魔王さまは尊いのがお好き
タカナシ
「尊い! 尊い! 尊い! 尊い! 尊い! 尊い!」
いま、わらわの前には勇者パーティが雁首揃え、一矢報いようと無駄な足掻きをしておる。
「魔王の力がこれほどとは……、だけど、オレたちは負けないっ!!」
傷つき満身創痍な勇者がそれでも諦めず剣を構える。
うんうん。いいのぉ。傷つきながらも強敵に向かっていくその姿。まぁ僅かばかりの手心を加えるくらいには心を動かされるのぉ。
「ふむ。その粋や良し。気に入った! 勇者よ。わらわの仲間にならぬか? 仲間になるのならば、貴様の仲間たちの命は保証しよう」
圧倒的な力の差。このままでは確実に死ぬことは判る程の。
そんな中、持ち出された誰も死なない未来。そんな甘言断れるはずがなかろぉ!
わらわは勇者が迷い葛藤しながらも首を縦に振るのを待っていると、
「兄さんダメだ! 確かにボクたちじゃ勝てないかもしれない。でも、ここで少しでも魔王の力を削って次に繋げるんだ!」
勇者の弟の魔法使いが兄の手を取って説得する。
うわっ! 尊いっ!! 弟最高じゃぞ!!
心なしか顔も近い気がするし、これは弟×兄の展開じゃな!!
わらわが感動しておると、あろうことか部下の一人が好きありとばかりに魔法を放ちおった。
「あぶねぇ!!」
その瞬間、戦士が勇者と魔法使いの前に立ち、攻撃を受ける。
「「な、なんだとぉ!!」」
わらわと勇者の声がハモったが、そこは気にしないでおこう。
「ぐっ、うう、勇者。お前が悩んでどうする。俺はお前を選んだんだ。どんなときでも諦めないお前を。だから、前へ。どんなときでも前へ進むんだ」
勇者は戦士の手を取って涙ながらに叫ぶ。
「死ぬな! まだ回復魔法をかければっ!」
即座に弟は回復魔法をかけるが、戦士の傷は深く、治る気配はない。
「いいんだ。俺のことは俺が一番わかってる。魔力は取っておけ」
戦士の手から力が無くなり、ボトリと地面へと落ちる。
「戦士! ダメだっ! 目を開けろっ!!」
わらわは部下を粛清しつつ、その様子に涙を禁じ得ない。
まさかの戦士が勇者に片思い展開とはのぉ! しかも死別! 尊い! 尊すぎるじゃろ!!
しかし、わらわ、死別展開はそこまで好きじゃないから、あとで蘇生魔法をかけてやろう。そう考えていると、勇者パーティの最後の一人、格闘家が一歩前に出たかと思うと、瞬時にわらわとの距離を詰め、殴り掛かってきた。
「ふむ。無駄じゃということがわからんのか?」
虫を払うかのごとく、容易にその拳をいなす。代わりにこちらの拳を叩きこもうとした瞬間、格闘家の目に涙が浮かんでいるのが見えた。
「あいつが、勇者が悲しむ時間は自分が作ってやる!」
「ほぉ、友の悲しむ時間のためだけにわらわに向かってくるとは」
やばっ! こいつもこいつで尊いんですけどっ!!
「貴様自身はいいのか? 悲しむ時間くらいならばくれてやるぞ」
「自分はいいんだっ! あいつが、戦士が自分のことはいつも2番目にする奴だった。昔からそうだ! だから今も勇者たちをかばって。くっ。だから、だから自分が悲しむのも2番目でいいっ!! 勇者が立ち直ってお前を倒した後でいいんだっ!」
うぅわっ! ヤバイヤバイヤバイ。個人的には最推しなんですけどっ!!
カッコイイ! 尊い! エモいわぁ!!
これは是非とも、もっと格闘家と戦士のカップリングみたいわぁ。
しかも勇者と弟もついてくるのよね。いままで来た勇者パーティの中で断トツに尊いわぁ。これはもうやることは一択よね。
「良し。決めたぞ!!」
わらわは軽く格闘家を叩き伏せると、戦士の元へと向かう。
「わらわの部下が無粋な真似をした。これで許せとは言わぬが」
蘇生魔法を戦士へと施す。
「ごほっ、ごほっ!!」
戦士は咳をしながらも再びこの世に舞い戻った。
「貴様らはまだまだ実力不足よ。わらわの前に立つことすら時期尚早よ。はじまりの町からやり直すのだな」
わらわは勇者パーティ4人を瞬間移動させる。
※
「う、ううっ、ここは?」
勇者は周りを見渡すと、そこにはパーティメンバー、それと自分と弟が生まれ育った見慣れた町並みがあった。
「確か魔王と戦って……、転送されたのか? ハッ、そうだ。皆、無事か?」
勇者はパーティの無事を確認する。
「魔法使い、戦士、格闘家、それに使い魔、皆無事だな」
勇者はホッと胸を撫でおろす。
ふっ、ふふふっ!! 成功ね。わらわは勇者たちを瞬間移動させる前にちょいと細工をさせてもらって、使い魔が仲間にいるよう記憶を改ざんさせてもらったわ。
これで、使い魔という立場を利用して、尊いあんなシーンやこんなシーンを見放題!!
いや~、尊いって神だわぁ!
魔王さまは尊いのがお好き タカナシ @takanashi30
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