイルも良く、所作にも他の女子とは違う上品さがある。

 それでいて特定の男子とは仲良くせずに誰とでも分け隔てなく接してくれる人格的に優れた美少女である。


 一方で中井はというと小柄で細身、性格的にもとりたてて褒めるところのない平凡な男子高校生だ。

 しかし、性癖だけは普通ではない。

 彼の周りがエッチな画像を見て鼻の下を伸ばしているのに比して、中井は女子のヒラヒラと揺れるスカートばかりを眺めている。

 歩くときにスカートの裾から出る太ももだとか、座るときに潰れないように手で払った時のスカートのはためきとか、とにかくスカートへの執着が凄まじい。

 そんなスカートへの異常な性欲を抱えながらも、世間体と道徳心に欲望を抑えつけれられ、中井は外側から見るスカートで我慢していた。

 だが外側からのスカートでは日に日に物足りなくなり、いつからか中が覗けてしまうアクシデントを期待して、高峰麗のスカートばかりを注目するようになっていた。



 そんな異常性癖に悩まされながら日々を過ごしていたある時、いつもより早い時間に登校していた中井は、偶然にも反対側の道端のバス停の横にいる高峰麗の姿を見つけた。

 高峰麗は品よく真っすぐに立ってバスの到着を静かに待っている。


 ふとしたことで吉峰さんのスカートの中が見えないかな。


 流し目で道の反対側にいる高峰麗を眺めながら中井は歩き過ぎた。

 通り過ぎる車の風で高峰のスカートが捲れるのを期待していたが、そう運良くはいかない。


「あ……」


 スカートから視線を外そうとした中井は、ふと高峰麗の足元に目が留まった。

 高峰麗は蓋をされた側溝の上に立っている。

 しっかりと確認しようと、中井は思わず足を止めた。


 間違いない、高峰さんは側溝の穴の上でバスを待っている。


 思い至った瞬間、中井の頭に天啓のような着想が生れた。


 あの側溝の下から見上げれば、高峰さんのスカートの中が覗ける!


「よしっ……」


 心高ぶる気持で高峰麗から視線を切り、いつもの通学路を進みながら至高で淫靡な計画を練り始めた。



 中井は一週間かけて登校時の高峰麗の行動を観察し、バス待ちの際の立ち位置が日によって僅かに半歩分ほどのズレはあれども側溝の上である確信を得た。

 計画を立案して煮詰めると、実行のために必要な用具を揃え、深夜に側溝に身体が入ることを確かめ、辺りの状況も偵察した。

 天気予報で二日続けて晴天になる日を待ち、機が訪れると実行に移った。


 計画の実行日。スズメさえも起きない早朝に中井はネットで取り寄せたつなぎ、目出し帽、軍手の格好になり、水分補給用のペットボトル、懐中電灯と時計を兼ねたスマホを携えて自宅を後にした。

 中井の格好には身割れの他に意図があり、側溝に潜り移動する際に両壁との摩擦が時折生じるため肌の露出を極力抑えたのだ。


 バス停に到着すると、高峰麗が立っていた場所から細い側溝を沿っていき、側溝の内で一番広い一メートル四方弱のコンクリート蓋のところまで来る。

 指関節を緩く動かしておいてから、蓋の隙間に指を入れて少し持ち上げた。

 地面に擦らないように蓋をスライドさせ、側溝に身体を押し込んで仰向けになる。

 側溝の内側から蓋を元に戻し、ゆっくりとうつ伏せになった。


 ここまでは順調だ。


 まずは側溝の潜り込みに成功し、中井は時を待った。

 


 四時間後、中井はスマホで時刻を確認すると匍匐前進の要領で移動を始めた。


 あと二十分ぐらいすれば高峰さんがバス停に来る。


 一応の余裕を持って中井は目的の場所まで側溝の中を進んでいく。

 妙な水の臭いとコンクリートの硬さに苦心や苦闘しながらも、やっとの思いで高峰麗が立つ側溝下まで辿り着いた。

 側溝の細かい格子状の穴からは微かに光が入り込み、高峰麗がまだ到着していないことが判然とする。

 仰向く際に両壁の摩擦を感じつつも、なんとか側溝の穴を見上げる姿勢になる。


 あとは、高峰さんが来るのを待つだけだ。


 大願成就が目前まで迫り、中井の高揚感が跳ね上がった。

 疲労と興奮で荒くなりそうな呼吸を努めて抑え、高峰麗の靴音を持して待った。

 そして数分後、ついに側溝の上に軽い足音が鳴った。


 来た――。


 側溝の格子の上にローファーの靴底とスラリとした脹脛が現れる。

 スカートの中が見える位置に首を動かす。

 が、靴底が思ったよりも広く、加えて高峰麗は股を開かずに立っているため、肝心のスカートの中が覗けない。


 しまった、高峰さんが真っすぐ立つことを忘失してた。


 舌打ちしたい気分で何度も首を左右に振り動かす。

 しかし中井の努力も虚しく、しばらくしてバスが到着した。


 ああ、高峰さんのスカートの中が。


 落胆しかけたその時、ふいに高峰麗がバスに乗り込もうと足を上げた。

 すると、ひらりと一枚の紙片が中井の顔に降ってくる。


 ふぉあああああああ。尊い、眼福!


 しかし中井は紙片には目もくれず、バスに乗り込む僅か数舜だけ見えた高峰麗のスカートの中を目に焼き付けて興奮した。

 出発時刻になりバスが動き出すと中井の口元がニヤリと緩めた。

 計画を終えて満足感に浸ろうとして、ようやく顔の傍に落ちている紙片に気が付く。

 紙片を手に取ると、コンビニのレシートだとわかる。


 何故、こんなものが落ちてきたんだろう。


 中井は疑問に思いながら何気なくレシートをひっくり返した。

 レシートの裏の何やら短く端整な文字の列が書かれてある。

 文字の列を見た瞬間、中井は高峰さんの筆致だと気がつき、文字の列を読んだ。


 中井さん、放課後に屋上へいらしてください。

 スカートの中を覗かれて、私ゾクゾクして身体が火照ってしまいました。


 中井は背筋が震えた。

 上品で奥ゆかしいことで評判の高峰麗は、スカートの中を覗かれることに興奮する異常性癖だったのである。

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