第253回 連携開始

 「かなりヤバいね。」


 と、夏鈴が言う。


 上位主導者が強いということを理解してのことであろう。


 現に、上位主導者の全員の攻撃を見たわけではない。一人だけ、攻撃もせずに、大人しく何かを観察しているかのような人物がいるのだから―…。


 そいつからは不気味な何かを感じるのだ。近づくのは危険ということだ。


 もしも、対決しなければならないのならば、俺が直接戦った方がいいだろう。


 「私たち一人一人で、上位主導者たちに勝つのは難しいが何とか弱らせたり、誰か一人を狙ったりすることができればいいのですが―…。」


 「美愛、それはかなり難しいと思う。上位主導者になってくると、対処してくるだろうし―…。

 私としては、上手く、連携していくしかないと思う。」


 美愛の言っていることに対して、夏鈴は、上位主導者たちの動きを見て、全員で一人を狙うのは難しいと判断する。


 俺もそう思わざるをえない。


 実際に、那留が俺をサポートするために、乱堂を攻めた時、テプテプがしっかりと対処していた。


 それに他の上位主導者たちも何か自分達に不利になることがあれば、動く可能性が高いと考えられる。


 たぶん、彼らは、連携もできる可能性がある。いや、個々の力もしくは戦闘経験でもあるのだろう。そうであるならば、どうすればいいかと瞬時に理解することも可能だ。


 かなり厳しい状況だ。


 俺が落ち着いて考えないと―…。


 「何ちまちましてるんだ。まあ、後、三分ほどは待ってやるから、考えな。

 俺たちは、常日頃から反抗者たちを潰してきているのだよ。

 それに、神力の才能が全員、高いのだからなぁ~。

 生まれた時から最強であり、挫折をも経験したことがあるし、己の無力を知ったこともある。

 神は強く、そして、俺らというちっぽけな存在に対して、簡単に素晴らしい教えを与えてくれるのだからなぁ~。

 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、考えろ、考えろ。

 そして、絶望しろ。」


 乱堂が言ってくる。


 俺の気持ちはかなり怒りという感情で支配されそうだ。


 まあ、支配されるということはないだろうし、これぐらいで怒りに飲み込まれて、冷静に対処できなければ、こちらは自らの死という結末しかないのだ。


 向こうはないかもしれないから、お気楽に負けても問題はないだろうけど―…。いや、神によって処罰が下れば最悪の結果すらなるのなら、どっちもどっちか。


 そんなことより、乱堂の言葉で怒るほどであったとしても、それより一番まずいのは、時間だ。三分後に攻めてくることと仮定すると、その時間が過ぎ去っていくなかでの焦りが危険だ。


 落ち着け、俺。


 「本当にイラつくことばかり言ってきて、相手に対する敬意というものを持つべきですよ、あの怒りんぼう。」


 「イラつくことをやるのは、那留さんも同じですよ。」


 「那留ッちが同族嫌悪してる。」


 「同族じゃないから、あんな馬鹿とは!!」


 那留が何かを言うと、美愛と羽奈がそのことについて何かを言うのだった。それに那留が気にいらなかったのか、反論するのであった。


 まあ、余裕なことを言えるのは、今の状況でも精神的に大丈夫だってことだ。後は、動きさえ固くならなければ、まだ対抗することはできる。


 「落ち着こう。相手の中で一人だけ何もしていない奴がいる。そいつは明らかに不気味だ。

 必要以上に関わるべきでないと言っても、意味がないだろう。そいつと戦う時は俺だけで…いや、全員で攻める。今はそうしよう。

 そして、乱堂とかいう人物は、四天王の中で一番雑魚のキャラだという認識で対処すれば十分だろう。

 それでも、実力は折り紙付きということで―…。

 連携開始といこうか。」


 そう、俺は言うとあの中二病のようなものを唱えるのだった。ある技を発動させるために―…。


 「我、魔法使いの力を発揮させる者なり。味方に希望を、敵に絶望を―…。

 今、我の力を発動せん。魔法使いたちを勝利に導かん!! 魔法使いの指揮者ウィザーズ コンダクター。」


 こうして、念話と俺の彼女達を強化する。


 その時、不気味な奴が俺の方へと視線を合わせるのだった。何を考えているのかわからないけど、それがわかった時は―…、それはないか。


 それでも、今は、ここにいる上位主導者たちを撤退させるのが一番だ。


 「何か中二病の技を使ってきやがったか。まあ、それがヤバいのはわかる。だけど、今の俺たちでは何も問題はない。」


 乱堂がそう言うと、俺へと向かってくるのだった。


 「十言先輩に近づけさせません。」


 那留がすぐに、乱堂の目の前に瞬間で移動する。


 「一回目と同じことを繰り返すかぁ~。じゃあ、今度も攻撃を―…。」


 と、テプテプが那留の目の前に出現する。


 その間に、乱堂は、直線での移動をわずかに変え、俺へと再度向かってくるのだ。その動きは、ほんのちょっとの時間しか消費していなかった。


 動きの無駄がかなり少ない。


 どんだけ、戦い慣れているんだよ。実力を含めて―…。


 「今度も、あなたですか。名前など覚える気はないのですが―…。」


 と、那留が言いかけたところで、テプテプが言う。


 「おいおい、名前ぐらいは憶えておこうぜ。俺の名はテプテプと戦う前に名乗ったのに―…、那留ちゃん。」


 テプテプは、やれやれとした顔で言うのだった。


 「隙あり。」


 「!!!」


 テプテプは驚く。


 そう、那留は、自らの右手に魔力を溜め、手袋を熊の手の形に膨らみ、それをグーにしてテプテプを殴るのだった。


 「魔覆 熊のようなベアリッシュ殴打ストライク。」


 と、那留はテプテプに自らの攻撃を当てるのだった。

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