第11話 前夜祭
レセプション・パーティー 当日
綺麗に着飾り、大人に成長した作品たち。
ここ数日、穏やか日々を過ごし、静寂な空間の中で眠るように呼吸していた。
しかし、今日はとても騒がしい。
作品の前には数え切れないほどの人だかり。
高級スーツに身をまとい談笑をする紳士たち。
色とりどりの眩いドレスを着こなす淑女たち。
国際色豊かな人々が、色んな言語を使い、楽しそうに話しをしている。
しかし、一皮むけば餓鬼の群れ。
今日も金のニオイを嗅ぎつけて、我先にと手を伸ばす。
紳士淑女の餓鬼の皆様は、誰よりも儲けたくて仕方がない。儲けたくてウズウズしてる。
それなのに、どういうわけだか皆様は、誰よりもお金を使いたくて仕方がない。有り余るお金を湯水の如く、自ら進んで使いたい。
止められない衝動。
湯水のように使えば使うほど、その分、儲けなくては気が済まない。そうでなければ意味がない。
この衝動は飢えであり渇きである。
腹が減り、喉が渇けば、誰でも本能に従い行動する。
一口食べれば、もう一口。一滴飲めば、もう一滴。だから止められない。誰よりも高く手を伸ばす。欲するままに手を伸ばす。
そんな
クラウドの絵に注目している者など一人もいない。
絵に興味があるのかさえ疑わしい。
美しく整った静寂は、あっという間に汚された。
「大盛況ですね。」
壇上の袖から紳士淑女を見ていた田中が嬉しそうに話す。
田中はここまで大きなイベントに携わったことがなく、見るものすべてが新しく、感じるすべてが未知の世界。まるで、おとぎ話に出て来る舞踏会を覗いているような気持ちになり、自分が関わったという感触がない。何だかフワフワとして、地に足が着かない様子。
「短い期間だったけど、何とかなったわね。」
田中の後ろに立ち、遠藤がそっと声をかける。
「田中さんも頑張ったわね。」
田中の右肩にポンと手を置き、上司として、頑張った部下に労いの言葉をかけた。
「いいえ。私は室長の指示に従っただけですから。」
謙虚に答えたが、遠藤のその一言で、田中はこれがおとぎ話ではなく、自分が関わった仕事なのだという感触が右肩に乗せられた手からジワジワと伝わって来た。
「しかし、本当に江口様を呼ばなくてよかったのかしら?」
遠藤が心にもない心配を口にする。
「お願いしたのですが、居てもジャマになるだけだからと仰って。」
「そう。それじゃ、仕方ないわね。」
アリバイ作りのような定型文を無機質な感情で話し、江口の話題を投げ捨てた。
遠藤にとって今日は重要な一日。神経を逆なでする江口はいない方がいい。自分から断ってくれて、むしろ、一つ仕事が減って助かった。
深入りする気は毛頭ない。流れて行く水のように、江口の話題をサッと流し、目もくれず、次に行く。
江口の登場はここまで。相手をしている時間はない。
「準備はいい?」
声と共に袖の奥から、真っ赤な薔薇が現れる。
「女王」のお目見えだ。
その出で立ちは、まさに薔薇。「女王」そのもの。
真っ赤なドレスを上品に着こなし現れた。
いやらしさのない真紅の色が品の良さを醸し出し、それでいて、自己主張を決して忘れない強い赤。
「女王」だけが着こなせる鮮烈な色。
薔薇が歩く度にサラサラとドレスが揺れ、優雅な香りが後に残る。
歩いた跡でさえ、そこに「女王」が居たのだということをはっきりと認識させるため、紳士淑女の皆様の飢えて渇いた記憶の中にガリガリと刻み込み、誰が主役なのか教え込む。
今日の「女王」は、いつにも増して美しい。ため息が出るほど美しい。
この会場の誰よりも輝き、誰よりも華やかで、そして、誰よりも強欲。
クラウドの絵でさえ、くすんで見える。
「それじゃ、行くわよ。」
止まることなく、二人の間を通り過ぎ、そのまま壇上の真ん中へと歩み出る。
都合も時間もすべて「女王」のもの。「女王」が合わせることなどあり得ない。
「女王」が颯爽と壇上に現れた瞬間、あれほど騒がしく、荒立っていた会場がピタリと止み、凪になる。
汚された静寂の空間が、「女王」の登場によって蘇生した。
一斉にカメラのフラッシュが眩くうねり出す。
これは司会者が「女王」を招き入れたわけでもなく、華美な演出があったわけではない。「女王」の存在そのものが、紳士淑女の皆様に伝わり、自然と壇上に目を向けさせたのだ。
蘇生した静寂の中、フラッシュに包まれた「女王」を見て、紳士淑女の皆様は、その美しさに息を吞む。
ため息することさえ忘れるほど美しい。
女性司会者が慌てて「女王」を紹介すると、自然発生的に拍手が湧き起こり、会場全体に響き渡る。
そして、その音は、すぐに大波となって、「女王」の元にカメラのフラッシュと共に押し寄せる。幾度も幾度も繰り返し、「女王」の元の押し寄せる。
涼しい顔して「女王」は、そのすべて受け止める。
その涼しい顔のまま「女王」は、ゆっくりと中央にあるマイクへと近づく。
押し寄せていた波が、再び突然、凪になり、音が一瞬にして姿を消した。
この世に存在するすべての音が消え去ったのではないかと不安になるほどの静けさが会場全体を支配する。
気味が悪いぐらい無音の空間。
静か過ぎる静寂。
瞬くフラッシュさえ聞こえない。
皆、「女王」の言葉を聞き漏らさぬよう、固唾を飲んで待っている。
「女王」の発する言葉は“金のなる木”。“金の卵を産むガチョウ”
どんなにジェントルマンな立ち振る舞いをしても、どんなにエレガントに着飾っても、その正体は餓鬼の群れ。金の臭いに逆らえず、我慢もできず、飢えと渇きを満たしてくれる美味しい臭いに誘われて、いそいそと銀座のド真ん中までやって来た。
誰よりも得をして、誰よりも儲けたい。
グウグウと腹の虫を飼いならし、カラカラの喉に唾を流して、紳士淑女の皆様は、「女王」の言葉を嗅いでいる。損をしてはならずと嗅いでいる。次の金儲けの話を嗅いでいる。
その飢えと渇きが、「女王」にヒシヒシと伝わって来る。
その
空いた腹の底から渇いた喉を通り、出て来た醜い手。その手がギラツキ、明け透けなほど
上品に澄ましていても、壇上の「女王」からはよくわかる。バレていないと思っていても隠し切れない餓鬼の群れ。
「女王」にはお見通し。
どんなに上手に隠しても、醜さだけは隠せない。醜さだけは抗えない。
それなのに紳士淑女のフリをして、「女王」をジッと見ている。
その顔が面白くて堪らない。
その
何度、味わっても笑みが零れる。
だが、その
儲け話のエサを蒔き、わざわざここまで来させたのだ。理由は至って簡単、「女王」の価値を上げるため。その道具として飢えて、渇いた餓鬼が必要だった。
我先にと伸ばしたその醜い手で、「女王」を高みへと押し上げる。
必死に高く手を上げれば、上げるほど「女王」の価値は上がる。
紳士淑女もクラウドも、すべて「女王」の価値を上げるための道具でしかない。
そうして集まった餓鬼の群れが、壇上に立つ「女王」を見つめる。
口元を微かに緩ませ、「女王」がゆっくりと話し出す。
「皆様。急なご招待にも関わらず、各もたくさんの方々がお集まりになって下さったこと。私、五十嵐 美樹。社を代表して、厚く御礼申し上げます。」
一歩下がり、「女王」は深々と頭を下げる。
すると、割れんばかりの拍手がまたも自然発生的に湧き上がる。それはまるで、主演女優がカーテンコールを受け、挨拶をしているようだ。
「女王」はゆっくりと頭を上げ、会場を見回し、着飾った餓鬼の群れの
「皆様。掛けてある絵をご覧ください。」
「女王」がスッと両手を広げ、壁に掛けてあるクラウドの絵に視線を向けるよう促すと、素直な紳士淑女の皆様は言われるがまま、近くに掛けてあるクラウドの絵に視線を向けた。
「これが今、世間を、いえ、世界中を席巻している画家、クラウドの作品でございます。」
「女王」の号令と共に、どこからともなく低い感嘆な声が会場に響き渡る。
さっきまで絵に見向きもしなかった紳士淑女の皆様たちが、さもわかったような顔をして、クラウドの作品を見始めた。
この中で、クラウドの価値に気付いている人がどれだけいるのだろうか?
グロテスクで不快。
陰湿で狂気。
抽象的で意味不明。
こんな絵を見て、「女王」のように感銘を受ける人間がどれだけいるというのか?
しかし、「女王」は端から期待などしていない。
ここに集いし紳士淑女の皆様は有象無象の餓鬼の群れ。話題作りに呼んだだけ。
クラウドの作品を世に大々的に喧伝し、宣伝してもらうにはエキストラが必要だ。できるだけ見栄えのいいエキストラが枝葉末節居ればいい。
本物を見抜く、目利きたちからハンコをもらえばそれでいい。
そのハンコを見て、ここに集いし餓鬼の群れ。我先にと手を伸ばす。損をしまいと手を伸ばす。乗り遅れまいと手を伸ばす。
それでいい。
その飢えて渇いた貪欲がクラウドを上へ上へと押し上げる。「女王」を上へ上へと押し上げる。
「女王」は扇動的な言葉を放つ。
「私はここで皆様に断言します。クラウドは必ずや、近い将来、日本絵画を代表する逸材になることを!」
またも低い感嘆の声が会場に広がる。
すると、不思議な化学反応が起こった。
餓鬼たちが反応したその声に、なぜだか「女王」も触発され、ずっと秘めてきたクラウドに対する熱い想いが無意識のうちに解き放たれ、扇動的な言葉と交じり合う。
「はじめて、クラウドの作品に触れた時、私は衝撃を受けました。それも例えようもないほどの衝撃です。今まで何百・何千という作品を見てきましたが、ここまで才能溢れる画家に出会ったことはありません。」
美術家としての顔を覗かせる。
それは「女王」本人も気付いていない微量な微量な化学反応。
だがしかし、これは「女王」の偽りなき真実。心の奥底に閉まっていた本音。
それが伝わったのだろう。綺麗に着飾った品のいい餓鬼の皆様が、熱のこもった「女王」の言霊に心奪われ、マネキンのように立ち尽くす。
ビー玉のような無数の
「女王」の言霊に、ますます熱がこもる。
「ここにあるすべての作品が、そう遠くない未来、ピカソやダリと言った錚々たる画家たちと肩を並べ、同じ場所に飾られることでしょう。これは予想ではなく、事実です。クラウドは正真正銘の天才です。」
水を打ったような静けさとは、こういう状況を言うのだろう。
誰も皆、「女王」から目が離せない。ピクリとも動かない。
ある淑女は隣の紳士に寄り添いながら「女王」を見つめ動かない。またある紳士はグラスを持ったまま微動だにせず、「女王」の言葉に聞き入っている。
時が止まる。
時が動かない。
「女王」の自信に満ち溢れた声が静寂を取り戻した会場に響き渡り、魔法をかける。
「女王」は、その光景が可笑しくて堪らない。
大声を出して笑いたいほどゾクゾクしている。
「女王」は時さえも簡単に止められる。
グラスについた水滴だけが、その中をゆっくりと流れて行く。
「女王」は笑いたい気持ちを抑え話し続ける。
「そう聞いて大袈裟ではないか?と思った方もいるかもしれません。でも、それは事実です。テレビを観て下さい。新聞を読んでください。その中にクラウドが存在しています。しかもそれは日本だけではなく、世界中で存在しているのです。これが事実でなければ何が事実というのでしょうか。」
時は止まり続ける。
「皆さまは今、歴史の始まりを見ているのです。後世まで語り続ける画家。クラウドの始まりを。」
「女王」の言葉だけが、その中をゆっくりと流れて行く。
「でも、ちょっと大袈裟だったかしら。」
緊張と緩和。笑いが漏れる。
お茶目な顔して「女王」が、再び時間を動かした。
消えていた音と光が鮮やかに蘇り、和やかなムードが優しく会場を暖め、紳士淑女の皆様を生き返らせる。
息が止まるほど凍らせてもつまらない。かわいい「女王」を織り交ぜて、観客を喜ばせる。
ただでさえ、つまらない人生を送っている紳士淑女の皆様も、少しは非日常の気分を味わえる。
「女王」はサービス精神も忘れない。
「堅苦しい話になってしまって、ゴメンなさい。さあ、明日からは、いよいよアート展が始まります。今日は前夜祭。新しい歴史の幕開けです。皆様、今宵は楽しんで行って下さい。」
忘れていた拍手が会場を割れんばかりに響き、鳴り止まない。それに負けじとカメラのフラッシュも激しく光輝く。
憧れの拍手と羨望の光が、時雨となって「女王」の上に降り注ぐ。
「女王」はそれを黙って受け止める。
壇上から降り、「女王」は餓鬼の群れに入って行く。するとモーゼの十戒の如く、人波が大きく二つに割れ、「女王」のためだけの道が姿を現す。
選ばれし者だけが歩ける道。
餓鬼たちが作ってくれた「女王」の道。
「女王」が止まると餓鬼たちが集まり寄って来る。「女王」を中心とした餓鬼の輪ができ、その輪は幾重にも人垣を作り、「女王」詣でが始まる。
餓鬼たちが我先にと「女王」に拝謁を乞い、列ができる。
確かにそこには “この世の中心” があった。
次々とヨダレを垂らした餓鬼たちが喜び勇んで拝謁して来るが、もちろん「女王」は誰一人として覚えていない。覚える気もない。
そのため「女王」の横に遠藤が影のように張り付き、次々と目の前に現れる餓鬼の正体を耳元で囁く。その行動は実にさりげなく、堂に入ったものだ。
それを「女王」は瞬時に理解して相手と話を合わせる。
以前、どこで会ったか記憶になくても、興味がなくても、「女王」は相手の話す内容に沿って相槌をして、さらに話しを弾ませる。華やかさの中にユーモラスな花を咲かせ、餓鬼たちとの距離を縮める。餓鬼たちは自分だけが「女王」と特別な関係になれたと夢心地になる。夢心地になるが、それは餓鬼たちが勝手に夢見た錯覚で、「女王」との距離は縮まらない。縮める気すらない。
夢心地にさせ錯覚させるのも「女王」の昔取った杵柄。銀座№1のなせる技。
餓鬼たちは夢心地の中、「女王」を見つめる。
「女王」がまた歩けば道が現れ、止まればまた幾重にも輪ができ、餓鬼たちが夢心地という錯覚の花を次々と勝手に咲かせ、のぼせ上がる。
錯覚の花があちこちで咲き乱れ、会場が花園になる。
銀座の伝説が、今もここで生き続けている。
誰もクラウドの絵など見ていない。
前夜祭の主役が誰なのか。誰のために設けられたステージなのか。言わずもがな明明白白。すべては「女王」陛下のために。
餓鬼が腹を空かし、渇いた喉で群がり、その周囲を不快な作品たちが取り囲む。
こんな掃き溜めに鶴の中、「女王」は待っている。最後の訪問者を持っている。
その訪問者を呼ぶために前夜祭は開かれた。「女王」をさらなる高見に押し上げてくれる者が必要だ。餓鬼たちの飢えと渇きをさらに強くするために必要な人物。それを「女王」は待っている。その時を待っている。
「素晴らしいですよ社長!」
「女王」の背中から男性の声がした。それは「女王」が望んでいた声。
「女王」は焦ることなく、優雅にゆっくりと振り返る。
そこには六十代のロマンスグレーの男性と三十代半ばの綺麗にドレスを着こなす女性が立っていた。
「あら、先生方。お久しぶりです。今日は起こし下さり有難うございます。」
「女王」は敢えて絵のことには触れず、社交辞令の挨拶から入る。それに我慢できなかったのか、ロマンスグレーンの男性が堰を切ったように話し出す。
「この絵は本当に素晴らしい!社長が仰る通りクラウドは正真正銘の天才です!これは決して大袈裟ではありませんよ。この画家は唯一無二の存在。日本芸術界の未来。宝ですよ!」
余程、興奮していたのだろう。男性は大きな身振り手振りで「女王」にクラウドに対する熱い想いをぶつけた。それに共鳴して、今度は隣にいた女性がクラウドに対する情熱を語り出す。
「剥き出しの負の感情を豪快な筆運びで、そのまま表現している。それでいて、バランスの取れた構図がパーフェクト!計算つくされた構図が、絵、全体のバランスを整え、芸術へと昇華している。ンー ブラボー!ファンタスティック!」
彼女のクラウドに対する情熱が、「女王」の前で溶岩のように弾け飛ぶ。
「女王」はその熱さを冷静に受け止め
「まあ、なんて素晴らしいことでしょ。御高名な、お二人の先生にそのような賛辞のお言葉を頂き、これ以上、嬉しいことはありません。クラウドもさぞかし喜んでいることと思います。ここに本人がいないのがとても残念。先生方のお言葉を是非、この場で聞いて欲しかったです。」
これを待っていた。その言葉を待っていた。
お墨付きには太鼓判が必要だ。
「女王」のお墨付きだけでも十分こと足りるのだが、そのお墨付きをさらなる価値あるものにするためには第三者の評価が絶対、必要だった。それも出来るだけ著名な人間の、名のあるハンコが欲しかった。それをクラウドの作品に押されれば間違いなく価値は上がる。一晩で天井知らずの価値になる。
クラウドの価値は「女王」の価値。
しかし、「女王」は金になど興味はない。寝ていても自然と金は「女王」の元へ寄って来る。
クラウドの絵がいくらで売れようが知ったことではないし、はっきり言ってどうでもいい。重要なのは、そのクラウドの絵の権利を誰が握っているのかということ。
世界が欲しがるこの天才の絵に首輪を付け、飼っているのは「女王」だということを鮮明にわからせるハンコが欲しかった。
「女王」が欲しかったのは「力」。
今、 “この世のの中心” で太鼓判が押された。
「女王」は確信する。周りに群がる紳士淑女の
それを見せつけられた餓鬼たちは、より一層、強く飢えと渇きを感じ、その欲を満たそうとクラウドの絵に手を伸ばす。
しかし、そう簡単に飢えと渇きは満たされない。
「女王」の許可が必要だ。
その “この世の中心” の入り口はとても狭く、中にはいるのは難しい。いくら金を積んでも、いくら乞うても入れない。
「女王」は慈悲の心など持っていない。そんな腹の足しにもならないものが欲しいのならば、神様に頼めばいい。いくらか心は満たされるだろ。
神様も手にしてない「女王」だけが所有する世界。
これから、“この世の中心”の入り口で、数えきれない餓鬼たちが列をなす。それを思うだけで、不謹慎なまでの高揚感が「女王」の躰全体に流れて行く。
「クラウドに代わりまして、私の方からお礼を言わせて頂きます。身に余るお褒めの言葉、本当に有難うございます。」
「女王」は腹の足しにもならない感謝の言葉を、二人の専門家に述べ、深々と頭を下げた。
ここぞとばかりにフラッシュが騒ぐ。
そのフラッシュの瞬く音の中に紳士淑女の皆様の唸るような飢えと渇きの声を「女王」は聞き逃さなかった。
「女王」は手を抜かない。
最後の最後まで「女王」を見せつける。
こうして、前夜祭は華々しく開かれた。
主役の薔薇が輝き出す。
紳士淑女の皆様の満たされない欲を吸い上げて、禍々しく真っ赤な薔薇が、“この世の中心” で咲き乱れる。
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