第12話 再会
視界が真っ白になった北原は、意識を保つことに集中する。
そして視界が通常に戻る。
しかし一瞬まぶしい光を浴びた北原は、しばらく手で視界をさえぎるような状態だった。
周辺の様子が見えるようになったところで、北原は周囲の様子を確認する。
すると、そこはどこかの山中のようであった。
地面にはスマホの画面に表示されているのと同じような術式が白い何かで書かれている。
北原が周囲を見渡してみると、遠くの方で複数の煙が上がっているのが見えた。
北原はあたりを散策しようと、一歩後ろに下がったときである。
何かが足元に転がっていた。
その何かを見ようと、北原が振り返る。
そして驚愕した。
その何かの正体がJだったのだ。
「Jさん!大丈夫ですか!?」
思わず北原はJの体を起こす。
「あぁ、お前さんか……」
Jは力なく言う。
体中傷だらけで、限界の状態であることが分かる。
「一体何があったんですか!」
「あの後村を必死に守ろうとしたんだがな……。どうにもならなかった……」
「そんなことよりもJさんが!」
「俺のことはいい……。今はお前さんが元の世界に戻るのが先決だ……」
「でもJさんがいないと何もできないじゃないですか!」
「問題ない……。そのための術式展開アプリだ……」
そういってとある紙を渡してくる。
「とある場所までの行き方を書いた術式のメモだ……。これを使って、この世界から帰れ……」
「Jさん……」
そういって紙を受け取る。
「その場所はお前さんの世界で東京駅に似た巨大駅だ……。エネルギーが集中しているから世界をつなぐ穴を作るには最適の場所だ……。駅の名前はきさらぎ駅……」
そういうと、Jさんは口から血を吐く。
「ここもそのうち危なくなる……。お前さんが最後に帰す人間になってしまうとはな……」
「そんな……、Jさん……」
「さぁ、早く行け。俺の意思を無駄にするな」
そういって北原のことを押しのける。
その意思を受け取ったかのように北原は立ち上がり、そして山中を歩み始める。
「生きろよ、北原」
その言葉を最後に、Jは完全に倒れ込んだ。
一方、Jから紙をもらった北原は、歩きながらメモの内容を確認する。
『まず「あふきねするぐりょ」と唱え、移動する。大通りに出るはずだ。
次に術式で地図を表示させ、大通りを西に向かう。
そしてレンガ調の大きな建物が見えたら、その前の広場で
お前さんがこの世界に来た方法を行う。
これで無事に帰れるはずだ。』
このように殴り書きされている。
まずはこの手順通りに行うことにした。
最初はこの呪文を唱える。
「あふきねするぐりょ」
すると、Jの前に現れた時と同じように、視界が真っ白になった。
一瞬浮遊感を覚えたが、次の瞬間には収まっていた。
北原が周囲を確認すると、そこは大通りのようだ。ここまで、Jのメモ通りになっている。
そして北原は術式展開アプリに音声を入力する。
「地図表示」
すると、画面の上の空間に、ホログラム状の地図が表示される。表記されている文字は北原にも読めた。
ここから西の方角に進むということで、地図を確認し、そちらの方向へと歩みを進める。
しばらく歩き続けた。とは言っても何時間というレベルだが。
すっかり夜になり、眠気が限界に近づいていた。
その時、北原のスマホが振動する。
思わず様子を見てみると、電話のようだ。
相手は非通知。出るか迷ったが、北原は思い切り出ることにした。
「もしもし?」
『……北原か?』
「えぇ、そうですけど……」
『俺はお前のことを追っている警察の一人だ』
「け、警察……!?」
『だが安心してほしい。俺はJの内通者だ』
「そ、そうなんですか……?」
『今警察は非常線を張っていて、厳戒態勢に移行している。このまま進めば、君は確実に警察に捕まることだろう』
「そんな……」
『そんな君のために俺が力になる。そのためにJが用意していた手口だよ。非常線の張ってない箇所を通してきさらぎ駅に向かわせることができる。どうだ?』
北原は考える。
もしここでこの相手を信用して、無事に帰ることができるだろうか。
この電話自体が罠の可能性がある。実際電話の相手とJが繋がっていることを証明することは困難だろう。
だがここで止まっていては、先に進むこともできない。
北原は勇気を出す。
「分かりました。あなたのことを信用します」
『よし、分かった。ではそこから3ブロック進んだ交差点を左に曲がってくれ』
「はい」
そういって北原は電話の相手の指示の通りに歩みを進める。
そして数時間後、目的地周辺に到着することができた。
『俺の案内はここまでだ。あとは、君自身が頑張る番だぞ』
「はい」
『……無事に元の世界に戻れることを祈ってるぜ』
そういって電話は切れた。
北原は心を新たにして目的地へと進む。
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