第3回 家には非日常という名の日常がある

 俺は、家へ向かって歩いていく。


 自然の風景が存在しない。


 辺りは、家ばかりだ。


 そりゃ、そうか。


 ここは住宅街なのだから―…。


 そんな中にある一軒家である自分の家へと帰る。


 途中、コンビニを過ぎ去っていく。


 ここは、俺がよく、買い物をするコンビニだ。


 家のあるじに頼まれて、雑誌などを買ったりする―…。


 この通学路も、もう歩き慣れてしまって、何の面白みも感じなかった。


 だけど、面白みのない通学路を歩かないと、家へは帰れない。


 それに、家の主は、買い物をすることができない。昔は姿を変えてしていたのだけど―…。


 できるわけがなく、その姿を見れば、皆がそう思うだろう。


 だから、うちは、野菜や総菜、冷凍食品などを配達してくれる業者に依頼して、すべて家まで配達してもらっている。


 もし、俺の家の主を見たものは、そのファンタジーさに驚くだろう。


 俺の家の主、母親という扱いなのだけど―…、それがね、ね。


 これ以上は、家に帰ってからのお楽しみだ。


 うん、それがいい、いいに決まっている。



 ◆◆◆



 神信学園の校門を出てから二十分ほど歩いた距離に、俺の家がある。


 家は、一軒家で、平屋だ。


 二階はもちろんないし、階段もない。


 3LDKで、俺の部屋と、家の主の部屋がちゃんとある平屋だ。


 玄関を開けて、家の中へと入っていく。


 玄関を閉めて、鍵をかけて、靴を脱ぎ、リビングへと向かう。


 そう、そこに家の主がいるのだ。


 リビングのドアを開ける。ガラスのある扉だ。


 ちなみ、ガラスは、リビングの中が見えないようになっているものだ。


 リビングを閉めて、俺はリビングの中に入る。


 そこには、ひもを通したスマホを首からぶらさげ、スマホを前足で持ち、持っている前足とは逆の方で、スマホをタップしている猫(?)がいる。


 二足歩行で立っているのだ、猫(?)が―…。


 非日常と言わないで何と言えるのか。


 誰か教えてほしい。


 俺だって、俺だって、昔は、「僕のお母さんは、猫だ」なんて、幼稚園で一緒だった一つ年下の幼馴染に自慢したことがあるよ。


 だけど、そいつは、何て言ったと思う。


 「猫がお母さんって、とおげんくんは、猫人じゅうじん!!! アハハハハハ!!!!」


 笑われたんだよ。


 これ言ったの、俺が初恋した女の子だよ。


 まじでだよ。


 ショック、受けたよ。


 嫌いになったよ。


 その子のこと―…、そのせいで名前忘れてやったし!! フンッ!!!


 それ以降、俺はわかったんだ。


 俺は、普通の人と違うんだって―…。


 そんな人生送っているんだって―…。


 だから、これ以降、誰も俺は、母親のことを言えなくなってしまったんだよ。


 小学生の時も、中学生の時も―…。


 幼稚園や小学校で家族のことを描きましょうと担任の先生から言われた時は、いつまでも描けず、どうして? って優しい目されたよ。


 絶対、お前、私をいつまで困らせていると思われたに決まっている。


 忘れよ、こんな苦い思い出は―…。言ってて悲しすぎる。


 「何をぼーっとしているのじゃ、十言。」


 俺は、猫(?)によって、過去の悲しい思い出から現実へと戻される。


 「あっ、すまない。母さん。」


 と、俺は謝る。


 「謝らなくていい。それよりも―…、女の子のポロリ画像集がいつの間にか消去されてしまったのじゃ――――――――――――――――――――――――――。」


 母さんである猫(?)が悲しそうに、言う。


 それも血涙を目から流しながら―…。


 俺は思う。


 どうでもいいよ、そんなこと。


 女の子のポロリ画像集が消去されたことは―…。


 それ、息子に言うことか!!


 この猫(?)で、俺の母さんであるアルケーは、女の子が大好きなのだ。


 特に、可愛かったり、美しかったりする女の子が―…。


 そのため、スマホやパソコンに女の子の画像をよくフォルダにまとめて、集めているという。


 健全なものから、18禁のものまで―…。


 俺は、母さんであるアルケーのことをこう思ってもいる。



 ― 変態猫 ―



 えっ、そこじゃない。


 いや、変態であることは大事だよ。


 どうやって証拠を押さえて、警察に通報しようかというタイミングを考えないといけないのだから―…。


 そして、母さんが逮捕された時に、俺はどう対応すべきかを考え、その時の覚悟を決めないといけないのだから―…。


 いや、そこじゃない。


 他に何か大事なことがあるだろ…。


 猫(?)が人の言葉を話していることとか。


 ああ~、そうか。


 猫って、ニャ~だよなぁ~。


 母さんは、人の言葉を話すよなぁ~。


 そこも非日常だったぁ―――――――――――――――――――――。


 と、俺は心の中で目いっぱいに叫んだ。


 声にはしなかったけどね。


 こうして、俺は、人語を話す猫が非日常であることを改めて理解するのであった。


 俺、大丈夫かな。

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