第688回 会談(後編)

 会談が始まる。

 その雰囲気は厳かなものであった。


 「今回の議題は、神信会における信仰長の来日後における神を滅ぼす能力を持つ人間の討伐への協力に関することです。」


 と、作次郎は言う。

 一応、この会談は議事録に残る可能性がある以上、迂闊に変なことを言うことはできない。

 まあ、言ったとしても修正した後に公開されることにしたり、非公開にすることも可能である。

 そうである以上、作次郎の気にしすぎではあるが―…。

 一応、言っておくが、この内閣に透明性を求めることは止めておいた方が良い。


 「すでに、配布された資料の中にも書いてありますが―…。」


 と、作次郎は言い続けているが、中央にいる官僚が掲げている文字を読んでいるだけなのだ。

 さすがに、これには尚も呆れるしかなかった。


 (馬鹿がトップに立つとやりやすいとは言うが、こういう指示までしないといけなくなると、返って、こいつをトップに立たせる意味と、国民によって選ばれた者に政治をさせる意義というものが分からなくなる。

 意味があるのか。

 まあ、こいつらが当選するようにいろんなことをしている以上、国民の責任だと擦り付けるのは本来は良くないが―…。

 見抜けない者が悪い。

 それにしても、閣僚全員が配布した資料に目を通していないし、理解できているのか、こいつら。

 つ~か、真面に漢字を読めなかったりしてな。

 だけど、今回の会談および閣議の内容はすでに決まりきっているようだし―…。

 ただ、ただ、面倒なだけということか。)


 と、尚は心の中で思う。

 今の内閣の閣僚において、小学生で習う漢字の読みがある程度できる者は少数であり、最悪の場合は議会の答弁でもフリガナをふっていないと読めない者すらおり、歴代の内閣総理大臣の中には、読み間違えで大変なことになったとされる。

 そして、真面に仕事ができる閣僚ほど、ここ数年間、在任期間は短かったりする。

 教養すらないだろう、今の面子には―…。

 彼らの多くは、親や先祖が議員であった者であるが、その中でもあまり優秀でない者が議員となってしまっているのだ。親や先祖の地盤を受け継いでおり、その流れがしっかりと基盤になっているのだから―…。

 どんな馬鹿でも何とかなるというわけだ。

 だが、そのような基盤のせいで、日本という国は衰退の岐路に立っているのだが―…。

 それでも、国は何とかなっているというわけなのだろうか?

 疑問だが―…。

 そして、このような内閣の面子なので、配布された資料などろくに読んでもいない。

 大臣の一人は、テレビの前で、省庁の役人が纏めた資料を見もせずに「こんなものが分かるか」と笑いながら言って、捨てていたそうだ。

 当時は、問題になることもなかったが、このような者さえいるので、資料など配布する必要はないだろうが、配布しておかずに何か問題が起こった場合、閣僚が文句を言ってきて、大変なことになるので、ちゃんと配布していたりする。

 本当に、役人にとって、このような大臣の相手は面倒くさいが、出世のためには必要なことであり、彼らのようなボンクラを操ることができてこそ、一人前という風潮があるぐらいだ。省庁内には―…。

 尚は、このような馬鹿な会談抜きで、決まったことを発表すれば良いのに、とさえ思ってしまうのだった。


 「では、以上になります。

 賛否を問いたちと思います。

 全員意義なしですか。

 意義のない者は手を挙げてください。」


 と、作次郎が言うと、全員が手を挙げるのだった。

 つまり、承認だ。

 このように、内閣の会議や会談での議題で、賛否を問う場合はこのように意義がない場合は手を挙げるようにするのだ。

 そうすることで、手を挙げない内閣に同調しない閣僚をあぶりだすのだ。

 そして、慣例で、内閣は全員一致の行動をとることが望ましいとされているのだ。反対者なんていない、というのが理由らしい。

 詳しいことは、内閣の誰も分かってはいないのだから―…。

 ここにいる閣僚たちは特に―…。


 「全員挙手とのことで、神信会がおこなう討伐作戦への日本政府の協力が閣議決定されました。」


 作次郎が言うと、これで、閣議は終わりとなり、暫くの間、歓談がおこなわれるのであった。

 尚としては、閣議決定が下された以上、さっさと職務へと戻りたかったが―…。


 「あなたが、神信会の日本本部大使に今年なられた方なのですねぇ~。

 お若いこと。私と一緒にホテルへと行かない。」


 と、一人の女性閣僚が言ってくる。

 この閣僚は、すでに壮年期であるが、性欲に関しては未だに旺盛であり、若い男が好みである。

 そのせいで、週刊誌にスキャンダルのネタを握られたりもしたが、親が政治家であったことと、作次郎の派閥の中でも有力であったからこそ、そのネタを揉み潰し、スキャンダルのネタを握った記者は、すでにこの世にはいない。

 彼女は政治家として必要な教養を学ぶことを嫌い、権力者に取り入ることで成功してきた者だ。

 残念ながら、今の日本はこのような者が出世していったり、権力を握っていったりする世の中なのだ。男女関係なく―…。

 そして、尚はこの女性閣僚がろくでもない人物であることは分かっていた。

 若い男性と遊ぶだけならば、そこまで尚としても気にしないのであるが、それ以上に自分の傘下の者に対して、上納金という形で金銭を要求しており、そのことで傘下の者からの評判がすこぶる悪く、一定額の上納金を納めない者に対する脅迫も酷いといわれている。

 そのせいで、傘下からの人望はなく、集まっているのは作次郎から気に入られており、この人物の下にいれば、その恩恵が得られることとを望んでであるが、ほとんどないのでいつ反乱が起こってもおかしくはない。

 その反乱が起こっていないのは、例のスキャンダルのネタを握った記者の末路を脅す時に使っているからだ。

 本当に、この女性閣僚は、人間として、クズである。

 尚は、ゆえに、毛嫌いしている。


 「いえ、こちらは仕事があるので、それに、我が組織の信仰長を出迎えるための準備をしないといけませんから―…。

 私はこれにて、失礼させていただきます。」


 尚はそういうと、神信会日本本部へと戻って行くのだった。


 (………釣れない人間ねぇ~。年上の素晴らしさを知らないせいなのね。)


 と、心の中で、女性閣僚は思う。

 女性全員がこのような人ではないし、真面で素晴らしい女性もこの世界にはたくさんいる。

 作次郎のところに集まるのが、男女関係なく、このようなどうしようもない者ばかりなのだ。

 いや、真面であっても、作次郎に毒されてしまい、どうしようもない人間になっていくだけなのであろう。

 そして、少しずつ物事は動いていく。

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