第13話 帰還

 地図アプリを開いて、目的地であるきさらぎ駅周辺へと向かう北原。

 周りは高層ビルに囲まれており、ここが大都会であることを痛感させられる。

 そしていよいよ目的地に到着する、そんな時だった。


「すくいてゅめえ!」


 誰かの声が聞こえてくる。

 北原が振り返ってみると、そこには警察官が何百人と立っていた。

 北原は翻訳で、内容を聞いてみる。


『貴様は神社生まれのJと名乗る危険人物と接触し、そのうえ特定時空間転移研究法に反対するデモに参加した。これは重罪である!ここでおとなしく捕まれば、痛い思いをしなくて済むようにしてやる』


 そんなことを言っていた。

 そこで北原は次のように返答する。


「自分は捕まる気はこれっぽっちもないです。早く目的地に到着して、この世界から消えるつもりです」


 そんなことを言うと、警察官の群れはザワザワしだす。


『貴様は自分の立場が分かって言っているのか?我々の戦力の前に、たった一人で戦いを挑むとはな』

「無謀だって言いたいんですか?」

『もちろん。貴様のようなやつは、さっさと研究所に収容されるのがお似合いだ』


 一瞬にらみ合いが発生する。

 北原はすでに覚悟を決めていた。


『突撃!』


 警察の幹部の一声で、警察官が一斉に北原の方へと押し寄せてくる。警棒を持って突撃する者、拳銃で狙いをつけながら走ってくる者など、様々だ。

 それに北原は対処しなければならないのだ。

 しかし北原は冷静だった。

 自分のやるべきことが分かっていたからだ。


「身体強化!」


 術式展開アプリに音声入力をする。

 これで、警察官の群れから簡単に逃げることができる。

 北原は目的地に向かいながら、次の手を講じた。


「強力なレーザービーム!」


 スマホの画面から、青い光が照射された。

 そのビームは、100Wという高出力を誇る。

 それを浴びた警察官は服の一部が焼け、目に当たった者は失明していく。

 しかし、それでも簡単には警官の波を抑えることはできない。

 そこで北原は別の手段を用いることにした。


「レーザービーム解除!火炎放射!」


 すると、レーザービームの照射が止まり、代わりに火炎放射がスマホからなされる。

 ジェル状の燃料に火がともされ、それが高速で警察官に降りかかる。

 これによって、警察官たちは大規模に体を焦がされていく。

 その間に、北原は身体強化によって得られた強さを生かして、目的地へと急行する。

 その場所は、東京駅丸の内広場にも似ている。

 肝心のきさらぎ駅は、現実の東京駅と同じように、レンガ造りを基調としている巨大な駅であった。

 その駅前に広がる広場は、床面が大理石のような石畳で覆われているのが分かる。


「まずは画像を用意しないと……」


 北原は、来た時と同じようにあの図形をメディア欄から探す。

 幸い、画像は一番上に存在していたため、そのまま画像をタップする。

 すると、スマホの画面が突如として光り輝きはじめ、そのまま天を貫かんとする一筋の光線が発射される。


「おわっ!」


 思わずスマホを手放してしまう北原。

 すると、スマホを中心としてあの画像が石畳に投影され、そして拡大していった。

 北原は、その画像の端から逃げるように、後ろへと下がる。

 その時、遠くの方から警察官が大群として押し寄せてきていた。

 北原に残された時間は少ない。


「行くしかないのか……」


 北原は覚悟を決める。

 その覚悟を決めたとき、あの図形は突如として黒くなり、深淵をのぞかせるような大きな穴を形成した。

 その時、迫撃砲のようなものが飛んできて、穴の中に入っていった。

 どうやら追手がすぐ近くにまで迫ってきているようだ。

 もう時間がない。

 北原は、穴の端から数歩下がり、そのまま勢いよく穴へと飛んだ。


「うぉぉぉ!」


 そして穴に落ちると同時に、北原の意識が遠のいていく。

 しばしの空白。

 北原が次に目を覚ましたのは、自室のベッドの上であった。

 手元にはスマホが握られており、時刻を表示している。

 時間は、北原がタットワの技法を行ってから1時間程度しか経っていなかった。


「夢……?」


 そう思い、スマホの画像を眺める。

 すると、見覚えのない、黒い画像がいくつもあることが分かった。

 その画像の詳細を確認してみると、数字がバグっているのか、何が書かれているのかよく分からない。

 そしてその他スマホに異常がないのか確認していると、あるアプリを見つけた。

 そのアプリの名は「術式展開アプリ」であった。

 あの時Jさんに導入されたアプリだ。

 北原はなんとなく、そのアプリを起動した。

 その瞬間、ビープ音が鳴り響き、真っ黒な画面に赤い文字が表示される。


『お前を見つける』

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冗談だと思って異世界に行く方法を試したらマジで行けちゃった~タットワの技法は本当だったらしい~ 紫 和春 @purple45

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