第12回 スマホを拾って、御縁があるとは思えない
◆◆◆
歩く。
家の近くのスーパーは、歩いて10分から15分程度の距離にある。
大きなスーパーというわけではない。
だけど、そこそこに品揃えは良く、お菓子などもコンビニよりは豊富だ。
そんなスーパーへと向かって俺は歩いている。
そんななか、ふと、考えてしまう。
チョコっとスパイスって…、変な名前を付けるなよと思ってしまう。
実際に、そのようなものなのだ。ブロックの形をしたチョコにスパイスがかかっている。
味は、唐辛子が少しだけ辛く、シナモンがふりかけられているもの、胡椒をかけているというものまである。
興味本位で俺は、前回スーパーに行った時に買ってしまったのだ。
俺は食べたけど、なぜ、あれが流行っているのかわからない。
俺からしてみれば、チョこっとスパイス開発担当者の味覚、大丈夫か、と問いたい。
それをアルケーが好むのだ。
猫って、辛いのとかシナモンなどの香辛料って大丈夫なのか、と思ってしまう。
だけど、アルケーは大丈夫だし、玉ねぎさえも普通に食べている。
時々、思ってしまう。アルケーは本当に猫なのか? と。
ふと、前を見ると、美しい後ろ姿をしている女性が俺の前を歩いている。
彼女は、十代かもしれないし、後ろ髪が背中から腰付近までの長さで、色は黒と、美少女であれば、間違いなく大和撫子とアルケーが叫びだすほどのものだ。
彼女は、制服を着ていた。
たぶん、あれは―…、葉積城台のだ。
俺のクラスの男子も女子も噂をしていた。
葉積城台の制服は、この地域の中で一番可愛い、と。
それに、葉積城台に美少女が多い、と。
俺も男として、興味があるといえば、めっちゃある。
だけど、男子のそのような会話に加わることが一回もできていない。
それが災いしてか、アルケー以外の人間に関しては、コミュニケーションが上手くとれないのではないかと思ってしまう。
ろくに、他の人と話すことがないのだから、当たり前のことでしかないが―…。
会話苦手キャラでありませんように、と祈ってしまいたいほどだ。
そんななか、彼女の上着の左ポケットに入っていた、大量のじゃらじゃらしたものやストラップのついたスマホがポケットから離れて、道に落下していった。
そんなことに、彼女は気づかなかった。
その様子を見た俺は、彼女のスマホを拾って、彼女に声をかける。
「スマホ、落としましたよ。」
と。緊張する~~~~~~。う~~~~~~~~。
それでも、俺は言葉の抑揚よりも勇気を振り絞った。
彼女もスマホがないと、いざっという時や、友達とチャットークをする時に困ってしまうかもしれない。
そんな親切心から俺は、声をかけているのだ。
そして、俺の声に気づいたのか、彼女は俺の方に向かって振り変える。
彼女の素顔を俺は見た。
言葉を失う。失ってしまうだろう。
美少女なのだから―…。
でも、可愛い一面をのぞかせているが、それ以上に美しいと感じてしまうもののほどだ。
凛としたものを感じさせるが、人を遠ざけるようなものではない。
親しみのあるの印象を受ける。
彼女のことをじっと見ながらも、彼女のスマホを掲げる。
「あっ、拾ってくれたのですね。ありがとうございます。」
彼女は、俺が持っている自らのスマホに気づき、拾ってくれたことに感謝する。
俺は、彼女のスマホを彼女に渡す。
「私は、学校があるので失礼します。お礼ができずに申し訳ございません。」
「いえ、大丈夫ですよ。もしも、あなたの近くに困った人がいて、助けられると思った時に助けるのが、さっきのお礼になりますから。」
彼女が申し訳なさそうにするけど、俺はそんなことは気にしていなかった。
気にするわけがない。彼女の所作がとても綺麗に感じたからだ。
礼儀が正しい、と思わせるぐらいには―…。礼儀に関しては、詳しく知らないし、彼女自身が詳しく知っているとは限らないが、そう思えてしまうほどだ。
こうして、彼女は、葉積城台学園の方へと向かって行くのであった。
もしも、アルケーがここにいるのなら、スマホの電話番号やチャットークのアドレスを交換しろだと言うかもしれない。
それでも、思うんだ。
あの子にとって俺のような人物と友達および彼氏になることが、役不足でしかない。本来の役不足という意味で言うと―…。
そう、彼女には、もっとイケメンのような人や、心根が優しい人が似合うんだろうと、俺は勝手ながらに思う。
今日のことは、思い出の中にしまって、アルケーに言われたチョコっとスパイスやその他の必要なものを買うためにスーパーへと向かうのであった。
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