りっぷく、がんぷく

「もう、一緒に食べようって言ったのに!」

 佐江島が大声をあげた。教室だというのに、躊躇いなく大声をあげた。みんながこちらをみてるのに、大声をあげた。

「いや、ごめん。ちょっと忘れててさ、先に食べちゃった」

ねぇ、今日一緒にお昼食べようよ!

う、うん。いいよ

 ……今回ばかりは完全に僕が悪い。佐江島が数学の授業でわからなかったところを教えてもらいに先生を追っかけて教室を出て行っている間に、なんにも考えずにひとりで昼食を平らげてしまった。

「もういいよ!! いただきます!!」

 佐江島は強引に自分の弁当箱の蓋を開けて、豪快に箸でブロッコリーを取って、轟音のような唸り声を上げながらそれを口に運んだ。バガっ、バシっ、ぁ゛あ゛あ゛あ゛む!

「あの、ほんとにごめんなさい」

 もぐもぐした口のまま怒鳴り散らすかと思ったが、ちゃんとブロッコリーを飲み込んでから怒鳴り散らした。結局怒鳴り散らすのだが。

「あああん? ごめんなさいだってえ? ごめんで済んだら警察いらねえだろうがあ!」

 いや、この件において警察はいらない。だがそう指摘すればまた怒鳴り散らすのが目に見えているので止めておく。

「明日こそは一緒にお昼食べようよ、ね?」

 佐江島が怒っているときは怒りが収まるまで我慢することが大切だ。

「ふんっ。どうせ明日も忘れちまうんだろ! いいもん! ひとりで食べるもん! 孤独感を感じながら食べるもん!」

 こうなると一通り愚痴らないと佐江島は元に戻らない。だから口を挟まずにその愚痴を聞くことにする。

 ブツブツブツブツブツブツブツ、ブツブツブッタラブツブツブツ。ブツブツブツブツブッツッパス。ドンチャカドンチャカドンドンチャン……

 昼食を食べ終わると同時に愚痴も尽きてきたようだ。

「でぇ? 君は一緒にお昼食べたいの? 食べたくないの?」

 ここが教室だということを忘れてはならない。佐江島と一緒にいるには、多少の恥を晒す覚悟が必要だ。僕は、とっくの昔にその覚悟ができている。

「はい、とてつもなく、一緒に食べたいです。もう、毎日一緒に食べたいです」

 だから、クラスメイトが見ていてもへっちゃらだ。

「じゃあ次守れなかったらどうするぅ?」

 佐江島が顔を近づけてくる。近い。ヤバい。こんな時なのに、心臓が高鳴る。

 しっかりと目が合う。まるで、これから肉食獣に喰われる小動物のような気分だ。

「はい、えっと、次、守れなかったら、佐江島の、言うことを、なんでもききます、はい」

「本当にぃい?」

 そう言いながら更にぐいっと顔を近づけてくる。もう耐えられない。そろそろ心臓がもたない。佐江島と二センチくらいの距離しかない。

 注目するクラスメイトたちはコソコソなにか言っている。

 ああ、クラスメイトに恥を晒すことには覚悟ができていたが、佐江島に顔を近づけられて現れる恥ずかしさには覚悟ができていなかった。きっと今、僕は赤面していることだろう。

「ホントウデス」

 片言になってしまう。

 ふいにすっと佐江島の顔が離れる。

「そ、約束だからね?」

 死ぬかと思った。

「あ、はい。約束します」

 目を閉じて深く深呼吸をして、もう一度佐江島をみて、気づいた。

 佐江島も、少しだけ頬が赤く染まっていた……。






これは、何が言いたいのか、少しみえてきたような……

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