第255回 一方で、理事長室では―…
◆◇◆
理事長室。
時間は、十言、美愛、夏鈴、那留、羽奈が葉積城台学園の校門へと向かって行った頃。
この場所には、アルケー、雨音、珊瑚の他に、話し合いの客である長真東英、喜代の夫婦と、その夫婦の娘で葉積城台学園の今代の生徒会長を務めている長真彩華がいる。
すでに、彩華は、十言たちの神を滅ぼすための戦いには協力しないと表明している。
だけど、アルケーは、それを何とか意見を変えて欲しいとは思っているが、そのことを実現するのが難しいこともまた理解している。
長真家の両親に関しては、彩華の意見を尊重するということにしている。
東英や喜代では、あまり関わることはできない。彩華がどういう存在であるかを知っているのだ。
アルケーから各田十言が神を滅ぼす能力に目覚め、十言が何者であるかを理解してから、より彩華に判断をさせないといけないと思っているからだ。
彩華じゃないと十言たちの神を滅ぼす戦いにおいて、実際に戦うことが不可能なのだから―…。
いや、持っている物のせいでもあり、おかげでもあり。
「長真彩華。お主は十言たちに協力しないと言っておったが、十言たちは神に勝てるかの~う。どう思う。」
アルケーは、彩華に向かって、質問をする。
それは、十言たちが彩華から見て、神を滅ぼすことができるかどうか、という内容であった。
なぜ、アルケーがその内容の質問をしたのか。
(ふむ。長真彩華。十言たちの協力を頑なに拒否をしてくる。一体、なぜかはわからぬが、事情があるよの~う。
まあ、長真彩華自身が言っていた十言が複数の彼女に囲まれて、誠実性に欠けるという面は、事実であろうが、それがすべてではないの~う。
もっと、根源的なものがあるの違いない。儂の直感はそう告げておるからの~う。)
アルケーは、心の中でこのように彩華が何か十言たちに向かって言った以外の理由で、十言たちの協力を拒んでいるのではないかと予想する。
その予想自体が、正しいかは彩華の心を本当の意味で読むか、彩華自身から聞くしか、答えを完全に確かめることはできないであろう。
まあ、本人自身がちゃんと自分の気持ちというものを知っていなければ、答えなんて完全に知りようはないであろうが―…。
(何、猫が質問。でも、この猫が偉い人(?)なのは、お父さんから聞いたけど―…、なんで猫が偉いのよ。
それに理事長って―…。ファンタジーの世界じゃないんだから―…。ファンタジーの世界でも珍しいのではないだろうか。
いや、そんなことよりも、どうして、私に対して、なぜ、各田十言と神との戦いについて尋ねるの?
そんなの、この猫だって気づいているはずでしょ。)
と、彩華は、なぜアルケーが、このような質問をするのか理解できなかった。
つまり、アルケーの質問の真の意味が何であるかがわからずに、質問の答えなど、決まりきっているので、面倒くさいと思いながらも答えるのだった。
表情には出さないようにしながら―…。
「神と各田十言たちの戦い。結果なんて、簡単なことでしょ。
神や神信会の戦力は、最低の数、主導者だけで考えても数百万、信者を含めれば数十億にもなる。
そんな相手に勝つことは不可能としか言いようがない。
世界の全員に近い人数が、神信会の信者で、神信会がすべてにおいて正しいと思っているし、神のために消極的ながらも協力的に生きている。
そうしないと、自分達の生命の安全が簡単に脅かされるのだから―…。
各田十言や他の彼女達には可哀想と思うけど、神に狙われた時点で、ご愁傷様としか思えない。
私だって、私のために生きたいのだから―…。
これでいいよね。」
彩華は、当たり前の言葉で答える。
過去の世界において、西暦の2023年に後の神によって世界を滅ぼされた以後、神によって創造された世界では、神の安寧のために、神に服従することが当たり前であるし、人間自体が神によって創られたのだから―…。
彩華のように創神によって創られた人間を祖先とする一部の者たち、主神によって創られた大多数者たちで人類は構成されており、彼ら同士の混じり合いも存在している。
そのような中で、人を創造した神に反抗するということはどういうことか。
そのようなことも神は想定しているはずだし、その時に、簡単に人を滅ぼすことができるような仕組みをしっかりと備えているはずだ。
神がこのことに気づかないほど、愚かな存在だと考えることはまずありえない。
そうであるのならば、すでにどこかの段階で神が滅ぼされてもおかしくはないのだから―…。
彩華としては、そのような数においても、実力においても不利な戦いをしたいとは思わない。
神に反抗するということが無謀であり、自分の死だけでなく、それ以外の大切な家族の死をももたらす結果になると思われるからだ。
だけど、十言、美愛、夏鈴、那留、羽奈が神に狙われていることを可哀想とは思う。十言に関しては、本当にそうかというのは怪しいものであるが―…。
それでも、自分の安全が確保されていないのに、他人を助けることなどできるはずもない。自分の命を守れない人が、他人の命を守れるわけもない。
結局は、神との戦いで優位になれる要素など一個もないどころか、不利になって、滅ぼされ、自らの命を奪われるという結果しかない。奇跡すら超越したことが起きない限り、不可能と言ってもいいほどに―…。
「そうじゃの~う。そういう意見になるのは仕方のないことじゃ。
それでも、長真家がどういう家かは儂も知っている。知っておかないとボケてしまったと言われてしまうからの~う。」
アルケーが今の言葉を言い終えると少しだけ間があく。
(猫が何で知っているのかはわからないけど―…。本当に猫?)
と、彩華は、アルケーに対して、疑問を感じるのであった。
彩華も猫の寿命が人のそれよりも短いことを知っている。
ゆえに、猫が長真家のことについて知っているのか疑問に感じてしまう。
理事長であることから資料を読んでいるのか、いや、一般の猫がそのようなことをすることができないと感じる。
だからこそ、彩華は、アルケーが本当に猫か? いや、猫ではない何かなのではないかと思うのだった。
まあ、こんなことに対して、彩華は、物語の読みすぎではないかと不安になってしまうのであった。
そして、アルケーは言うことを再開する。
「長真家の成り立ちから考えると、神信会に反抗しそうなものじゃ。十言が神を滅ぼす能力に開花している以上なぁ~。
神を滅ぼすことができれば、長真家の役割を終えることになる。もう神ではない人物に約束されたことがの~う。」
その最後の言葉に、彩華の父親である長真東英は息をのむのだった。
東英はそのことを知っている。先祖代々、伝えられてきたことなのだから―…。
彩華もある程度は知っていることだし、自分がどういう家に生まれたかを幼い頃から父親、いや、一族の人間から聞かされてきたことだ。
それでも、父親である東英は、自由に判断していいと言ってくれた。長真家を継がなくても、継いでもいいと―…、自由に選択していい、と―…。
ゆえに、彩華はその選択をまだしていないが、それでも、十言たちに協力する気はないということを確固とした意思で表明したのだ。
長真家とか関係なく、彩華の意思で―…。
「儂としても、東英の娘に対する長真家を継ぐかどうかを自由にするのは良いことだと思う。
じゃけど―…、神の側もそう簡単に長真家を見逃してもらえるとは思えない。
儂からの提案は、長真家を守るためでもあるんじゃよ。
理解はしてくれるかの~う。」
アルケーとしても、そろそろ長真家が無事で済まされることがなくなるのではないかと予想していた。
なぜなら、主神たちが長真家がどういう家かということを知っているのではないかと思ったからだ。
その原因になったのは、長真家におけるお家騒動であった。
そのお家騒動で、独立し、神信会側についた家が、すでに長真家がどういう家かというのを教えているはずだ。
その独立した人物は、まだ生きているのだから―…。
アルケーは、あの日のことを思い出しながら―…。お家騒動と関連して起こった出来事と、後は十言が関わってしまった出来事を―…。
長真家が神信会や神に知られているのであれば、各田十言が神を滅ぼす能力を開花させて、今代の勇者だった阿久利正義、日本本部大使の三神尚、英雄の夜見凱神を倒している以上、十言の仲間を増やされるのを避けるために、周りの方を狙ってくる。
その最有力候補が長真家なのだから―…。
今は、まだ狙われていないが、狙われるのも時間の問題であろう。
ゆえに、長真家を守るために、十言たちに協力してほしいとアルケーは、提案するのだった。
それは、利とは関係なしに―…。
「言いたいことはわかりました。それでも、私は、各田十言君には協力しないし、神信会や神が私たちを狙ってくるとは思えない。
だって、各田十言君が神を滅ぼす能力を開花しているのなら、すぐに、私たちの命が狙われていたはず。
それなのに、私たちは生きている以上、そのようなことはないと思います。
それでも、忠告してくれたことに関しては、感謝します。」
と、彩華は言うのだった。
彩華としては、アルケーの言葉をうざったいとは思っていた。
それでも、アルケーが親切で言っていることはわかっていた。
ゆえに、口調を悪くして言うことができなかった。
「そうか、わかった。でも、今回、敵が来ておる以上、それを見てはもらうことにするかの~う。」
と、アルケーは言うと、魔力を使って、今、十言たちが戦っている映像を映し出すのだった。
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