【KAC20218】俺は500年間おうち時間を過ごしていて特に不自由はしていなかったし、なんだかんだで楽しかった。だから、この尊さを感じる世界を破壊する必要はあるのだろうかと今更になって考えてしまった

@dekai3

どうするべきなんだ、高橋…

ガションッパンッ ガションッパンッ ガションッパンッ ガションッパンッ


[高橋さん、大丈夫でしょうか…]

『あいつなら大丈夫だろ。いつも最終的にはなんとかしてるし』


 地下鉄の終点とロボトピアの合流地点でパニッシャーと遭遇した俺達だったが、予め決めていた通りにパニッシャーの足止めは高橋と山本さんに任せ、俺とイトさんは二人で先行して【世界を変える物ワールドブレイカー】を破壊するべくロボトピア中枢へと向かっている。

 本当ならばもっと先でパニッシャーと遭遇する予定だったが、これぐらいはまだ想定の内だ。高橋という戦力が離れるのは痛いけれど、上手くいけば一気に形勢を逆転出来るんだからやってみる価値はある。


ガションッパンッ ガションッパンッ ガションッパンッ ガションッパンッ


 ちなみに、この音は俺が操っている重量逆間接二脚の一見カエルのようなロボットが跳ねながら進んでいる音である。

 ロボトピアは最早人間が住む環境にはなっておらず、ロボット達はドローンに掴まって飛んだり、行先に向かって射出されたりして移動しているらしい。つまり、道という物が基本的に無いわけだ。だからこそジャンプを移動の基本にしたこのカエル型のロボットでロボトピアの中枢へ向かっている。

 中に人間を入れる事を想定していないので普通に歩くよりも圧倒的に早く跳びはねる事が出来るという、コアユニットだけの俺と人間ではないイトさんだからこそ出来る移動手段だ。まあ、高橋もなんだかんだで耐えそうだし、山本さんも幽霊だから大丈夫だろうけど。


『しかし、本当に変わってしまったんだな、俺が居た街は…』


 地下鉄の線路から地上へと上がり、俺が500年間ずっとおうち時間を過ごしていた部屋があっただろうロボトピア中枢の一角を眺めながら、俺は独り言ちる。

 俺が知っていたビルやマンションなんかは全て無くなっており、そこにあるのはやけに尖ったり逆に球体だったりする建造物ばかりで、それぞれがケーブルなんかで繋がっていて、赤や青の鈍い光を放っている。

 まるでコンピューターの基盤をそのまま大きくしたかのような外見で、その中心には高い塔がそびえて居る。あそこがロボトピアの中枢であり、あの中に俺の部屋があった。そして、俺はこれからそこに戻らなくてはならない。


[ジャミング機能は正常に作動している模様です。今のうちに行きましょう]

『ああ、まずは俺のパソコンからデータをサルベージしないとな。あの戦いで壊れて無けりゃいいんだけど』


 まずは【世界を変える物ワールドブレイカー】を破壊する前に俺が住んでいた部屋に行き、部屋中に張り巡らせた記憶装置から【世界を変える物ワールドブレイカー】のデータを引き抜く事になっている。

 単に【世界を変える物ワールドブレイカー】を破壊すれば世界が元通りになるという訳では無いので、一旦は【世界を変える物ワールドブレイカー】を破壊する前に今後俺達が住みやすい環境になる様に使用し、それから破壊すると言う手順だ。

 その為にはまず【世界を変える物ワールドブレイカー】の根本システムを変更する必要があるので、データが残っている事を信じて俺が住んでいた部屋へと戻るのだ。

 しかし、体を機械にしてしまったからか、俺にとってこのロボトピアの後継は文明が崩壊している外の世界と比べたらとても尊い物の様に見える。

 ここには人間が存在せず、全てがAIで管理されたロボットしか存在していない。つまり、争いや貧富の差という物がそもそも存在しない世界なのだ。そりゃあ人間が住んでいない街に意味があるのかと言う意見もあるかもしれないが、結局は人間もロボットも脳内の電気信号によって意思の確認を行っているだけであり、そこが有機物を元にしているか無機物を元にしているかの違いしかない。

 つまり、ロボットを人間ではないと判断する事は難しく、ロボットも人間であると考えれば、この街は完璧に整えられた人間が暮らす街と言っても差支えが無いのだ。

 そもそも、俺は500年間ずっとおうち時間を過ごしていて特に不自由はしていなかったし、仕事をしているのもなんだかんだで楽しかった。だから、この尊さを感じる世界を破壊する必要はあるのだろうかと今更になって考えてしまった。


[五十島さん…? どうされました?]


 そんな俺を心配してか、イトさんが声をかけてきた。

 この思いは俺が俺自身と街に向けた物なのでイトさんのサイコメトリー能力は発動していないらしい。もしも聞かれていたらと思うと怖い物があったが、どうやら大丈夫な様だ。


『いや、なんでもない……高橋と山本さんに頑張って貰って居るんだ。俺達も頑張らないとな』

[はい。必ずや世界を元に戻しましょう]


 俺は先程までの考えを一旦振り切り、ジャミング装置が効いているのを確認しながら慎重にカエル型ロボットで飛び跳ねて進む。


 そしてふと思う。

 そう言えば、俺はずっと他人の指示に従って行動ばかりしてきたなと。

 この世界をこんなにしたのも、逆にこれからこの世界を破壊するのも、どちらも俺の発想ではなく、誰かに従って動いた結果だと。

 今さらどうしようもない事だが、ただの等身大フィギュアであったイトさんがこうしてしっかりと自分の意思で動いているのを見ると、俺はこのままでいいのかと考えてしまった。

 今はそんな事を考えている場合でも無いし余裕でも無いのだが、メイン頭脳でロボットを動かしずつも、サブ頭脳はずっとこの事について考えてしまっている。


 なあ、俺はどうしたらいい? どうするべきなんだ、高橋…

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