第256回 十言たちの戦いの映像を見る
映し出された映像に長真家の人々は驚く。
これはアルケーの魔力によって、作り出されたことぐらいは東英と喜代はわかるのであるが、それでもいきなり映像が何もそれをだすことができる装置がないところに出てきたのだから驚かない方が不思議である。
それでも、一度同じものを見ているのなら別だったかもしれないが―…。
彩華は、魔力に関しては、世間一般に言われている魔物が使っているということしか理解できないので、どういう原理で映し出されているのか、理解することができなかった。
神力に関しても、世間一般で知られていることしか彩華は知らないし、神力の扱い方に関しても一般人の中の平均と変わりはしない。
「映像なんかで各田十言君たちの戦いなんて映し出して、何がしたいのですか?」
と、彩華はアルケーに質問する。
彩華は、アルケーの意図が理解できなかった。
彩華にとって、十言たちとは神を滅ぼす戦いで協力しないと宣言しているし、これ以上、興味がなく、自分の趣味といえるか、仕事ともいえることに集中したい。
そっちの方でしか、自分を表現することができないと思っているのだから―…。
彩華の趣味に関しては、アルケーが把握しているわけもない。
まあ、そうしていたのであれば、かなり危険な人物というイメージは拭えないのであるが―…。
「まあ、戦いを見て欲しいわけじゃ。そうすれば、気持ちが変わってくれるかもしれないと思っての~う。」
アルケーとしては、彩華に十言たちと協力する約束を取り付けたい。
今のままでは、戦力の面で神との戦いで不利なのは確実なのだ。
魔力因子を持っていない者たちの協力が必要なのは事実なのだから―…。
実際に、戦闘で戦う以外の方法で―…。
例えば、情報を収集するとか、大まかな作戦を立てる計画立案、神信会や神を妨害してくれるなど、である。
例をあげようとすれば、いくらでもあるかもしれないが―…。
「そんなことは有り得ません。」
彩華ははっきりと否定する。
彩華にとって、十言と協力するなどありえないことだから―…。
「ほ~お、だけど、儂が狙うわけではないが、長真家が狙われた場合もそのようなことが言えるのかの~う。
長真彩華―…、儂はこう見えても人を見る目はあるのじゃ。お主は、性格は真面目で、自らの変な価値観に囚われまくっておる。それも過去に起因するものが原因としての~う。長真家の歴史と人との交流を考えれば、そのような性格にもなりはする。
そうしないと生き残れる確率が少なくなるからの~う。
それでも言おう。お主が本当に欲しがっているのは、心から許せる人間じゃろ。」
彩華はすぐに、ピクッと眉間を震わせる。
確信を突かれた。そのように周囲に感じさせるように―…。
それでも、彩華という人物が、アルケーの言っていることを認めることはない。
「そういうわけじゃないです。私は一人でできるから―…。人に頼ることは弱い人の証拠でしかないから―…。」
(本当に、この猫は一体、何を言おうとしている。)
と、彩華は、言いながら、アルケーをより警戒するのである。
警戒する理由は、アルケーが何を言っているのかという意図が読めないことに対して、であった。
これは、表の気持ちであり、本当の気持ちの一部分でしかない。
本当の気持ちの中で一番を占めているのは、核心を突かれたということである。それを無意識の中で意識していることに気づき、本能で警戒しないといけないと感じたからである。
その警戒は、表情にも無意識のうちに出ていた。
(ふむ、当たりということかの~う。まあ、今は、必要以上に攻める必要はない。生徒会長の権限だけで、十言の生徒会入りを止めることはできないからの~う。
現に、他の先生方も長真彩華一人で、生徒会の業務をさせるのは、心配であるという意見が多い。
もし、長真彩華に何かあれば、かえって、これからおこなわれるであろう文化祭に大きな支障をきたすことになる。予算の承認という面で―…。
まあ、金銭の管理は、うちら教師や理事長がおこなうことにしているが―…。
文化祭前の生徒会は地獄のような仕事量だし、生徒会独自の出し物もある。
長真彩華一人しかいないから、今年は生徒会の出し物はなしということにはできるが―…。
それでも、一人だと過労に陥ってしまうのはわかりきっている。
だから、儂に頼んで、無理矢理にでも生徒会に誰かを入れさせようとしているのだからの~う。先生方は―…。
儂はそれを利用して、十言を送り込むのであるからなぁ~。十言たちと言った方がいいかもしれぬが―…。)
と、アルケーは心の中でそう思いながら、十言たちが戦っている映像を見るように促すのであった。
彩華は、仕方なく映像を見るのであった。
それで、彩華は、余計に十言たちに協力できないと判断することになる。
「むしろ、相手は神信会の上位主導者たちじゃないの。こんな強い相手に―…、完全に上手く対処されているから、撤退させることはできても、倒すなんて不可能。
神はそれよりもはるかに強いはず。
何もすることができず、敗北するのはわかりきったこと―…。
こういうのは失礼だけど、早く楽に相手によって殺された方が幸せかもしれない。残念としか言いようがないけど―…。」
「彩華!!!」
と、彩華の最後の方の言葉を聞いた東英は、彩華に対して怒るのだった。
東英は、たとえそんなことが十言たちにとって、一番苦しまない方法であったとしても言うべきことではないし、思っていたとしても、口にすべきことではない。
思うのではなく、はっきりとそうだと断言できる。
一方で、彩華も言いたいわけではないが、正直にはっきりと言わないといけないと思った。何でもはぐらかすのが本人たちのためになるとは思えないのだから―…。
事実に気づかないことがどれだけ不幸なことぐらい―…。経験はないけど、理解はできる。
「まあ、よい。今の状況はそう思うじゃろうなぁ~。だけど、儂はの~う。人生を生きる上で楽ということはないのじゃ。
楽に生きること、それ即ち、不幸と呼ぶ。
何も障害がなく、自分の思うままに生きることができることこそ、人は不幸なのだ。
人は自らの不幸を知ることで、はじめて、本当の幸せというものが何であるかを理解するのじゃ。
人の見ている世界は、絶対的な物差しを使っただけでは完全に理解できない以上、どうしても比較してしまうものなのじゃ。その時さえ、有限的な範囲を決めての~う。
それに、十言たちは、自らが殺されるなんて望んでいないし、苦しみながらも、必死に生きようとしている。
そういう人間に、不幸も幸福ももたらしはしない。不幸も幸福も自分の気持ちで判断することであるからの~う。
そして、十言が望んでいるのは、安寧じゃ。神も同じ、安寧なのじゃ。
だけど、自分が殺されるという恐怖ではお互いに話すことはできない。どちらかが消えない以上―…。
もう神は、いや、主神というべきか、そいつは、自分のわずかな危険でも許せないほどになってしまったのじゃ。恐怖など一生消えるはずもないのに―…。
本当に信頼しないといけない人の言葉を信用しなくなったのじゃ。
彩華よ、お主はそうなるなよ。そうなってしまい、世界をも滅ぼすようになってしまえば、こちらとしても誰かの命を守るために、やりたくもないことをすることになるからの~う。」
アルケーは、悲しい表情をしながら言う。
覚悟は決めている。
それでも、自分にはできない以上、十言に頼るしかない。そのもどかしさもある。
十言たちに申し訳ない気持ちがいっぱいだ。
だからこそ、自分の命を最後は賭けるぐらいの気持ちはある。
簡単に、人の命を選ぶようなことを判断したのではない。長い月日をかけてやっとのことで―…、だ。
人の命を選択する言葉など言いたくないし、そんな展開を望みはしない。望んではならないのだ。
だけど、現実は残酷で、そうしないといけないように追い込まれることもある。
このようなことは簡単に言っていいことではない。
2023年に滅ぶ前の世界でも、人の命の選択をすることに平然とそれを素晴らしい主張であり、当たり前のことだと言う者たちがいた。メディアの前では、良い顔をしていて、メディアが率先して良い人だとアピールをしていた。
結局、その集団がどうなったかはわからない。記憶する気もない。
そういう人間は、他者の苦痛など理解できない、本当の意味で自分の弱さを知らない、強がりの人間でしかなく、何も社会に利益をもたらさないどころか、他者の得ていた利益をも奪っていって、それを正当化して、威張り散らかすのだ。
そのような者たちのために、多くの人々はしなくても良い苦労と、同時にする必要もなかった不幸に陥るのだ。
そして、そういう人間達をも本当の意味で不幸にしてしまうのだ。そいつら自らで―…。気づきもせず、笑いながら自らの首を縛り、自らを殺すように―…。
「言いたいことのすべてがわかるわけじゃないけど、私は自分の命が大切だから―…。」
彩華は、弱々しく言う。
何となくわかってしまうのであろう。
それでも、自分の意見を変える気はない。
自分の命を守れない者が、他者の命なんて守れないし―…。
(それに、さっきのことは言い過ぎたかな―…。)
彩華は、心の中で反省するのだった。
同時に、神や神信会に勝てるわけがないと思う気持ちは、変えることはできない。
冷静に考えれば―…。
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