第241回 長真家の家訓

 ~長真彩華 View~



 私は午後の授業を受ける。


 本当に、なんで各田十言を生徒会に入れないといけないのか。


 いや、他の生徒を何で、生徒会に入れないといけないのか。


 私としては、あれがバレると不味いんだよ。


 ただでさえ、学生生活とのバランスを保つのは難しいのだから―…。


 周囲には言っていないけど、生徒会長にはなりたくなった。


 周りの生徒たちによって、強制的に指名されて生徒会長にさせられるし、誰もなり手がいなかったから、拒否することもできずに―…。


 あの時間を減らすのだけは絶対に良くないのだから―…。質が低下してしまうよ。


 それでも、生徒会室でそれをうまく隠しながらすることができるのだから―…。


 持ち物検査でバレないように、生徒会室に一台置いているのだから―…。


 二台も買うのは、高かったんだよ。良いものだから―…。


 私が私のままでいられる大事な時間なの。


 本当、私って、自分のしたい時間を奪われる運命にあるのかな。


 私は、父が言っていた長真家の家訓を思い出す。



 ―長真家は、昔からある人物を守るためにある家なんだ。守護者と言ってもいい。だけど、その人の子孫はどこかへ消えてしまった。今、どうなっているのか長真家でもわかっていない。もし、その家が殺されているのならば、神信会はそのことを宣伝している。なぜなら、その家はとある種を宿した女性がずっと自らの魔力を消費しながら育てているのだ。来るべき種の開花者が現れるのを―…。そして、それを守護しているために、私たちは神信会や神から命を狙われることもあった。時には物理的な暴力、また、別の時には密偵を送り内側からと―…。だから、彩華。私たちは迂闊に他人を信じることができない。それでも―


 そう、他人を信用してはならない。


 長真家は、神信会や神に対して中立を保ち続けている家だ。


 この家の歴史は長い。


 神によって人類が滅ぼされた後に、神が人を創造した時から存在するようになった家なのだから―…。


 そして、主神ではなく、創神によって創られた人間で、その創神という称号という神の役職は別の奴が背負うようになったという。


 そして、来るべき日に、長真家は種の開花者を守るのが役目だと言った。


 私としては、何で自分を犠牲にするようなことをしないといけないのかと思っている。


 だけど、父は、私が継ぎたいと思えば継げばいいと言ってくれたし、そうだと思わなければ、継がなくてもいいと言ってくれた。


 そういうわけで、父との仲も悪くはないし、母は私の理解者でもあった。


 だけど、父も母も私の趣味を知らないし、たまたま懸賞金のある絵の大会で賞金を得ていると誤魔化している。そんな絵の大会を私は一切知らないのだけど―…。


 でも、何も追及しないということは、私の自由にさせてくれるので、ありがたい存在であるし、娘の気持ちを気遣ってくれる良い両親だし、将来的には家は継がないで、別の方法で恩返しをしたいと思う。


 考えていたら、自分のことまで話してしまった。


 それでも、各田十言を生徒会に入れたいとは思わないし、赤の他人と関わり合いたくないし―…。


 他の人なんて、私の素のままの自分なんて見ていないし、それに、長真家の家訓にあるように、私から長真家のことを知って、私を含めて殺そうとしているのではないかとさえ思う。


 各田十言は、神へと反抗しているから、私を殺すということはないけど、神や神信会に反抗なんて信じられない。


 それに、そこから命を狙う必要があると神信会に思われるし、ろくに関わるべきではない。


 一番頭にくるのは、なぜ、あんな男に複数の彼女がいるのかということよ。本当にムカつく。


 私も女の子は好きだよ。別に恋愛とかではなく、私の趣味の関係上、ちゃんと知っておく必要があるし、私一人だとどうしても自分の趣向になってしまい、別の視点というものを欠いてしまうし―…。


 別にいやらしい意味で言っているわけではないから―…。いやらしいものと関係がないわけではないけど―…。


 それよりも、各田十言は、あんなにも複数の彼女がいることは、きっと淫らな生活を送っているにすぎない。恋愛っていうものはね、そう、甘々で、ドギマギの瞬間が絶えずあるという―…。


 「長真さ~ん、聞いていますか。」


 ?


 なんか声がする。

 

 ……………………


 「長真さ~ん、聞いてますか~、今、授業中ですよ~。」


 あっ、授業中だった。


 「すみません、昨日からいろいろあって、ボ~っとしてしまいまして―…。」


 私は、授業している漢文の先生に謝るのであった。


 授業のこと、そっちのけで考えるなんて―…。


 各田十言―…、許すまじ。


 その後、私は、授業を何とか真面目に受けるようにした。



 ◆◆◆



 放課後。


 私はすぐに生徒会室に向かい、大量にある書類に目を通し、不備がないかチェックし、承認できるものに対して、承認するのであった。


 生徒会長になった時は、書類も少なかったが、最近は文化祭の関係もあり、書類が増えているような気がする。いや、明らかに増えているか。


 他の人を入れたいとは思うけど、他の生徒とは信頼関係もないし、私の趣味のことを話しても理解はされないだろうし、それに、話してもいいほどに信頼できる人など存在しない。


 私は、たぶん、家以外では、一人でしかない。自分以外を信用することなどない、誰かを信用できる将来は訪れるはずもないのだから―…。


 今日も、生徒会の仕事を一人頑張るのであった。


 まあ、その間に、イライラした時とか、疲れた時に趣味のことをしていたりする。そのストレスを趣味のはけ口にするのだ。


 今日もイケる。


 うん、良い出来だ。


 今日も趣味は捗るというもの。


 夜になる前に一応、今日するべき書類の処理を終わらせ、寮へと戻るのであった。

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