第6話 推しに願いを! 追加戦士の登場フラグ!? 前編
「それで、探したけれど、結局見つからなかった……、ってこと?」
朝の一部始終を話すと、あおいちゃんとことねちゃんは、ちょっと気遣わしげにこちらを見てきた。
うぅっ……、二人とも、優しい。
「うん……。もうどこに行っちゃってるかわからないんだけど、二人にも探して欲しくて……」
あんだけ張り切って探したのに、どこにもいなかった。
あの赤い妖精は、本当にすばしっこかった。
今頃どこにいるんだか……。
「いいよ。新しく仲間が出来るかもしれないんだから」
「休み時間も探してみようよ!皆で探せば、絶対見つかるよ!」
「ありがとう、二人とも~……」
アニメの展開とは完全に違うから、探すべき場所すら検討も付かない。
何でもやってみる価値はある。
「ベガルンとシリルンも探すベガ」
「授業中はシリルン達で探すから安心するワフ!」
「ポラ~!」
三匹の妖精達は、それを言い残して早々に立ち去った。
――、かくして、私達の長い一日は、始まったのである。
授業中はポラルン達に任せ。
授業と授業の合間の休み時間は、トイレや教室の周り、窓の外を探し。
移動教室の時は、移動中にも色んなところに目を配って。
ポラルン達も授業が終わる度に、どこを探したか報告をしに来てくれて。
そんなことをしているうちに、昼休みになった。
「……、み、見つからない……!」
学校の屋上の休憩スペースのベンチで、私は頭を抱えた。
もっとすんなり捕まるかと思っていたけれど、意外と見つからない。
いや、妖精自体も小さくてすばしっこいし、この学校だけじゃなくて、既に街の方にも行っちゃっているのかもしれないけれど。
でも、でもですよ?
こういうのの『お約束』って、だいたい主人公達の近くにいるもんなんじゃないですかね……?
「元気出しなよ、あかりん。放課後も探してみよ?」
「そうそう。あたしも今日は放課後部活ないから一緒に探せるし」
ぽんぽん、とあおいちゃんとことねちゃんが両側から優しく肩を叩いてくれる。
「それに、シリルン達だって、あたし達を見つけてくれたじゃん。だから、その妖精の子も、自分に合った子を探しに行ってるのかもしれないよ?」
「そうそう。もし見つけて、ウチらみたいに変身したら、遅かれ早かれ、一緒に戦うことになるかもしれないし。そこら辺、あんま心配しなくてもいいんじゃない?」
……、そうかもしれない。
確かに、『マジカル☆ステラ』の第一話目も、現に、前世の記憶を思い出す前も、ポラルン達はちゃんと現れてくれたから、心配はいらないのかもしれない。
しかし、そんな淡い希望を、ポラルンは見事に打ち消した。
「それはダメポラ」
「どうして?」
桃色の熊は首を横に振る。
青い犬が、代わりにあおいちゃんの疑問に答えた。
「シリルン達があおい達と契約した時は、まだメテオリトとの戦いが始まったばかりの時だったワフ。だが、今は、メテオリトとの戦いも進んでいるワフ。こんな時に、生まれたばかりの星の妖精がそこいらをうろついて見ろワフ。ヤツに見つけ出されてしまったら、あっという間に終わりワフ」
なるほど。そういう可能性もあるのか。
……、メテオくん、だからなぁ。そういうことはあんまりしないって信じたいけど……。あの子、自分の国を背負って戦っているからな……。今のところ私達に全敗しているわけだし、あの妖精を人質に取って仕掛けてくることも想定しないわけにはいかない。
「だから、ベガルン達がちゃんと迎えに行ってあげなきゃいけないベガ。ベガルン達は、パートナーがいないと、ただのか弱い妖精ベガ」
黄色い鳥が、ぱたぱたと羽を羽ばたかせて、ことねちゃんの肩に乗る。
……、これは、ますます不安しかない。
「それじゃあ、早く見つけてあげないと……」
がっくりと肩を落とすと、ことねちゃんが、ベガルンを振り落としそうな勢いで手を挙げた。
「はいはーい!任せて!ウチにいい考えがあるの!」
ことねちゃんが、ウィンクをして、笑った。
――、そして、放課後である。
「ふっふー!腕によりをかけて作っちゃった!」
ことねちゃんが胸を張って、腰に手を当てて笑う。
ここは、調理室。
そう。料理部の、居城である。
「クッキーでしょ、マカロンでしょ、スポンジケーキに、ドーナツ!」
調理室のテーブルの上には、ことねちゃんが作ったお菓子が置いてある。
どれも可愛らしい見た目に、美味しそうな甘い匂いがして、プロじゃないかと疑うぐらいのクオリティだ。
ことねちゃんの腕前は知っていたけれど、改めて開示されると、やっぱりすごいものだと感動してしまう。
隣のあおいちゃんも、ポラルン達も、目をキラキラさせてお菓子達を見つめている。
「これ、食べていいの……?」
「どうぞどうぞ!皆で美味しく食べれば、あの子だって見に来るでしょ!」
――、ことねちゃんの「いい考え」とは、ズバリ、「美味しいお菓子で、妖精をおびき寄せる」ことである。
無闇に探し回るよりも、お菓子の良い匂いと一緒に皆が和んでいる雰囲気を作り出し、そこに誘われて来るのを待つ、というものだ。
実際、あの妖精は、ポラルンがちょっと声を上げただけで、びっくりして逃げてしまったぐらい臆病だったので、これは妙案かもしれない。
「特にね、このドーナツ!アスカさんのお店のドーナツを真似してみたんだー!どうかな?どうかな?」
身体を乗り出して見てくることねちゃんに勧められるがままに、星型のドーナツを手に取った。
ステラドーナツの真似をしているだけあって、見た目も可愛く、凝っている。
一口頬張ってみると、既製品よりは幾分か素朴な味だったが、それでも、個人で、それも中学生が作ったにしては、かなり再現度の高い味が口に広がった。
「おいしいよ、ことねちゃん!」
「よかったぁー!それ、一番頑張ったんだよね!」
「レグゥ!」
…………、ん?
何か、聞き覚えのある鳴き声が。
「レグ?」
一瞬にして、皆が凍りついたように黙る。
そして、声のした方に、ゆっくりと顔を向けた。
甘く、可愛らしいドーナツとドーナツの間に。
小さな前足に、かじりかけのドーナツを抱え。
こてん、と小首を傾げて。
こちらを不思議そうに見ている、手のひらサイズの赤い獅子型妖精が、いた。
推しを殴るなんて出来ません! いんこ @incocco
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