第6話 推しに願いを! 追加戦士の登場フラグ!? 前編 その1

 「マジカル☆ポラリス」の舞台は、「流火市(ながれぼし)」という街である。

 最初に聞いた時は、マジで本当になんて安易な名前なのかと思ったけれど、名前通り、この街は流星群が他よりも多く見られるところらしい。

 実際、今夜も、流星群が観られるとかなんとかテレビで言っていて、あかりちゃんの妹であるほむらちゃんがめちゃくちゃはしゃいでいた。


「おねえ!流星群!見えた!?」


 部屋で寝る準備をしていたら、突然扉が開いて、ほむらちゃんが弾丸のように入ってきた。

 普段はあかりちゃんよりもしっかりしていてクールなキャラなのに、こういうところは歳相応で本当に可愛いと思う。

 確か、五歳歳下の、小学四年生だ。


「見えないよ。……、っていうか、流星群って夜中じゃなかったっけ?明日も学校なんだから、早く寝た方がいいよ」

「えー、嫌だ。起きてるよ。願い事がしたいもん」

「でも、流れ星って、とっても流れるのが速いから、願い事なんてする暇、ないんじゃないかな?」

「たくさん流れてれば、そのうち一個には絶対引っかかるもん!」

「あー……、なるほどね」


 確か前世でもその戦法で一生懸命願い事してる人とかいたような気がする。

 もうね……、人生二週目だと、流れ星云々じゃ人生どうにもならないって知ってるから、ここまで熱くはなれないんだけどね。それよりきちんと寝た方がどれだけ次の日に身体の負担がかからないか……、なんて、前世社畜は考えてしまう。夢がないよね、まったく。


「あ、おねえ!今、流れ星が!」

「え?」


 振り返って部屋の窓の外を見てみるけれど、当然、星なんて流れていない。

 流れていたとしても、指摘された時点で見ていないと、だいたいは既に消えている。


「あー、おねえ残念!赤い流れ星だったんだけどな!」

「へぇー。ほむらは運がいいね」

「へへっ。今日はたくさん星を見るんだから!」

「ほどほどにね」

「はーい」


 いいお返事をして、ほむらはぱたぱたと部屋から出て行った。

 さてと、人生二週目の私は、そろそろ寝ますか。

 どちらかというと、願うより叶える側だからね。




 ――、と、あのほのぼのとした夜の穏やかさはどこへやら。


「起きるポラー!あかりー!」


 翌朝、ポラルンの大絶叫で起こされた。

 顔にピンクの手のひらサイズの小熊分の重さがかかって、それはそれで地味に重い。


「な、ななななに!?」


 勢いを付けて起き上がると、ポラルンがポテっと可愛らしい音を立てながら転がり落ちていった。

 時計の時刻は朝の五時。


「まだ全然早いじゃん……もう一回寝るね。おやすみ……」

「だめポラ!起きるポラ!」

「うわぁ!」


 布団にリターンすると、また小熊が顔にまとわりついてくる。

 しかたがないから、もう一度重い身体を起こしてポラルンと向き合った。

 昨日、流れ星のために夜更かししなくて本当に良かった。

 やっぱり早寝早起きって大事だよね……。なんか泣けてくるけど……。


「いったいどうしたの……?」

「新しい星の妖精の気配がするポラ!探すポラ!」


 ――、眠気が、一瞬にして消し飛んだ。


「ま…………、待って。待って待って待ってポラルン」

「どうしたポラ?ポラルンはここにいるポラ」

「えっと、違っ……違くて……。ちょっと待って」

「あかり、どうしたポラ?」


 無邪気に首を傾げるポラルンに、動悸息切れ気付けを起こしそうだ。あと目まい。


「それって、ポラルン達みたいなやつ?」

「そうポラ!」

「ってことは……、追加戦士?」

「ポラ?」

「新しい『マジカル・ステラ』の子が増えるってこと?」

「そうかもしれないポラ!」


 ――、おかしい。

 『マジカル☆ステラ』には、追加戦士はいなかったハズだ。

 スタッフも、「あかりとあおいとことねの三人が仲を深めていく話をやりたい」みたいなことを雑誌のインタビューで語っていたぐらいだし。

 実際、『マジカル☆ステラ』は最初から最後まで、あかりちゃんとあおいちゃんとことねちゃんの三人だけだった。

 どういう、ことだ……?


「早く探しに行くポラ!生まれたばかりだから、きっと心細い想いをしているに違いないポラ!」

「レグゥ~!」

「い、痛い痛い!わかったから!」


 ポラルンがポカポカ殴ってくる。もふもふしているけれど、何気に痛い。

 隣に浮かんでいる赤い子も、ポラルンに同調して、なんだか急かしているようだ。

 ……、あれ?


「どうしたポラ?今日のあかり、ちょっとおかしいポラ!」

「あ、あの……、ポラさんや」

「ポラさんって、ポラルンのことポラ?」

「隣の子……、もしかして……」


 私の視線を追うように、ポラルンは自分の隣を見る。


「レグゥ!」


 赤い子は、上機嫌に返事をした。

 四足歩行で、たてがみみたいなものが顔の周りに付いていて……、これは、ライオン?


「こ、この子ポラ!」

「レグッ!?」


 ポラルンが声を上げると、ライオン型の妖精は驚いて飛び上がる。

 そのままものすごい勢いでポラルンの傍を走り抜け、開け放されていた窓の外から出て行ってしまった。


「は、速い……!」

「急ぐポラ!早く探すポラ!」

「あ……、は、はい!」


 再びポラルンにポカポカ殴られ、ベットから出るように急かされる。

 …… 傍から見れば、完全に妖精にいい様に使われている主人公の図だった。

 ヒーローってブラックですよね……。うん……。




「おねえ?こんな時間になにしてんの?うるさいんだけど」


 着替えて部屋を出ると、パジャマ姿で寝ぼけまなこなほむらちゃんが、あくびをしながら立っていた。


「あー、ごめん、ほむら」

「っていうかジャージに着替えてなにしてんのさ」

「……、ジョギングに、行ってこよっかなって!」

「ふーん。普段全然運動しないのに、珍しいね」


 うん。姉に対してこの塩対応。いつも通りのほむらちゃんだ。

 クール、というか、むしろ辛辣なんだけど、これがほむらちゃんのデフォである。反抗期なのかもしれない。


「ほむらこそ、まだ布団で寝てればよかったのに」

「……、赤い流れ星が、見えたような気がしたから」

「え?」


 赤い流れ星。

 そういえば、昨日の夜も、そんなことを言っていたような。


「な、なんでもない!早く行ってくれば?」


 しっしっと虫でも追い払うように手で払われる。

 おねえがグッピーじゃなくてよかったな。じゃないと昨日の夜との温度差で死んでたぞ、多分。


「うん!行ってくるね!」


 相変わらず眠そうなほむらちゃんに手を振って出て行く。

 家から少し離れた人気のないところで、ポラルンに呼びかけた。


「……、ねぇ、ポラルン」

「どうしたポラ?探しに行かないポラ?」

「新しい『マジカル・ステラ』の子って、もしかして、ほむら?」


 ――、『マジカル☆ステラ』は、星がモチーフの子ども向けアニメだ。

 ポラリスは北極星でこぐま座だし、シリウスは天狼星でおおいぬ座だし、ベガは織女星でこと座だし。

 アニメの初回では、ポラルン達がそれぞれの色をした流れ星になって、この「流火市」にやってくるシーンから始まった。

 そして、あかりちゃんもあおいちゃんもことねちゃんも、それぞれその流れ星を見ているのだ。もちろん、アニメだけではなくて、前世の「私」の記憶が戻る前のあかりちゃんも。


「……、それは、まだわからないポラ。ほむらとあの子が直接会って、あの子がきちんと認めれば、『マジカル・ステラ』の戦士になれるポラ」

「まだ確定事項じゃないってことか」


 でも、ここまで符号が合えば、間違いないのではないだろうか。


「ちゃんと、捕まえなきゃね……」


 なにはともあれ、アニメにも出ていない追加戦士となれば、ちょっと興奮してくる。

 多分……、全ては私が必殺技を無理矢理ねじ曲げた現象から起きていることなんだろうけども、メテオくんの消滅を避け、なおかつ、この世界を助けられるのなら、人手が増えるに越したことはない。


「よし、行くよ、ポラルン!」

「一緒に探すポラ!」


 絶対に見つけて、ほむらちゃんに会わせよう。

 ほむらちゃんが「マジカル・ステラ」の一員になるなら心強い。

 何より、どんな衣装で、どんな風に戦うのかが、とっても楽しみである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る