第686回 ネットでも俺に対する誹謗中傷はおこなわれていた

 昼休み。


 食堂で昼食を済ませ、余った時間を生徒会室で過ごす。


 その間に、なぜか今朝のニュース番組の情報とか、変なことがないかというのを話し合うことになった。


 「同級生に聞いたら、そのような十言さんに関する悪辣なニュースは、テレビだけでなく、ネットは動画配信者も宣伝しているみたい。

 例えば―…。」


 と、彩華が自身のスマホを出して、動画サイトに投稿されているものを見せてくる。


 「彼は有名な動画配信者の「ねこすけと」とか言うのがかなり動画再生回数を稼ぎだしているのよ。」


 そして、動画が再生されると―…。


 『各田十言―…、私は一度会ったことがあるけど、彼は神を滅ぼすとか常に言っているので、大丈夫かい、と声をかけたけど、君も神を倒そうとか言ってくるのだ。

 あり得ない、と思ったね。

 この世界は神によって創造された世界で、神が人々を創ったのだ。

 こんな当たり前のことを理解できないとはねぇ~。

 酷い存在だ。

 さらに―…(以下略)…。』


 この「ねこすけと」とかいう投稿者は、自らの素顔を後悔しているので分かっているが、一度も俺はこいつに直接会ったことがない。


 それに、神を滅ぼすことに誘ったこともない。


 俺も動画配信者の動画を見ることはあるが、このような人の揚げ足を取ることしかできない人はあまり共感を持つことができない。


 何というか、嘘っぽいと感じてしまうから―…。


 ちゃんとした情報収集をおこなったうえで配信されている人は、返って、俺も好感度を持てるし、特に優れている人はメンバーシップにも入っていたりする。


 まあ、今回の件で、その人達に迷惑をかけてしまったなぁ~、と思っていたりする。


 恨まれそうで怖い。


 「それだけじゃないですよ。十言先輩の悪口を書き込みサイトに書いていたりするんですよ。」


 と、今度は那留が自身のスマホを見せてきた。


 彩華への対抗意識か?



 ―各田十言とかいう悪魔wwwwwwwwwwwwwwwwwwww―


 ―神を滅ぼそうとかしているのマジで(草)―



 いっぱい書かれてあるけど、反論しづらい。


 こういうの書き込みは意外と、書いている本人が特定されたりするので、反論するよりもここに書いた人が誰なのかを探った方が得策である。


 書いてもバレないとか思っている奴がいるだろうけど、バレるんだよ。こういうのは―…。


 調べれば一発で犯人が特定されることはあるし、漫画喫茶やネットカフェなどのパソコンを使ったとしても無駄である。


 なので、馬鹿な書き込みをした奴は、簡単にバレて、最悪の場合、一生を棒に振ることだって十分にあり得るのだから―…。


 だからこそ、こういう書き込みや、動画を配信する時には後々のことを考えて、言葉を選ばないといけないのだ。


 社会で生きるとは、そういうことなのかもしれない。


 「まあ、こういう書き込みぐらいなら、別に俺としては気にならないな。」


 そう、この程度のことなら俺個人としては気にしない。


 結局、自分が正義のおこないをしているという陶酔に溺れている哀れな人にしか思えないのだから―…。


 気にしても意味はない。


 「十言先輩だけど―…。」


 那留が申し訳なさそうにしているので、何となくであるが、よっぽどのことであることは分かっている。


 「見せなくても大丈夫だから―…。

 俺の誹謗中傷で、場合によって、誹謗中傷を受けた側が死んでしまうようなことを書き込んでいるのだろ。」


 そう、正義のおこないだとかという自らの馬鹿な基準で、酔いしれ、他人の命を弄ぶ………いや、そのおこないによって自己満足を得ている者がいるのだろう。


 そんな満足で増長した結果、他人を苦しめることがあるのだから―…。


 正義はそんなに簡単に悪を滅ぼせとはならないんだよ。


 「そうですね。」


 ということで、那留は俺に見せないようにしてくれた。


 ありがとう。


 那留に感謝の気持ちを―…。


 「ありがとうな、那留。」


 と、心の中で思いながらも、言葉にして伝える。


 こういうのが大事なんだよな。


 うん。


 結果として、昼休みの間に大量の俺たちに対する誹謗中傷を見つけることとなった。


 ここまでくると、組織立って動いているのではないかと思いたくなる。



 ◆◆◆



 理事長室。

 そこでは、昼食後、スマホで、書き込み掲示板のサイトをのぞく一匹の猫(?)と一人の人物がいた。



 ―各田十言、お前のせいで、俺たちは人類の存亡に立たされている。死ね!!!―


 ―各田十言とか、それに誑し込まれた女どもの命を奪えば、俺たち人類は救われる。ならば、実行あるのみ―



 これはほんの一部であるが、十言に対する書き込みである。

 誹謗中傷レベルと言っても良い。

 まだ、これでも優しい部分であるし、酷いものでは、各田十言の在らぬ噂を流している者さえいる。

 そして、ネットにおける検索エンジンサイトに載っているニュースのコメント欄では、十言の死を望む者が圧倒的な数で書き込まれており、このコメント欄は、削除されてもおかしくないほどである。

 だが、この検索エンジンサイトのニュースコメント欄の製作者は、神信会の崇拝者であるため、このようなコメント欄を放置してしまっている。


 「ふむ、これは酷い書きぶりじゃの~う。

 というか、もしも自分がこのように書かれたら、どう思うのか考えないのかの~う。」


 アルケーは、苦々しそうにしながら呟く。

 心の中では、どうやって白日のもとに晒して、追い詰めようかと考えているのだ。

 アルケーに目をつけられてしまっているので、彼らの未来はとても良い方向になる可能性は低いであろう。


 「だが、こういう輩は、自分が正義だと思っている者だ。

 世間から酷い扱いを受けている者を罵倒すれば、自分は正義であり、世間から称賛されると思っている。

 だけど、それは、一部の権力者および流れによって作られたものでしかないのに―…。

 莉緒。こういう輩は、自分がやっていることが、自分の名前を含め、バレるとは一切思っていないのだろうか。」


 秋歩は言う。

 秋歩としては、このような書き込みをしていることで、自分はバレないとさえ思っているのだろうか。匿名であったとしてもバレるのに―…。

 だからこそ、こういう場で書く時は、ちゃんと自分の言っている言葉に責任を持った上で、書かないといけない。

 いや―…。


 「そうじゃないのかの~う。

 秋歩も気づいておるじゃろ。」


 アルケーは、秋歩に尋ねるかのように言う。

 こういう書き込みで、ある可能性があるということを―…。


 「ええ。十言達を誹謗中傷する書き込みのすべてではないが、一部に神信会の関係者とそれから依頼を受けたと思われる企業が存在することだ。

 そういう企業は、日本政府の有力政治家と繋がっている可能性が高い。

 ネットに組織的に書き込むことによって、世論を操作しようとしている。

 そして、検索エンジンサイトの関係者もそうだろうなぁ~。

 世論とは、人によって作られた紛い物としか言いようがない。

 対抗できないわけではないし、ネットの海を完全に奴らが掌握することはできない。」


 秋歩も、アルケーの思っていることに気づいており、かつ、ネットという世界を理解していた。

 無限に近いからこそ、完全にどの勢力もできないということを―…。

 己の求めない意見を完全に排除することができないことを―…。

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