ランチョンランチャー

「では、手を合わせてください」

 佐江島のその言葉に僕は従う。

「……天に祈りを捧げ、今日も生きていられることに感謝し、いただきます」

 今、なんかそれっぽいことを言って格好付けている佐江島とのランチョンが開始された。ランチョンとは上品な昼食、または軽い昼食のことを指すらしい。まさに今の状態はランチョンと言えるであろう。上品な昼食を開始した佐江島(彼女が勝手にそう言っている)と、そんなつもりもなく、むしろいつもよりも軽いノリで、軽い昼食をしようとしている僕(弁当を忘れて購買でメロンパン一つしか買えなかった……)。

「それにしても、昨日は酷いで御座いましたね」

 喋り方は彼女なりの上品なのだ。

「え、あ、うん。昨日はごめんね。こうして今日一緒に食べられて嬉しいよ」

 ナフキンで口元を拭い、水を口に含み、ゆっくりと飲み込む佐江島。

「それはよかったで御座います」

 御座いますをつければ上品ということらしい。そういう上品ではないきがするけど。

「ところでさ、今日の放課後一緒にでかけない?」

「いいで御座います」

「やった。じゃあ、一緒に観たい映画あるんだけど、いい?」

「いいで御座います」

「もし予約取れなかったら今週末また一緒に行ってくれる?」

「もちろんで御座います」

御座います御座います。あー御座います御座います。はいはい御座います。ごずぁいむぁすぅ。

やめていただきたい。でも佐江島の性格上今日の昼はこの口調が続くだろう。それもまた、佐江島感があって良き。遂にそんなことを思うようになっていることにしみじみしていると、突然何かが顔に飛んできた。

ランチャーでもあったか? と佐江島のような思考回路で前を見ると、彼女が顔を赤らめている。

「ごめんしゃい……で御座います」

 どうやら、僕のしみじみとしている顔がランチャー佐江島(芸名ではない)の引き金(ツボ)を引いてしまった(刺激した)ようで、口に含んで上品に転がしていた梅の種を僕の顔めがけて発射してしまったようだ。

「あ、ああ、大丈夫」

「これじゃあ、ランチョン失格で、御座いますね……」

 しょんぼりしてしまったランチャー佐江島をなんとか励まそうとする。

「いや、梅の種の飛ばし方もとても上品だったよ」

 何言ってんねん。自分でもわけわからん。最近佐江島に侵食されつつある僕の思考。

「……そう? なら良かったで御座います」

 佐江島に侵食されつつある思考で対応したからだろうか、彼女の機嫌が戻った。良かったで御座います。

 こうして、ランチャー佐江島によるランチョンは幕を閉じた。

 放課後、僕らは映画館で。




 今回ばかりは本当に何が言いたかったのかよくわかりません。

 でも、なんかいい感じ……?


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