第7話 目論見

翌朝


遠藤が出社し、秘書室に入ると、そこにはいつもと違う光景が広がっていた。


普段いない社員が三人、田中と混じり、引っ切り無しにかかってくる電話に対応していた。


「田中さん。どうしたの?」


状況を判断したくても、あまりのことにわけがわからず、助けてほしい田中に遠藤は助けを求めた。


田中は遠藤の声に気付き、急いで近づく。


「すいません。電話対応に追われて、室長に連絡する時間がありませんでした。」


田中は健気にも遠藤に対し、深々と頭を下げた。


「何があったの?」


「まだサイト、ご覧になってないんですね。」


「サイト?」


遠藤の表情で事態がわかっていないことを理解した田中は、机にあったノートパソコンを手に取り、遠藤に画面を見せた。


「今朝早く、投稿されたようです。」


画面を覗くとそこは“super woman”のサイトだった。


“スクープ!五十嵐 美樹が次に発掘した期待の新星!天才画家!”

“無名の画家に860万の値が付く!”

“その名はクラウド!”


「何、これ?」


遠藤は目を丸くした。

まだどこにも公表していない、誰にも知られていない情報が事細かく掲載され、しかも、売却した三人の買い手にまでインタビューをしていた。


掲載されている記事はすべて事実。機密情報の漏洩。


これは遠藤の失態。


情報の徹底管理も秘書の、遠藤の仕事。

一難去ってまた一難。尾行の失敗を何とかクリアしたと思ったら、今度はあらぬ方向から災難が飛んで来た。


「最後の名前、見て下さい。」


「名前?」


田中に言われたまま掲載記事の最後に視線を落とすと、そこには “志田いずみ”の文字。その文字を見て、あの日の志田の顔が、遠藤の記憶の中を駆け巡る。


江口だけでも煩わしいというのに、もう一人、遠藤の前にうるさい障害物が出現した。


「その記事のせいで、朝から取材や記事の確認の電話で鳴りやまないんです。」


呆れたように田中は周りを見る。


受話器を置けば、すぐに鳴り。出れば聞かれる質問は皆、同じ。

「わからない」と言って受話器を置けば、また鳴る始末。

切っても切っても鳴り止まない。四人で対応しても追いつかない。

田中と電話のイタチごっこ。

これでは通常業務ができないことは目に見えている。そして、この騒動が、今日一日で終わるとは到底思えない。


「社長は、もうご存知なんですか?」


秘書としては田中は新人だが、この状況が遠藤にとって不利な状況ぐらいは察しつく。

 

遠藤は横に首を振りながら「おそらく、まだだと思う。」と答えた。


まだと言っても、あと一時間ほどのこと。

あと一時間もすれば「女王」は出社して来る。いくら、人に興味のない「女王」でもすぐに気付くだろう。「女王」が気付けば、その時点で遠藤の責めは免れない。

ましてや、この記事が江口やクラウドの耳に入り激怒し、絵を売るのを止めると言ってきたとしたら、尾行失敗の比ではない。


潔癖過ぎるほどの人嫌い。


そのクラウドが、この記事を読んでも黙っているとは考えにくい。それに江口が擁護してくれるとも思えない。


完全に手詰まり。


秘書室に入って、わずか数分足らずで、遠藤は窮地に陥る。

まだ一日も始まっていないというのに、遠藤の人生が終わりかけている。

この最悪な状況を的確に判断し、最善の策を講じなくてはいけない。一発で好転させる起死回生の策を講じなくてはならない。

遠藤は秘書としての危機回避能力をフル回転させて考える。何としてでも、この危機的状況を走り抜けなくては遠藤のすべてが終わってしまう。


死刑執行まで、あと一時間。

遠藤は言い訳を考えるよりも早く打開策を考えはじめた。


「社長の力を貸して頂けると助かるんですが…。」


それだけを言うと、田中はまた鳴り止まない電話の嵐の中に戻って行く。


「その手があったか…。」


遠藤は田中の何気ない言葉で、打開策を見つけた。




「えっ⁉今から会見をやるの?」


出社して早々、遠藤に会見の話しを持ち掛けられたら、さすがの「女王」も驚く。


「そうです。社長。会見です。」


遠藤は真剣な目で「女王」に懇願する。

いつもと違う遠藤の目力に「女王」は押される。


この難局を乗り切るには、どうしても「女王」に会見をしてもらわなければいけなかった。このまま放置し、嵐が収まるのを待つという手もある。2~3日もすれば凪になるだろう。しかし、それでは遅い。凪になるのを持っていたら、今度は江口という嵐が発生する可能性が出て来る。


遠藤にとっては、一番厄介な嵐。


尚且つ、江口の嵐にはクラウドという嵐がくっ付いて来る。この嵐が江口より巨大になり、その嵐に「女王」が巻き込まれでもしたら大惨事。すべてを破壊し尽くすだろう。今まで我慢してきた「女王」の努力が跡形もなく消え去り、恥辱という失敗だけが「女王」の周りに残骸として散らばる。


それで終わるわけがない。


その散らばった残骸が、今度は「女王」の怒りの嵐となり遠藤を直撃する。間違いなく直撃する。避けることのできない嵐となって遠藤を襲う。

そうなれば、「女王」の周りに遠藤の残骸が散らばることになる。


どれも避けたい。 「女王」の恥辱も遠藤の直撃も。

だから遠藤は必死にお願いする。一分一秒を争おう案件。江口が、クラウドが気づく前に何としてでも会見という道筋を作ってしまいたかった。


「…会見…ね。」


「女王」はイマイチ、乗り気ではない様子。


それもそのはず、「女王」はメディアがからだ。好きではないという意味は人前が嫌いということではなく、「女王」の意思や良さをちゃんと伝え切れていないメディアが嫌いという意味だ。

せっかく「女王」が有難い御言葉を話しても、紙幅と時間の問題で必ず編集される。それが「女王」にとっては不満だった。一言一句、編集せず、「女王」の言葉を余すことなく伝えるのがメディアの仕事。その仕事を放棄したような人間が「女王」に謁見するなど言語道断。不愉快で仕方がなかった。


「はい。会見をやるべきです!」


遠藤は聞きしに勝る表情で「女王」に進言する。


いつもと違う遠藤に「女王」は終始押されっぱなしだ。

いつもなら時間の無駄とばかりに取材など断って来た遠藤が自ら積極的に取材をしようと提言して来たのだから調子が狂うのも無理はない。


遠藤はそれを見越して押し込む。

「女王」が考える前に打開策を飲み込ませたかった。


「でも、どうして?」


押されていても、このな押しの理由を聞きたくなるもの。


それも見越して、遠藤は話し出す。


「今回の情報が漏れたのは私たちの落ち度かもしれませが、それはあくまでも可能性であって事実ではありません。もしかしたら購入された方が自らマスコミにリークしたのかもしれません。つまり、今の段階では、私たちの責任とは言えないわけです。」


「…まぁ、そうね。」


「ならば、この状況を逆に利用して、クラウドの絵を世の中に宣伝するんです。」


「宣伝?」


「そう。宣伝です。これだけ注目を集めているわけですから、またとないチャンスです。」


「…チャンス?」


「はい。社長が期待をしている画家であることは本当ですし、絵を売却したのも事実。何も嘘はありません。そのまま答えればいいんです。隠すことなんて何もないんですから。いずれ世に出そうとしていたんですから、少し、早くなっただけのことです。社長!今こそ会見をやりましょ!世間にクラウドの素晴らしさを教えましょ!」


遠藤は理路整然と矢継ぎ早に話し、「女王」にOKと言ってもらうため、必死に説得をする。

一世一代の大勝負。

遠藤が秘書として「女王」の横にいられるかどうかの瀬戸際。土俵際いっぱい待ったなし。


「それもそうね…。」


「女王」は遠藤のにも似た説得を受け入れはじめていた。

ここは押すしかない。押して、押して、押し切るしかない。


「そうですよ社長。たとえ、江口様が何か言って来たとしても、私たちにの責任と決まっていないのに、他の絵の契約が出来なくなるなんて、おかしな話じゃないですか。」


「…そうね。」


“あと一押し”  遠藤は確信した。


「それに宣伝すれば喜ぶと思いますよ。クラウド様を有名にしたくて社長のところへ来たのですから。会見をやって損することなんてないですよ。」


「…そうね。…わかったわ。会見、やりましょう。」


“押し切った”


その言葉を聞き出すため、遠藤は危ない橋を綱渡りで渡り、何とかこの崖っぷちの状況から脱出できた。

眩暈がするほどの安堵を覚え、全身に血液が染み渡る。久しぶりに生き返ったような気がした。


「それで、いつするの会見?」


「今からです。」


「今から⁉」


またも「女王」は遠藤に驚かされた。


「はい。今からです。」


遠藤は当たり前のように答えた。


「でも、こんな朝早くから取材に来てくれるの?」


「いいえ。マスコミは呼ばず、ネットで会見を流します。」


「ネットで?」


「ネットの方が、この場合、早く出来ます。」


「…そう、わかった。ネットね。」


「女王」にとってネットとは未知なるもの。今まで意識したことがなかったメディアだ。それでなくてもメディア嫌いなのだから、ネットなる得体の知れないモノに不信感を持っても仕方がない。


「もう原稿は出来ています。」


「えっ‼ もう出来てるの?」


「はい。」


原稿を書くなんて、遠藤にとってはまさに朝飯前のこと。

 

「それでは社長。よろしくお願いします。」


遠藤はトドメに渾身の一礼を深々と「女王」に見せ、後戻りできないよう道を塞ぐ。


「…そう。わかった。いつでもカメラ回してちょうだい。」


カメラの前で話すなんて、「女王」にとってはまさに朝飯前のこと。


用意はすべて整った。あとは録画ボタンを押すだけだ。




「女王」の会見は昼を待たずして、瞬く間に日本中を走り抜けた。

話題が話題を呼び、人から人へと止めどなく、クラウドの存在が知れ渡り、次々と伝播して行く。

マスコミが騒ぐと人々も騒ぎ、その騒ぎを見て、またマスコミが騒ぐ。もはや、情報の真偽など関係がなく、情報を発信する側と受け取る側の境界線がなくなりはじめ、日本列島、全国各地にクラウドの嵐が一気に吹き荒れ、熱を帯び出す。


話題の核になったのが、何と言ってもクラウドの絵だ。

グロテスクで強烈な画風は一度、見たら忘れられず、ザラリとしたあと味を残す。それに加え、謎めいたクラウドのプロフィールが人々の興味をそそり、絵に付加価値を付け、台風の目となる。

そして、そこに「女王」の言葉が混じり合い、熱はさらに加速し、巨大化して行く。

元々、毒性の強かった「女王」の言葉が、ここぞとばかりに威力を発揮、みるみるうちに感染が拡大。質の悪い風邪となって猛威を奮う。


その猛威はネットの性格上、日本国内だけでは収まらず、海外へと感染して行く。

日本のマスコミが騒げば、それを見て、海外のマスコミが騒ぎはじめ、その騒ぎによって、今度は日本のマスコミが騒ぎ、そして、国中が騒ぎ出す。

まるで祭りのように誰もが皆、踊り狂う有り様で、その祭りは海を越えても変わらない。

人間は熱にうなされやすい生き物で、踊っているのか?踊れされているのか?気付いているようで、気付いていない。

ただ熱が冷めるまで、目が覚めるまで、踊り続けるしかない哀しい生き物。


クラウドという小さな国で起こった小さな嵐が、世界全土で暴れ出す。


遠藤は今回も、何とかこの局難を渡り切った。


ここまで話題性が出れば、如何に江口と言えども断れない。

断ればクラウドの価値は下がり、誰も信用しなくなるだろう。「女王」と揉めた人間の絵など誰も買わない。たとえ、そうなったとしても「女王」に損害はない。断ったのは江口の方で被害者は「女王」の方になる。世間はそう感じるし、そう仕向ければいい。何せ批判は日本だけではなく世界から来るのだから。

正直、遠藤はここまで騒ぎが大きくなるとは思ってもいなかった。予想外の波及効果だった。

しかし、この予想外の波及は遠藤にとって追い風となり、力強い援軍を手に入れることとなった。

この状況で一番大事なことは既成事実を作ること。

江口やクラウドが知る前に、動く前に先手を打たなければいけなかった。それに成功しただけでなく、世界を味方に付けることが出来た。


遠藤は勝った。勝負に出て勝ったのだ。


江口をまんまと出し抜き、一矢報いることができた。

その上、“世界”という最高の切り札も手に入れることが出来たのだから、嬉しくて堪らない。声をあげて喜びたいぐらい嬉しかった。

いつも江口のペースでことが進み。あれよあれよと流されて、気が付けば、江口の思うがまま。なすがまま。

秘書としてのプライドを弄ばれ、ズタズタにされ、辛酸を舐め続けた積年の恨みをたった今、晴らすことができた。


もう、何も心配することはない。


あとは江口からの連絡を待ち、その反応から対応を考えればいいだけのこと。

どんな批判・非難をして来ても、すべて跳ね返せる自信があった。

江口から早く返事が来ないかと、遠藤は、今か今かと待っている。


遠藤が幸せを噛みしめている頃、「女王」は違う感覚と出会う。


“ネット” という新しい刺激に酔いしれていた。


ネットは、「女王」の言葉を余すことなく、瞬時に伝え、しかも、それが日本だけではない。海の向こうの国々に光の速さで軽々、届く。それは「女王」にとって、味わったことのない新鮮なワイン。今まで嫌々、受けていたメディアが過去の遺物と思えるほどの革新的快感。

こんな素晴らしい道具があるのなら、もっと早く使えばよかったと、「女王」はほんの少し、後悔をした。

常日頃から感じていた「女王」に対するメディアの扱いの悪さが、これで一気に解消できる。

「女王」の煌めく金言がネットという波に乗り、世界の隅々まで行き渡る。

それを考えただけで、「女王」はゾクゾクした。

そして、「女王」の影響力が海外まで通じているのだと改めて確認することができた。

漠然と雰囲気でしかわからなかったことが、ネットを通せば数字となって、ハッキリとわかる。


こんな面白い道具を「女王」が使わないわけがない。


“ネット” という新しい味が、「女王」の舌を満足させる。




翌日


「女王」の影響力が衰えることはなかった。


時間が経つにつれ、クラウドの波はドンドンと大きくなり、それに共鳴するかのようにマスコミの報道も過熱する。

一日中、クラウドの絵が扱われ、何度も何度も繰り返し見続ければ、否が応でも人々の記憶にクラウドの絵が入り込み、消えない色となって残る。その消えない色の中に、「女王」の影響力がしたたかに塗り込められている。

消えない色を記憶した者は、それと同時に、その背後にいる「女王」の存在も一緒に記憶する。クラウドの絵の中に紛れ込んだ「女王」の強烈な影。無意識のうちに人々は、“五十嵐 美樹”という「女王」を認識する。


クラウドの絵は「女王」の所有物。

クラウドの所有者は、この世で「女王」ただ一人。


人々の記憶に消えない色が傷となって跡を残す。


傷を残せば、あとは簡単。皆が「女王」にお伺いを立てにやって来る。

「女王」の許可がなければ、クラウドの絵を買うどころか、見ることすら出来ない。

絵を買いたければ、見たければ、「女王」の列に並ぶしかない。並ばなければ何も手に入らない。他に方法などない。


すべては「女王」の生殺与奪。自由自在。


「女王」は手を抜かない。

最後の最後まで「女王」を見せつける。


今日も引っ切りなしに取材の電話が鳴り響き、田中たちを困らせる。状況は昨日よりも悪い。今日も朝から電話対応に追われている。


田中の忙しさとはまるで別世界の社長室。


その中で、遠藤は二つの懸念を考えていた。


一つは、志田いずみ。


この情報をすっぱ抜いたのは志田で間違いはない。

では、一体、どこから入手した情報なのか?

情報源は誰なのか?

どこまで知っているのか?


はっきりと全体像が掴めない。

掴めない以上、下手に志田の取材は受けられない。

不用意にこの城に招き入れることは危険と判断し、ここは相手の出方を見るため、遠藤は志田の取材受けないことにした。それに、受けないことによって、志田がどう出るのか見極める必要もあった。


二つ目は、やっぱり、どうしても、江口だ。


江口が遠藤の邪魔をしない日などない。いつも、遠藤の周りをブンブンと飛び回る。


その、いつも五月蠅く飛び回る江口から何の連絡がないのは、なぜなのか?


それが遠藤を悩ませる。


仮に江口が世の中に疎かったとしても、情報が流れてから丸一日が経っている。ここまで、クラウドの報道が出てればイヤでも気付くはず。海外にまで知れ渡ってる情報を江口やクラウドが知らないということは考えにくい。洞穴でも住んでいない限り不可能な話だ。

ならば、なぜ、連絡して来ないのか? 

クラウドと揉めているのか?

たとえ、揉めていたとしても連絡ぐらいはするはず。


掴めない。

江口とクラウドの行動が掴めない。


遠藤はすべてに対し、対応できるようのフルコースを用意して待っているというのに、江口からまったく連絡が来ない。

まるで、遠藤の考えを見透かしているかのように音沙汰がない。


連絡が来ないのならば来ないで、ほっとくこともできるのだが、相手は江口。油断をすれば何をしてくるかわからない。わからないから気を付けたい。でも、どう気を付けていいのかわからない。


“もどかしい…。”


今日も見えない江口が遠藤の周りをブンブンと飛び回る。


田中と遠藤がクラウドの対応に苦しんでいる中、「女王」は機嫌がよかった。

朝からフラッシュの中で輝いているのだから機嫌がいいに決まっている。


三枚の絵を売っただけで、この大騒ぎ。そして、あと数日すれば、カタログの絵がすべて手に入る。

「女王」の手にすべて入った瞬間、この世界はどうなってしまうのか?

それを考えただけでも「女王」の口元が緩む。その緩んだ口元は聖母の微笑みとして現れ、カメラに収められる。


口元が緩めば緩むほど、激しくカメラのフラッシュが焚かれる。


「女王」は今、世界の中心へと向かい歩いている。




その日の夕方  


遠藤は取引先の会食に同行していた。 


掃き溜めに鶴とはこのことだ。

脂ぎった名だたる経営者のおじ様たちが「女王」を囲み、談笑している。


話の中心は、もちろんクラウドだ。


だがしかし、クラウドの話をしているということは「女王」の話をしているということ。

あくまでも主役は「女王」であり、クラウドではない。クラウドの話をしていても、それはつまり、「女王」の話となる。

現に今もおじ様たちは、「女王」に絵を売ってくれと頼んでいる。

この会食も、そのために用意されたようなもの。


「女王」もそれをわかって出席している。


それでなければ、わざわざ来ない。


舞台が用意されても、主役がいなくては幕は上がらない。


「女王」は今、「女王」を演じている。


羨望の眼差しと請うような目。皆が「女王」に群がり、ため息をつく。


このためにクラウドの絵に高い金額を付けたのだ。

クラウドの絵に価値はない。「女王」が所有することで価値が出る。


クラウドの絵は「女王」を輝かせ、世界の中心に行くためのでしかなく、でしかない。


脂ぎったタヌキとしたたかキツネの化かしあい。

宴もたけなわ、カラカラと乾いた笑いの楽しい時間。続くよ、続くどこまでも。


遠藤は宴が終わるのを部屋の外に置かれているベンチに座り待っていた。乾いた笑い声が遠藤の耳にも届く。


そこへ、田中からのメール。


“明日 午後一時 江口様が御来社されます。”

“現金を用意してほしいとのこと”


その知らせは、すぐに「女王」の耳にも入る。


「女王」の笑いは、一段とカラカラと乾き、口元が緩む。


次の手筈はついている。






























 























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