第11話 逃走
実際に異世界人を守る会の象徴となったわけであったが、北原自身一体何をすればいいのだろうか。
そんなことを会長に尋ねてみた。
『そんなことですか。大丈夫ですよ。あなたが異世界人であるということが、何より重要視されることですから』
「そうですか……」
このように答えるしかなかった。
その後は、会長の家に行き、今日の寝床を確保したのだった。
その会長宅にて、次のデモの日時を知らされる。
どうやら、また明日もデモを行うようだ。
その時間になったら呼ぶらしいので、それまではご厚意に預かることにした。
そして翌日。会長に呼ばれた北原は、そのまま車に乗せられ、デモ行進を行う場所まで連れていかれる。
そこには前日同様、かなりの人間がいた。しかし異様なまでの静けさはあった。
そしてデモの主催者たちが集合し、再びデモ行進が始まったのである。
北原は会長とともに、先頭で横断幕を持って行進していた。
しかし、前日と違って何か異様な空気が流れている。
その空気は観察している警察からであった。
そしてとある角を曲がった所で、その異様な感覚が確信に変わる。
なんとそこには、武装した警察隊がいたのだ。
そして拡声器で何かを叫んでいる。
翻訳してみると、驚愕の内容だった。
『デモ隊に告ぐ。今すぐデモ行為をやめ、解散せよ。こちらにはデモ隊に対して発砲許可が出ている』
そんなことを言っていた。
これはすなわち、警察によって言論統制を行っていることになるからだ。
もちろん、この声明にはデモ隊も反発しているようである。
そして警察からの忠告を無視し、そのままデモ隊は前進を続けるのであった。
その様子を見た警察の幹部は、最終通告を行う。
『3分間だけ待つ。3分以内にデモ行進をやめない場合、発砲する』
その言葉を聞いて、北原は思わず止まりそうになる。
しかし周りの人々が止まろうとせず、行進しているため、北原もその流れに乗るように前進してしまう。
そして3分が経過した。
『時間だ』
その言葉をきっかけに、警察が発砲する。
街中に響き渡る銃声。それに驚いたデモ隊が混乱し、現場は大変な状況になっている。
そんな中、北原も逃げようと必死にその場から逃走した。
しかし、北原の姿を見た警察は何か叫んでいる。
『そこにいる異世界人!止まれ!貴様には逮捕命令が出ている!おとなしく出頭しろ!』
そういって何人かがこちらに発砲してくる。
思わず、北原は音声入力する。
「俺を守るバリア!」
その瞬間、北原の周りを囲むように、半透明の何かが展開される。
そこに銃弾が飛んで来る。しかし、銃弾はその半透明の何かによって防がれた。
「あ、危ねぇ……」
しかしこの状況もいつまで持つか分からない。ここは一気に抜けるしかない。
そう思った北原は、そのまま警察隊のいる方向へ走る。
もちろん、バリアは継続しているため、銃弾を受けることはない。
そして北原は別の言葉を発する。
「バリアの外へ火炎放射!」
するとバリアの外、スマホを向けた方向に火炎放射が放たれる。
勢いよく飛び出したジェル状の可燃物質は警察隊に降りかかり、まさに現世に出現した地獄の様相を呈していた。
そんな警察隊の横を通り抜け、どうにかして脱出に成功する北原。
とにかく走って、走って、走り続けた。
無我夢中で走り続けたため、北原はまた見知らぬ土地を放浪することになる。
一昼夜歩き続けて、眠気が最大になった所で、北原はある掲示板を目にした。
その中には、昨日自分がデモ隊の先頭で歩いていた時の写真が掲載されているではないか。その横には、似顔絵まで書かれている。
北原は何か大変なことが起きていると思い、この掲示物を翻訳して読むことにした。
『悪質なる異世界人、警察を襲撃し、現在もなお逃走中。容姿、服装は絵の通り。見かけた場合は以下の連絡先まで電話すること』
明確な指名手配状態になっていた。
このままでは警察に捕まり、また研究所送りになってしまう。
しかし逃げる当てもない。
どうしたものか。
「……そうだ」
その時、Jに教えてもらった呪文のことを思い出した。
「あの時Jさんはなんて言っていた……?」
なかなか思い出すことができない。
その時、ふと視界の隅に何かがいることに気が付く。
そちらの方を見てみると、夕焼けの中に少しだけ頭の大きい男児がいた。
その目は怖い程まっすぐこちらを見ており、その視線に寒気すら感じるほどである。
そして男児は右の人差し指を北原に指して、こういった。
「みぃつけた」
本来なら通じることのない言葉に、北原は思わず失神しそうになった。
しかし気力で持ちこたえ、その場から全力で逃げ出す。
『あのままいては駄目だ』
そう本能が語りかけている。
全力で逃げているうちに、Jから言われた言葉を思い出す。
「さ、最初は『てんしんき』だ……」
そこまでは思い出す。次の言葉がなかなか出てこない。
すると次の交差点の所に、先ほどの男児がいる。
「みぃつけた」
また同じように指を指して言う。
北原は思わず小道に入り、どうにか迂回路がないか探す。
しかしどこも、先ほどの男児によって塞がれている。
その時北原は思い出した。
「『あふりょうぎょ』だ……、間違いない」
そして幾度目かの男児との邂逅。
「みぃつけた」
その顔は少し不気味に口角が上がっていた。
しかし北原は恐れない。今はこの言葉があるからだ。
「ふぅー……」
北原は一呼吸置いて、その言葉を叫んだ。
「てんしんきあふりょうぎょ!」
スマホに図形が集合し、術式が展開される。
その瞬間、北原の体は光に包まれた。
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