第9回 始まる神との戦い~第三者視点にて~

 ◆◇◆



 物語る者は、十言から第三者に変わる。

 ここは、神信しんしん会本部。

 その中の神たちが会議する場所。

 今は、暗く全容がわからない。

 だけど、わかっていることはある。この場所では、神は上から人を見降ろし、人は神を見上げるようになっている。

 神とは、この世界を創った者およびその時に生き残った者たちである。一人だけ例外はいるが―…。

 神は全員で八人である。内訳は、神のトップに君臨し、この世界を創った主神しゅしん、そこから、創神そうしん、魔神、妖神ようしん天神てんしん知神ちしん冥神めいしん心神しんしんという主神に仕える七神がいるのだ。アルケーがよく言う神というのは、主神のことである。

 今、神についての情報を出すことは、ここまでということになろうが、会話の中や地文などで触れられることであろう。

 そう、しだいに神に関しては、わかってくるのだ。今はまだ、語りを聞きながらで良い。

 神たちが会議する場所には、八人の神と神信会のトップである信仰長がいた。

 信仰長は神を見上げる。見上げなければ神を見ることはできないのだ。だから、信仰長としてはそうするしかない。

 それに、この信仰長は、神を信仰しており、神が認める道徳的に反した行為さえ、神が言うのだからという一言で済ませるという、自分で考えるということが欠如、いや、放棄に近いものをなしている人物である。

 決して、すべてにおいて考えるということを放棄したわけではないが―…。

 簡単言えば、神に絶対服従し、それを何よりも優先させてしまうのである。だけど、この信仰長という人物も人である以上、神に死ねといわれても、理由などを直接神に聞き、自らの命が助かろうとする行動をとるであろう。

 おっと、ここは、信仰長の性格を長めに触れてしまった。少し反省だ。

 なぜ、ここに信仰長がいるのか。

 それは、神が神信会にある重要な命令を発するからだ。

 神は、神信会という組織を通して、命令を発するようにしている。神というものを絶対的に、いや病的なほどまでに信仰し、その逆の自らの利益を神に後ろ盾してもらおうとしている者たちが出世する事実上の仕組みとなっている神信会は、いい具合に神の隠れ蓑になっているのだ。

 欲深い者は、臆病であったり、自分を守るための方法に秀でていたりする。そういう者たちを利用することで、神は自らが創った世界を神の思うがままになそうとしているのだ。

 欲深い者たちは、ヤバくなれば簡単にきることもできる。そういう奴らは、たいてい、後ろ暗いことの一つや二つを平然とやっていたりする。だから、それを脅しの材料にしたり、力でねじ伏せることができるのだ。人という者は、神によって創り出され、都合の良い駒でしかないのだから―…。


 「神様、一体どのような命令を発せられるのでしょうか。」


 信仰長は、今、目の前に、いや、正確には、上にいる神たちに怯えていた。神の命令は絶対であり、完全な失敗は原則として許されないのだから―…。それでも、許されることもある。

 だけど、神の気まぐれによって、神の命令に失敗した者は、制裁を下される。軽いものであればいいが、最も重いものであれば、“死”という最後を神によって強制的に迎えさせられる。

 ゆえに、失敗が許されない神の命令が信仰長にとって可能なことであるのかを、祈るのであった。神が目の前にいて、神が命令を発するのに―…。


 「信仰長。そう、怯えるものではないぞ。つい、お前の存在を消したくなってしまうではないか。」


 「えっ。」


 主神は告げる。信仰長を見て、冗談で、怯えている信仰長という存在を消そうか、と。

 その言葉を聞いた信仰長は、顔を蒼白にさせていく。


 (死にたくない、死にたくない。)


 信仰長の心の中は、死にたくないという言葉が頭を巡らせて、パニックになるのだった。余計に落ち着くことができなかった。

 主神は、それが面白かったのか、心の中で笑いながら信仰長を見るのであった。愉快、愉快と心の中で言葉にしながら―…。

 まあ、これ以上、信仰長を弄りすぎると自らの命令がはっきりと伝わらないと思う。神の命令はしっかりと伝えられてなんぼのものであるから―…。


 「冗談だ。信仰長。お前を今、殺す気などはない。怯えずに、神の命を聞くがよい。」


 主神は、信仰長に落ち着くように言う。

 そこから数分ほど時間がかかったが、信仰長は心を落ち着かせることに成功する。

 信仰長としても、神の命令という重要なものをしっかりと正確に自らの部下に伝えないといけない。神の命令は、間違われてはならない。間違えばそれだけで、間違えた者に対して、厳重な処罰、粛清がおこなわれるのだから―…。王や神たちによって―…。


 「神の命を伝える、信仰長。」


 「何でしょうか。」


 「ついに、神を滅ぼすための種は目覚めてしまったのだ。その人間を殺さなければ、人類は最悪、滅びかねない。その人間の名は、各田十言。彼は、我ら神や王以外の者でないと殺せない。目覚めさせてしまった以上は―…。

 確実に、各田十言は、魔力因子を持っている女と接触するようになる。そして、各田十言が、魔力因子を持っている女の力を開花させれば、神信会は危機に陥ってしまうだろう。

 そうなる前に、魔力因子を持っている女を探し出し、殺せ!! 神を信仰せぬ者を許す人類の未来は、神による破滅しかない!!!」


 主神は、信仰長に命令を伝えるのであった。

 それは、各田十言が自らの力に目覚めてしまった以上、神や王以外では殺せないので、魔力因子を持っている女性を見つけだして、各田十言が彼女たちに接触する前に彼女たちを殺せというものであった。

 魔力因子を持っている女性は少なく、神信会の神力の測定方法では発見すること自体不可能である。ただし、稀に見つかることもあるが―…。


 「聖女に関しては、どうしましょう。」


 「聖女は、例外にして構わない。そう遠くないうちに、我らのものとなって死ぬのだから―…。」


 信仰長は、聖女に関してどうするのかを尋ねた。

 理由としては、聖女は、魔力因子を持っているの者を神信会が聖女の役職を与えて、監視下に置いておくのである。そうすることで、神の滅ぼす力の持ち主に接触させないようにするのであった。

 そして、主神は、聖女を殺す対象から外すのであった。確実に、聖女は、神の手によって死ぬという運命を決定づけられているのだから―…。

 聖女も対象にさせてしまえば、神信会に不信な感情を抱く者が現れかねないのだ。 

 ただし、ある儀式によって聖女が亡くなることは、人類にとって、神への供物としていう意味でこの世界において認められた公式の儀式である。その場合に限り許されている。だって、それは、神が人を創った時から続く儀式で、人類のためにおこなわれていると認知させているからだ。

 そのため、無暗むやみに聖女を殺すことは、主神にとっていいことではない。だから、殺す対象から外し、少しでも聖女以外に魔力因子を持っている女性を殺すことに、注視できるようにするためだ。


 「はっ、かしこまりました。」


 信仰長は、神に向かって深々と礼をするのであった。

 その様は、土下座するような感じであった。主神としては、面白おかしく見えるのであった。自らに理不尽をくらわせていた奴らが、あの日全員跡形もなく滅び、今は、理不尽をくらわされる側にまわっているのだ。これが、これほど気持ちのいいものとは―…。

 何度も、何度も、この土下座のような光景をみると感じてしまうのだ。飽きというものがこないのだから不思議で仕方ない。

 そして、神は全員、この場所から退出していくのであった。

 神全員が退出すると、信仰長は立ち上がり、神信会に神への命令として伝えにいくのだ。

 一言一句、間違えのないように―…。



 ◆◆◆



 神信会日本本部。

 大使室。ここには、日本大使がいた。

 そして、神信会の命令を受ける。


 「魔力因子のある女を探し出してほしい。そのための機材をすでにそちらに送った。わかっているね。」


 神信会本部の伝令が日本本部の大使に直接、通信電話で伝える。

 通信電話とは、パソコンなどの機器を介して、相手の素顔を見ながら会話することができるのだ。

 2020年から起こった大きな感染病の脅威によって、航空便や人の移動することができなくなった時に、より活用されたとされる。ただし、通信電話とは言わなかったようだ。


 「わかったわ。」


 日本大使の女性がそう言うと、パソコンの画面から伝令が映っていたのが消え、通信電話が解除されるのだった。

 そして、日本大使の女性は、パソコンをシャットダウンさせる。

 その後。


 (本格的に神が行動を始めたみたいだね。一応、命令は日本本部および日本にある神信会の支部に伝えるとして、後は―…、あの人(?)にも伝えないといけないね。

 そして、各田十言。何をしてくれているんだよ~。もう少しで私、大使の任期が終わるところだったのに~。最後の最後で大仕事とか、ないだろ~。)


 日本大使の女は心の中で叫ぶのであった。自らの大使の任期が終わりに近づいて、平和に大使の任期が終わるはずだったのに―…。それでも、日本大使の女にとっての仕事、本当の仕事を理解していた。

 それは、今、まだ、知るべきことではないだろう。

 いづれ、わかることなのだから―…。


 

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