第254回 形成は動きをみせない

 テプテプは宙に舞う。


 だけど、テプテプは気絶をしておらず、すぐに体勢を整え、後ろに回転させて、見事に着地するのだった。


 あまりにも綺麗な動きに見とれてしまいそうになった。


 そこに、乱堂が俺の目の前に現れるのだった。


 「お前も隙ありだ。」


 乱堂は、右手に神力で形を作った、手の裏に剣の形をしたものがあった。長さに関しては、普通の剣よりも短い。


 それでも、刺されば、かなりヤバいのだけは理解できる。


 そう、乱堂は俺の心臓部に目掛けて、その剣の形をしたもので突こうとしてくるのだ。


 ヤバい。


 だけど、準備をしていないわけではない。


 「魔覆 魔力波動。」


 そう、俺が技を発動させると、俺の周囲から短い波動が発生し、近くにいた乱堂を遠くへと弾き飛ばす。


 その時、乱堂は―…。


 「なんだこれは!!!」


 と、言っていた。


 準備をしていてよかったぁ~。


 そして、乱堂もすぐに体勢を整え、テプテプのいる場所へと飛ばされていくのであった。


 「チッ!!! あんな技をもっているのか。データにはない技も覚えているのか。まあ、そんなことは俺様の予想範疇だ。

 あの「魔覆 魔力波動」だっけ、あれは自らに覆った魔力を波動のように拡散させて相手を弾き飛ばすことができるものと考えれば、納得がいく。

 なら、今度はより上手く攻めるだけだ。」


 乱堂の言葉に俺は驚く。


 乱堂とかいう人間は頭にくるほどに口が汚いが、それでも、俺の使った技を初見でどういうものかを理解してしまう。


 厄介極まりないと思えるほどだ。


 データと言っていたから、これまでのデータがあることは、今までの使った技は乱堂には理解されており、通じる可能性が低いということか。


 それでも、不測の事態では、通用する可能性があるとも考えられる。試した方が本当はいいのであるが、今は本番であり、乱堂の洞察力が高い以上、それをおこなうのにはリスクというものが存在するのは事実だ。


 それでも、一発だけ使えるというのなら、使っていくしかない。


 「付与 全力低下。」


 と、夏鈴が言うと、上位主導者の足元に魔法陣が出現する。


 上位主導者の全員が驚くが、すぐに冷静さを取り戻し、対策をとるのであった。


 「神力 神の鏡に映る者への効果譲渡。」


 と、ウーロンが言うと、その上に大きな鏡が出現し、そこに、夏鈴が写るのだった。


 「えっ。」


 そう言うと、夏鈴はすぐに言葉をするのだ。


 「付与解除。」


 と、宣言し、自らの付与を取り消すのだった。


 「ふむ、聖女は状況判断も良いようだ。この私の効果をある程度推測することができたからこそ今のような行動をとったのだろう。

 相手としては不足がないようだ。」


 ウーロンは、冷静に言う。


 上位主導者側の連携とは言えないが、明らかに状況によって、誰が対処するのかわかっているようだ。


 個々が強いのか。


 本当に嫌な相手と当たっちまった。


 だけど、負けるわけにはいかない。何度も何度も思うが、今の俺らに絶望は許されない。たとえ、そこに絶望があったとしても、目を背けてでも、希望に縋りつくしかない。


 「さぁ~て、がら空きだよぉ~。」


 と、テプテプの声がする。


 テプテプは、夏鈴の目の前にいた。


 「聖女様は、速く動けないから、これを避けることができない。」


 と、夏鈴を攻撃するのだった。


 だけど、テプテプの攻撃は夏鈴に当たることはない。


 俺は、魔法使いの指揮者ウィザーズ・コンダクターを使っている以上、その効果で俺は、夏鈴の目の前に空間移動して、俺の武器である長剣で防御するのだった。


 「一瞬で!!! 瞬間移動したかのように!!!! どうなっている!!!!!」


 と、テプテプは動揺しながら言う。


 俺がどうやって夏鈴の所へ移動してきたのかわからないからであろう。


 素直に、相手に答えを教えるわけがない。


 そんなことをすれば、自分の命を危機的状態にしてしまうのだから―…。


 そして、俺は、自らの武器である長剣を用いて、テプテプを弾く。


 テプテプは戻っていくのだった。


 イプセンが何かをしだすのだった。


 「神力 神の地響き。」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ。


 地面が揺れる。


 その揺れもわずかの時間だった。


 「動きを止めれば、こっちのものです。バルドーン、いきなさい。」


 そう言うと、俺の目の前にバルドーンが出現する。


 「ここで終わらせてもらおうか。各田十言。君は王や神にも届きはしない。なぜなら、王と神はこの世界における基盤なのですから―…。」


 そして、俺はバルドーンによって突かれそうになる。


 だけど、俺はバルドーンに突かれることはなかった。


 バルドーンは、攻撃の途中で急に俺の目の前から消えるのだった。その場所に一つの銃弾が通るのであった。


 「十言っち。何とか間一髪。」


 と、羽奈がリボルバー式の拳銃で一発放ったおかげで、何とかバルドーンの攻撃を受けることはなかった。


 だけど、バルドーンに攻撃される時に感じた。まるで、俺をいとも簡単に殺せるのではないかという感覚が―…。


 俺が幻を見せられているわけではないだろう。なら考えられるのは、バルドーンが得たいのしれないと感じたのは、これが原因であり、バルドーンがどのような人物か興味を持つのだった。


 自らの生存を守るために、その危機を理解しなければいけないと感じたからだ。


 本当に、俺の安寧の日々を送るためには、障害が多すぎる。

 

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