第687回 会談(前編)

 昼休みが過ぎた頃。

 場所は、官邸。

 ここは、日本政府の内閣総理大臣が執務をおこなっている場所である。

 ここの入り口にある大きな広場に、官邸側から指定されたマスコミが多く詰めかけてきている。

 マスコミを指定している理由は、表向きは反信仰者によるテロ対策であったり、不慮の事態が発生しないようにするためである。

 裏向きの理由としては、自分達が指定するマスコミに、日本政府にとって都合の良い記事を書かせることで、国民にそのことが正しいと植え付けることと同時に、マスコミの中で日本政府に取材できるのは日本政府に従順な者じゃないといけないというニュアンスもある。

 日本政府に逆らう者、批判する者を排除して、日本政府における政権の権力を盤石なものにさせたいのだ。

 本当に、自分の都合しか考えないので、結果として、ろくな政策をおこなうことはできないし、悪い事態を放置した時点で、偶然の好転以外に対処のしようがなくなってしまっているというわけである。

 さて、今日、ここには神信会日本本部の大使がやってくることになっている。

 すでに、内容に関しては、裏で話し合いがおこなわれ、ここではあくまでもその結果を発表する程度のことしかしない。

 国民が知るべきことは、日本政府が神信会の言葉を聞いた上でおこなわれることが正しいことであり、反対することが間違っていることである。

 国民の反対? そんなものは関係ない。

 と、国民のことを無視するのであろう。


 (そろそろ時間だ。)


 と、マスコミの一人が心の中で言う。

 大事な仕事が始まる。

 午後二時。

 神信会日本本部の大使三神尚が官邸にやってくる。

 尚は、マスコミに視線を向けることなく、スタスタと会談の場へと向かって行く。

 それを報道各社のマスコミが追いかけて行きながら、尚の今の行動を映像に収めようとする。

 尚は歩きながら―…。


 (マスコミもどれだけにネタに飢えているのだ。

 まあ、彼らはこのように神信会のことを称賛することでしか生き残ることはできない。

 神信会を批判するということは、神信会ひいては世界のすべてを敵に回すに等しい。

 それならば、神信会、神を礼賛すれば、このように美味しい餌にありつくことができる。

 まあ、こいつらはそういうことしかできないひもじい奴らだが―…。)


 と、尚は心の中でマスコミを見下すのだった。

 尚は良くマスコミの言っている真実を報道するという言葉があまりにも嘘っぱちであることを知っている。

 自分の取材した記事を売ったりするために、一部誇張したり、権力者に取り入って情報を仕入れたりするのだ。

 見下しはするが、便利であることも実際に理解している。

 マスコミを使うことによって、神信会の都合の良いように記事を書いてもらうこともできるのだ。

 まあ、尚は知らないが、昔は骨のある記者もきて、本当の意味でジャーナリストたる者もいたそうだが、今の時代には、ほとんど日の目を見ないから、尚も知らないという感じだ。

 そして、尚は、会談の場である内閣会議室へと向かって行く。

 その部屋は、閣僚と取材が許可されたマスコミと一部の官邸職員しか入ることが許されない場所である。

 神信会は実質、日本政府よりも偉い立場にあることから、このような例外も許されてしまうのだ。

 マスコミは追いかけながらもカメラマンは、シャッターをきる。

 そのフラッシュを眩しいと尚は思いながらも、内閣会議室の中に入っていくのであった。



 ◆◆◆



 内閣会議室。

 ここには、すでに各大臣がすでに集められており、尚とともにマスコミによって写真が撮られていた。

 尚のために、首相の左隣に椅子が一つ追加されたほどだ。

 ここで、内閣総理大臣と同じ高さの椅子となっている。閣僚も同じ椅子であるが―…。

 そのようにしているのは、平等に扱うという意味があり、背の低い椅子に尚を座らせてしまうと、神信会を裏切っているのかと判断され、日本政府が大変な目に遭うことになったりするし、首相を代えられることは確かである。

 権力を手中にし続けたい者にとって、これは絶対に避けないといけない。

 さらに、神信会を裏切っている情報など、神信会の情報網を使えば、世界中に拡散され、国際的地位も低下しかねない。

 そして、背の高い椅子に尚を座らせない理由は、後に、尚よりも偉い人が来日する予定となっており、その人物のみしか座れない特別製なのである。

 写真撮影が終わると、マスコミは外に出て、ここには閣僚と首相、尚のみとなった。


 「では、記念撮影も終えたところで始めるとしようか。会議を―…。」


 と、内閣総理大臣である大田原山作次郎が言うと、閣僚全員が着席し、尚も同様にする。


 (………………決まり切っていることを、わざわざこうまでするとはな。)


 と、尚は心の中で思いながら―…。

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