会いに行きます

「ねぇ!ねぇってば!聞いてる?」詩織が大きな声で聞いてくる。私はハッとした。

「牧大丈夫?ここ最近全然仕事も捗ってないらしいし、何より元気ないじゃん!」詩織が心配してくれる。「聞いたよ、上司にいつも怒られてるんだって、そのせいなの?」

「ううん、もう慣れてるから大丈夫だよ」そう言い返した。「お昼休みにちょっと相談にのってくる?」




「相談ってなに?旦那のこと?」詩織は鋭い。詩織には相談する前に何についてなのかすぐ当てられてしまう。

「うん、プロポーズされた次の日から1回も見てないし、仕事にも来てなくて、心配で。」じゅん君は私が家にいるときは帰ってこない、仕事にも来ていない状態だった。私がそう言うと詩織は暗い表情になった。

「牧、旦那と離婚はしないの?」いきなりのことだった。じゅん君が帰ってくれる作戦みたいのを提案してくれると思っていたが違くて驚いた。「牧には辛い恋をしてほしくない、今の状態が続くなら離婚するべきだと思うよ」そう詩織はアドバイス的なことをしてくれた。私も今は辛い。こんなことになるなんて予想してなかったから。でも私とじゅん君にしか分からないこともある。だから、「まだ離婚はしない。私はじゅん君を愛してるから」私はじゅん君を信じてる。きっと帰ってきてくれることを。





それからは地獄のような日々だった。毎日上司に怒られることは変わらなかった。でも怒られたあと励ましてくれる人がいなくなった。それだけじゃない、相談にのってくれる人がいなくなった。なんのために頑張っているか分からなくなった。ドキドキがなくなった。いえばキリがない。私はじゅん君を人生の基準にしているんだといなくなってから気づいた。

帰り道では毎日「ここはじゅん君と帰った道だ。」、「ここで初めてキスしたな」とかつぶやきながら帰っている。私は帰り道に大泣きした。じゅん君がいない日々は耐えられない。

「探そう!」私はそう決意した。それからの行動は早かった。家に着くなりすぐに辞表を書き始めた。一応大好きな仕事だったけどじゅん君に再会するためだったら辞める。




〜翌日〜

私は辞表届を上司に出すより先に詩織に報告した。「私、じゅん君を探しに行く」そう言った。「牧、聞いて」詩織が口を開いた。

「牧には言わないようにしてたけど、じゅん君…」

詩織はこの後少しためらった。

「じゅん君はもういないよ」、「じゅん君は死んだよ」詩織は変なことを言っている。つまらない冗談だ。「詩織、何言ってんの?」少し腹が立った。「辛いよね、プロポーズされた日の帰りに殺されちゃったんだから」そう言った。

「やめてよ!」私はついに怒った。

「思い出して、牧!じゅん君はもう帰ってこないの!」私は思い出してしまった。

プロポーズされた帰りに私とじゅん君は通り魔に出会ってしまった。じゅん君が私をかばってくれた。そしてじゅん君だけが死んだ。私だけ生きてしまった。

「謝らないと」言葉がでた。

「牧は死んじゃダメ!じゅん君が繋げてくれた人生なんだから!」詩織はそう言ってたらしいが私の耳には届かなかった。私は早退を告げずに外に出た。私は無意識にコンビニに走り出していた。ロープを買った。それからの段取りは早かった。ロープで輪を作った。

「あっ、遺書を書かないと」詩織に感謝の気持ちを伝えていなかった、じゅん君に謝罪の気持ちを伝えないと。白紙の紙にペンを振るおうとした。あれ?私は驚いた。何を書けばいいのか分からなかった。伝えたいことはある。でもどうやって文字で表せばいいのか分からなかった。これが文字では表わすことが出来ない気持ちと言うのだろうか。私はすごく悩んだ。10時間以上悩んだだろう。日は暮れて月が昇っていた。「やっと書けた」私は知っている言葉で何とか書き表せた。最後にあと1つやらないと。

月の光が窓から入り込んでスポットライトが当たっているように感じた。今日の夜は私が主役だ。じゅん君に会いに行きます。

天井に吊るされている輪に首をかけた。



[完]

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