アイスをどうぞ
午前の講義が終わって、私はまた来てしまった。昨日の公園に。しかも、何故かアイスを二つ買って。
ベンチの方を見ると、ちんまりと歩美が座っているのが見えた。なんだか、約束をしていたみたいだ。わざわざ会いに来たみたいで気恥ずかしい。でも、あそこに座っているってことは歩美の方も同じように思っていたとか……?うぬぼれているみたいだから考えるのはやめよう。
「あ、お姉さん!」
近寄ると、すぐに立ってこっちに手を振ってくれた。その顔はとても嬉しそうで、こっちまで危うく同じように手を振ってしまいそうになる。私そんなキャラじゃないっての。
「買いすぎたから、あげる」
コンビニの袋を掲げて言うと、歩美は更に表情を輝かせる。なんだ、そうしてると普通の子供みたいじゃん。と思いきや、瞬時に表情を切り替え、からかうような口調で言ってきた。
「丁度二つ……お姉さん、歩美と食べるために買ってきてくれたんだね」
「ち、違うし。本当に買い間違えただけだから」
「怪しい~」
「と、とにかく、溶ける前に食べるよ」
「はーい」
アイスを渡してベンチに腰掛けると、なんだか不思議なくらいにしっくりとくる。歩美とは昨日会ったばかりだし、ここでこうするのも二回目なのに。
「うーん、おいしい」
少し大げさすぎるくらいに美味しそうに食べる横顔を見ると、心がほかほかしてくる。なんなんだこれは。何かを振り払うように、急いで自分のアイスを食べ始めた。昨日と同じアイスなのに、今日の方が美味しく感じるのは気のせいだろうか。
「お姉さん、友達いないの?」
突然聞かれて、思わずむせそうになる。
「べ、別に……」
「あ、いないんだ-」
「そっちこそ、私なんかとここにいるより、友達と遊んだ方が良いんじゃないの」
「そんなことないよ。私にはこっちの方が魅力的」
きっぱりと言う歩美の瞳は、嘘を言っているようには見えなかった。いや、実際いなかったとしても、この子なら強かにやっていけそうだ。
「それに、お姉さん面白いんだもん」
「どこがよ」
「クールぶってるのに、実は優しくて照れ屋なところとか。あと、歩美の魅力にメロメロなところとか」
なんだか見透かされているみたいで、自分でも分かるくらいに動揺してしまう。
「そ、そんなわけないでしょ」
「えー。だって、今日だって歩美と食べるためにアイス買ってきてくれたじゃん。それって、歩美と過ごしたかったってことでしょう?」
「ちが……偶然だよ、偶然」
「明日も、明後日も、きっとお姉さんは買い過ぎちゃうんだろうな~」
「そうとは限らないかもよ」
自分でも思っていないことを口にすると、歩美は少し潤んだ瞳でこちらを見つめてきた。
「お姉さん、歩美のこと好き?」
「べ、別に……」
「じゃあ、もっと歩美と一緒にいたい?」
「それは……確かに、まあ、そう思う」
「なら歩美のこと好きじゃん~」
なんだか上手く誘導されたみたいで不服だ。でも、なんでだろうな。このままこの時間が続けば良いと思ってしまうのは。明日もアイス買ってくるか、余分に。多分、これからも。……暑くなくなったら何にしようか。
アイスをどうぞ 星乃 @0817hosihosi
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