第2話 訪問者
エレベーターの扉が開く。
開いたそこは正面玄関・一階ロビー受付。
城の入り口。 「女王」の顔。
「女王」の顔に相応しく、開放的で、落ち着いた雰囲気。エレベーターを降り、少し、歩くと右側に受付カウンターが見える。
田中の姿を見て、受付の二人の女性が立ち上がり、辞儀をする。田中も軽くお辞儀して返す。
受付カウンターを通るとそこは別世界。
正面玄関から左側半分をすべてガラス窓。そのガラス窓は天井まで届き、塔のように聳え立つ。
たくさんの日差しが降り注ぎ、床の大理石と反射して、ロビーは一面、白銀のように眩く光る。
四隅には近代芸術のオブジェが取り囲み、来客用としてはあまりにも贅沢な高級ソファーが静かに佇み、一企業の受付ロビーとは思えないほど豪華。
そこはまるで美術館。
荘厳にして華やか。静寂にして重厚。調和の取れた圧倒的威圧感。否が応でも「女王」の存在が視覚から入り込み、訪れた者の脳内を蹂躙する。
「女王」は手を抜かない。
最初から「女王」を見せつける。
田中が先導して、志田たちを正面玄関まで連れて行くと、志田は田中の方を見て
「また取材させて頂きます。そう、社長にお伝え下さい。」とリベンジ宣言をした。
「お気をつけてお帰り下さいませ。」
田中は志田の宣言を聞き流し、機械的に挨拶をして、一団を見送った。
志田は外に出てビルを見上げる。
さっきまでいた「女王」の部屋は遥か遠く。ここからではよく見えない。
“このままでは終われない”
志田は、何が何でも、「女王」に喰らい付いて行くと、覚悟を決めた。
記者としての性分だろうか。謎多き「女王」が、鎧のように身に纏っているベールをすべて剥ぎ取り、その中に隠れている素顔を見てみたいと強く思ってしまった。
「女王」は皆既日食に似ている。
月が太陽に隠れても、完全には一致しない。まるで測ったかのように、隠し切れない太陽の光が輪郭から漏れ出る。
そのアンバランスさに人は神秘的な何かを感じ、触れてみたいと思ってしまう。
「女王」にも、隠し切れない神秘的な光が零れ出ている。
志田はどうしても触れて見たくなった。触れてはいけないものとわかれば、尚更のこと触れてみたいという欲求を抑えられない。
どうやら、神秘的な輝きをするのは天体だけの話しではないようだ。
“必ず、もう一度、「女王」の前に立つ”
今日の不甲斐なさを教訓として、志田は新しい一歩を踏みしめて、「女王」のビルをあとにした。
戻ろうとする田中の背中に呼び止める声。振り返るとそこに男が立っていた。
歳は30代前半。清潔感のある顔立ちで長身、スーツ姿が良く似合っている。第一印象はできる営業マンと言った感じの男。
第一印象通り、田中は売り込みに来た営業マンだと思った。これぐらい大きな会社になると、それはよくあること。
田中はいつものように機械的に対応しようと男に近づく。
男は右手に持っていた大きな黒のカバンを大事そうに胸で抱え、「あのー、今、聞こえたんですけど。あなた、ここの社長さんとお知り合いの方ですか?」と、田中が話しかける前に話しかけてきた。
遠藤のスマホが鳴る。脳裏に志田の顔が浮かぶ。また何か言って来たのかと思い、慌てて出る。
志田は遠藤にとって、とても厄介な人物と認識されてしまったようだ。
「どうしたの?田中さん。何かあった?…えっ⁉ ホントに⁉ ちょ、ちょっと待って、今、確認するから。」
飽きることなく、外の景色を眺めている「女王」の背中に、遠藤は矢を放つように問かけた。
「社長!今日、絵を見る約束しましたか⁉」
「何、それ?」
背中に矢を放たれたにもかかわらず、振り向くこともなく、まるで他人事のように「女王」は答えた。
聞いた遠藤がバカだった。
「もしもし。間違いない?」
田中はその男に聞かれないように小さな声で「はい。間違いありません。社長の名刺を持っています。」と答える。
「名前は?」
「江口様です。」
バカだとわかっていても、遠藤は振り向かない「女王」の背中に再び、矢を放つ。
「社長。江口という名前に聞き覚えありませんか?」
「…知らない。」
やっぱりだ。二度も同じ質問をした遠藤がバカだった。
遠藤は項垂れながら、田中に問いかける。
「田中さん。またの機会にしてもらえないかな?」
田中は江口に聞かれないよう、もっと小さな声で「帰っていただくんですか?」息を殺して確認する。
「そう。できる?」
田中は気付かれないようにゆっくりとした視線で江口を見る。江口は田中の視線に気付くことなく、高い天井を右に左に顔を動かしながら興味深く見ている。
「後々、面倒になるかと…。」
秘書としてというより、一人の人間としての勘が働いた。
「そうなの?」
秘書として、これ以上、予定のない来客者は避けたい。でも、帰ってもらうのも一筋縄ではいかないようだ。来いと言ったのは「女王」の方で、無下に扱えば「女王」の評判や会社のイメージに影響する可能性も捨てきれない。しかし、次の予定まで時間がない。何かいい策はないかと遠藤は秘書としてのエンジンをフル回転させ考える。
すると「女王」が、遠藤の方を振り返り、「呼んで。」と声をかける。
ようやく、遠藤の方を向いて、話しをしたと思ったら、困り果て、猿人をフル回転させている遠藤の頭に急ブレーキをかけた。
「社長!このあとの予定もあります。時間がありません!」
遠藤も止まるわけにはいかない。エンジンを踏み、前に進もうと試みる。
「絵を見るだけでしょ。三分もかからないから呼んで。」
まるで、遠藤がミスをしたかのような口振りで指示を出す。さすがの遠藤もここまで。渋々、田中に伝える。
「田中さん。お通して。時間は三分…いや、一分!」
悪いのは「女王」だ。
本来、「女王」に向ける厳しさが、約束を取り、時間通りに現れただけの男に向けられた。
「畏まりました。」
そう言って電話を切り、江口の方を見るといたはずの江口がいない。どこに行ったのかと思い、辺りを見回すと、江口は右隅に置いてあるオブジェをジロジロと不思議そうに観察していた。
受付にいる二人の女性も、江口を横目で確認しながら、自分たちに危害が及ばないか冷や冷やしている。
江口に近寄りたくはなかったが、近づくしかない。
「あのー、江口様。」
「はい?」
「社長の五十嵐が、」
「これって、馬ですか?」
「はい?」
江口は「女王」に会えるかどうかよりも、目の前にあるオブジェの正体の方が気になるようで、真顔で田中に聞いて来た。
突然、違う話しをされた田中は少々、面を喰らいながらも、「…これは、鹿だと思いますが。」と答えた。
「鹿…。鹿ね…。」
高い天上を興味深く見ていたように、顔を右に左にと動かし、どこが鹿なのか探し始めた。
田中は最初、何をしているのかわからず、ただ見つめているしかなかったが、ふと我に返り、探し物をしている江口を呼び止める。
「あのー、江口様。」
「はい?」
江口は、すっかり“鹿探し”に夢中だ。
田中は江口の注意が他に行かないように慎重に話しかける。
「社長の五十嵐がお会いすると申しております。」
「あっ、そうでした。そうでした。」
田中の言葉で、江口はここに来た用事を思い出す。
「スイマセン。初めて見るものですから。こんな立派な馬、じゃないや鹿。スゴイですねー。」
また違うところで余計なものを探されると面倒なので、田中は急いで江口をエレベーターへと誘導する。
しかし、この江口という男、エレベーターに乗れば静かになるかと思いきや、ずーっと喋る。無駄に喋る。よく喋る。
黙っていればいい男なのに、喋れば喋るほど胡散臭さが漂い出し、途端に信用ゼロの男に変容する。もったいない。実にもったいない。色んな意味で残念な男。
ベラベラと一方的に話し、エレベーターの中が胡散臭さで充満する。
田中は鼻を摘まむ代わりに、心の中で耳を塞いだ。
ノックの後、ドアが開き田中が入って来る。
「女王」は指定席から動くことなく景色を眺め、遠藤もまた、「女王」の後ろに立ち、田中が来るのを待っていた。
「江口様をお連れしました。」
田中のあと、江口が入って来た。
「お邪魔しま…。」
江口の前に、空と街並みが一気に飛び込んで来た。
「なんですか、この窓!スゴイじゃないですか!」
江口はろくに挨拶もせず、吸い付くように窓へと向かい、ガラスにへばりつく。
ここは「女王」の城。
「女王」の聖域。
志田のように、この聖域に一歩、足を踏み入れると、空と街並が暴力的なまでに訪問者の視界に飛び込み、情け容赦なくねじ伏せ、屈服させる。
それは恐怖にも似た力。「女王」の力の裏側にある底知れぬ影。
誰しもその恐怖を感じ取り、恐れ
江口は飛び込んで来た恐怖に慄くどころか、その恐怖を喜び歓迎し、自ら飛び込んで行った。
しかし、江口という男。状況がわかっているのだろうか?
わざわざ「女王」が名も知れぬ一介の民のために貴重な時間を割き、拝謁を許可して下さったというのに、あろうことか江口は「女王」の顔すら見ることもなく、景色に心奪われている。
「女王」でなくてもこの行為は失礼千万。ましてや「女王」の前でするなど言語道断。打ち首に値する所業。
だが、そんなことお構いなしに、江口は額をガラスに引っ付かせ、展望台に昇った子供のように一生懸命、下を覗こうとしている。
そんな江口の奇行ぶりを注意するかどうか迷っている遠藤に田中が近づき、江口から貰った「女王」の名刺を渡す。
確かにそれは「女王」の名刺であった。
軽く遠藤が頷くと、田中は「お茶をお持ちします。」とだけ告げ、秘書室へと帰って行く。
江口はまだやめない。今度は大きなガラスを見て喜んでいる。
コンコンと叩いてみたり、見上げてみたり。水族館に来た子供ように、とにかく夢中だ。
そして、不思議なことに、「女王」はその光景を母のように微笑ましく見守っている。
遠藤は江口の行動も驚いたが、それ以上に「女王」の行動に驚いていた。しかし、見過ごすわけにはいかない。ここは「女王」の城。「女王」の風紀委員として、江口をたしなめる必要がある。と言っても、こんな失礼な男でも一応、お客様。大企業の秘書らしく節度を持って対応する。
「あのー、江口様。」
江口は夢中で聴こえない。
遠藤は通常より音量を少し声を上げ「江口様。」と尋ねるが、やっぱり夢中で聴こえない。
こんな
「江口様!」
「はい?」
ようやく江口が遠藤の方を振り向く。
どうして「女王」の城で秘書が大声を出さなければいけないのかわからないが、ようやく意思疎通が可能な状態になった。
「お座りになって下さい。」
先ほどまで座っていた志田の場所を示し、江口を促す。
「あっ、スイマセン。こんな立派な景色、見たことなかったもので。社長の前でお恥ずかし。」
江口は我に返ったようで、照れながらソファーに座ろうとしたその時、今度は貴婦人の机の上に置いてあるブロンズ像に目が奪われた。
「なんですか、このブロンズ像は社長!これもまた立派じゃないですか!」
「そう。ありがとう。」
遠藤は目の前で起こっているが理解できなかった。
やっと意思疎通ができたと思ったら、また音信不通になった。どうして当たり前のことが、この男にはできないのか?子供なら大目にみるが、大の男がすることではない。
江口の度重なる奇行も理解できないが、それ以上に「女王」の言動が理解できなかった。
「女王」は怒るどころか、江口の奇行を受け入れ喜び、礼まで言った。
こんな「女王」は見たことがない。
そんな遠藤の動揺を知ることもなく、江口はブロンズ像をベタベタと触り、「これは鷹?鷲?トンビ?」と言い「いやー、いい物をお持ちですなー、社長は。」と言いながらペタペタと叩き出した。
大切なブロンズ像を叩かれているのに、「女王」は嬉しそうに江口を見ている。
遠藤は、ただただ驚く。
しかし、いくら「女王」が許しても、秘書としてこの行為を許すわけにはいかず、止めなければならないが、それでもやっぱり、大企業の秘書らしく、節度を持って対応するしかなかった。
「すいません。片付けるのを忘れておりました。元の場所に戻しますので、どうぞ、江口様もお座りください。」
部屋に入ってから江口に対し、遠藤は同じことしか言っていない。
「あっ、スイマセン。あまりにも、素晴らしい置物だったので。スイマセン。社長。」
江口は、人懐っこい笑顔で「女王」を見る。「女王」もニコリと笑顔で返し、江口の奇行ぶりを気になどしていなかったが、遠藤は気にしていた。
これは置物ではない。
優秀な経営者に贈られる名誉あるブロンズ像。無礼にもほどがある。
不愉快さを感じながらも、江口が入って来たドアの横の棚にブロンズ像を戻し、振り返ると、またもや信じられない光景が遠藤の目に飛び込んで来た。
江口が、マジマジと「女王」の顔を見ている。嘗め回すように見ている。
それは、悪夢を見ているような光景。いや、これが悪夢でも、夢ならどんなによかったか。
江口が、マジマジと見ている御方は、泣く子も黙る。黙る子も泣く「女王」だ。誰もが直視できず、息することさえ忘れてしまう「女王」だ。
その「女王」の顔を嘗め回すように見ている江口の行動は奇行・愚行を通り越して、正気の沙汰ではなかった。
惨劇が起こる前に遠藤が止めようとする。
「えっ、江口様。今日はどういったご用件で、」
「お若いですねー 社長。」
言うまでもないが、江口は遠藤の声など聴こえてはいない。
「ありがとう。」
またもや、遠藤は驚く。
なぜなら「女王」が安いお世辞に反応したからだ。「女王」にとってお世辞など、一円の価値にもならない品物。誰よりも「女王」の偉大さ、凄さを知っているのは「女王」自身。平民に言われたところで嬉しくもない。むしろ、「女王」にとっては侮辱に近い言葉。
それなのに、この江口という男、いとも簡単に「女王」の懐に潜り込んだ。一体、何者なのか?
未知との遭遇。この城で動揺しているのは遠藤、唯一人。二人は和やかなまま。
「この美しさ。ウチの母親と同い年とは思えませんね。」
「あら、それなら、今度、お母様をお連れになって来たら?綺麗にして差し上げるわ。」
「いいんですか?」
「いつでもどうぞ。大歓迎よ。」
「でも、ウチの母親みたらビックリしますよ。…シワくちゃで。」
「大丈夫。シワぐらい綺麗に消せるから。」
「でも、社長ほど綺麗にはならないでしょう。」
「お世辞がうまいのね。」
「とんでもない。お世辞じゃありません。事実ですから。私、お世辞と嘘がつけないもので。」
「それじゃ、素直に受け取っておくわ。」
「どうぞ。どうぞ。」
二人の明るい声が、「女王」の城に広がって行く。
遠藤は完全に乗り遅れてしまった。
初めてのことが目まぐるしく、次々と展開されて、追いつけないでいた。
このまま傍観していては、二人の起こした和やかな波に押されて、ドンドン沖へと流されて行ってしまう。このままではいけない。しかし、どうしたら二人の元へ行けるのかわからない。
こうして、手をこまねいている間にも、遠藤はドンドン沖に流されて行く。
マズイ。このままではマズい。何とかしなければ。「女王」の秘書が溺れてしまうことなんて断じてあってはならない。
二人の後ろで、遠藤は一人溺れている。
そこに秘書室のドアが開き、田中がお茶を運んで来た。
田中に、二人の目線が向く。その瞬間を遠藤は見逃さなかった。
「江口様。今日は絵をお持ちになったとか。」
「あっ、そうでした。そうでした。一番大事な要件を忘れてました。社長があまりにも魅力的な人だったので、つい話し込んでしまいました。ハハハ。」
田中の助け舟によって、何とか遠藤は岸にたどり着くことに成功した。
遠藤は一人、胸を撫で下ろす。
「これなんですけどね。」
そう言って、江口は持って来た黒のカバンから一枚のキャンバスを取り出す。
絵が「女王」の手に渡る。
すると、奇妙な現象が起きた。
「女王」は絵に顔を近づけ、喰い入るように見ている。しかし、後ろで見ていた遠藤は違った。眉をひそめ、口を歪ませ、絵から顔を遠ざけた。
「女王」の顔には「好奇心」。遠藤の顔には「嫌悪感」。ありありと出ていた。
同じ絵を見ていながら正反対の反応をしている二人。
しかし、二人の反応はどちらも正しかった。
二人の見ている絵は抽象的な作品で、キャンバス一面、黒く塗りつぶされ、その中央には
見る者の心を搔き乱す魅力的な絵でもあり、見る者を不快にさせる絵でもあった。
しかし、江口は「女王」の反応が気になり、その顔には不安と緊張が見て取れる。この時ばかりは、さすがの江口も無口だ。
好奇心と嫌悪感。不安と緊張。そして、その間にお茶を置き、立ち去る田中。
もう限界。江口は耐えられず、「女王」に問いかける。
「どうですかね?」
「この絵のテーマは何?」
「女王」は絵を見ながら、ポツリと江口に問いかける。
「テーマ? …さぁ、何でしょ?」
「女王」は我が耳を疑った。
遠藤も自分の耳を疑った。
確かに今、「女王」は質問をした。ごく簡単な、ごく当たり前の質問をした。
「女王」はゆっくりと江口の顔を見る。見るというより睨んでいる。その
怒りを帯びた
和やかだったムードは跡形もなくなり、ピーンと張りつめた空気が、一気にこの部屋を支配する。殺伐としたいつもの雰囲気に戻る。
遠藤はイヤな予感がした。
「テーマは何って、聞いているの?」
「女王」が、もう一度、江口に同じ質問をする。こんなことは滅多にない。なぜなら「女王」に二度目はないからだ。二度、同じことを繰り返すのは時間の無駄であり、「女王」を煩わせる行為。つまり、罪にあたる。二度目があった時点で、それは相手方の「失敗」を意味し、ここから叩き出されても仕方がないことになる。罪には必ず罰が付き物だ。それなのに「女王」は江口を叩き出さずに、もう一度、質問をした。
「社長は何だと思います?」
「女王」の計らいも、遠藤の動揺も知らず、逆に江口が質問をして来た。質問をした「女王」に質問で返して、どうして会話が進むのか。ピタリと二人の動きが止まる。江口は、そんな二人をよそに、またも一口お茶を飲む。
遠藤は呆れた。
「女王」より話しが通じない人間がいるとは。
「女王」に絵を売りに来る人間は、「女王」に気に入ってもらおうと、あたかも才能があるかのように装い、大風呂敷を広げ、必死に見せかける。
皆そうだ。それこそ例外などいない。
なのに、この江口という男。装うどころか、装うとする気すらなく、吞気にお茶を飲んでいる。これでは「女王」に絵を売りに来たのではなく、ケンカを売りに来たようなものだ。
もし仮に、この江口という男が、「女王」にケンカを売りに来たというならば、それは人生で最悪の決断をしたことになる。冷やかしや冗談が通じる相手ではない。笑って許してくれるほど「女王」は慈悲深くない。慈悲深さとは、ごく普通の人間が時々、神様になりたくてする行為であって、ごく普通の人間ではない「女王」が持ち合わせているわけもなく、「女王」が持ち合わせている行為と言えば「無慈悲」だ。情け容赦のない「無慈悲」だ。粉微塵するほどの「無慈悲」。その鉄槌を江口は自ら喰らおうとしている。これを自殺行為と言わずして何と言うのか。
遠藤は江口を助けるかどうか揺れている。助ける気はないが、惨劇は見たくない。遠藤の心は大海原を航海する船のように大きく、大きく揺れている。
「女王」の顔を見ると、明らかに硬直している。
その顔を見た瞬間、このあと起こる惨劇は容易に察しがつく。その惨劇を思うだけで、遠藤は身震いし、とっさに惨劇回避の質問をする。
「ご自身でお描きになったのに、テーマがわからないというのは、おかしくはありませんか?」
その質問を聞き、江口はふと笑い、右手を大きく左右に振りながら
「いや、いや、その絵は私が描いたんじゃありません。私は、その絵を描いた画家のの代理です。」
「代理…ですか?」
「えぇ。代理です。」
「女王」の持っている絵を覗き込むようにして、「どこか隅っこに名前が書いてあると思うんですけど。確か…クラとか…クワとか、そんな名前が。」
「女王」は言われるがまま視線を落とすと、右端に白い絵の具で“cloud”と書いてあるのを見つけた。
「クラウド…。」
「あっ、そうそう。クラウド。クラウド。私は、そのクラウドの代理です。」
「…そういうことね。」
「女王」も事情がわかり、怒りの刀を一旦、鞘に納めた。
「どうですかね?その絵、売れますかね?」
またも「女王」が沈黙する。
沈黙を搔き消すように、江口が話し出す。
「社長が載っている雑誌を見て、ピンと来たんですよ。直観ってヤツですかね。社長ならこの絵の良さがわかってもらえるんじゃないかなーって。ピンと、ホント、ピンと来たんですよ。それで、知人に無理を言って、この前のパーティーに参加させてもらったんですけどね。断られるのを覚悟して、ダメ元で飛び込んで行ったら、社長が快くOKを出して頂いたので、もう、私、ビックリしちゃって…。えー…そのー…ねー…。」
「女王」は江口の話しなど聞かず、ただ絵をジッと見つめている。
「女王」と江口の間に、見えない壁が出来た。
江口は大きな独り言を壁に向かって話しているような虚しさを感じずにはいられなかった。この沈黙を誤魔化すために、なんとか「女王」の注意をこちらに向けようと話しをしてみたが、思っている以上になしの礫。
さすがの江口も困り果て、「女王」を覗き込み、「ダメですかね…。」とボソッと本音を零す。
「200万でどう?」
「女王」は絵を見ながら答えた。
「200万⁉」
驚いて、最初に声を出したのは遠藤の方だった。
「はい?」
二人の間にある厚き壁のせいだろうか。「女王」の言った言葉が、江口には「200万」と聞こえた。
「200万。いい?」
「女王」は依然として、絵から視線を外さない。
「…にひゃく?」
江口は何のことかわからず、「女王」の言葉を繰り返すだけだった。
「そう、200。」
「女王」は相変わらず、絵を見たまま答える。
「えっ、にひゃくと言うことは200と言うことですか?」
江口は、ほぼ思考停止状態。
「そう。」
サラリと答える。
「女王」にとって、200万円は200円と同じ価値でしかない。
「200万円⁉」
江口はガバっと立ち上がる。
江口にとって、200万は200円と同じ価値ではない。
「それで、いい?」
よっぽど気に入ったのだろう。「女王」は、驚き慌てふためく江口を一切、見ることもなく、熱心に絵を見ている。
「いや、…えっ⁉…その、えっ⁉」
江口は現状を把握できず、何と言っていいのかわからず、言葉が出て来ない。
そんな混乱気味の江口を、「女王」はチラリと見て
「じゃあ、400万。」
「400万⁉」
またも最初に声を出したのは遠藤の方だった。
「女王」にとって、200でも400でも同じ。その後に万円が付くだけの話。
「よん…ひゃく…。」
完全思考停止。ただ、立ち尽くす江口。
江口にとって、200も400も同じではない。なぜなら、その後に万円が付くのだから。
「貴方も、なかなかの商売上手ね。」
絵を見ながら、「女王」がクスりと笑う。
「女王」は何を勘違いしたのかわからないが、江口は値段を釣り上げてはいない。それどころか交渉すらしていない。一方的に「女王」が大波を起こし、それに翻弄され、あれよあれよと流されて、気が付けば400万の大海原。
江口は必死に藻掻いている。こんな急展開な潮流、誰だって江口のように思考停止になり溺れる。
そして、密かに遠藤も後ろで溺れていた。今日、二度目の水難事故。
江口の答えを聞くこともなく、「女王」は遠藤の方を向き
「小切手、お渡しして。」
「あっ、はい。今、お持ちします。」
いつものことなのだろう。大金が飛び交う話しなのに、淡々と事が進んでいる。
数分前にこの城に男が訪れ、その男が持参した絵を数十秒、見ただけで、200万という値段が付き、そして、一秒もかからずに値段が倍になった。
気に入った作品にケチな値段など付けない。安く買いたたいて儲けようなんて、そんな卑しいことはしない。
なぜなら、その絵の値段は「女王」の価値でもあるからだ。
金に糸目を付けない。今日も「女王」はいつものことをしたまで。
しかし、いつもと違うところが一つだけある。それは、遠藤が溺れていることだ。
しかも、僅か数分で二回、溺れた。
そんな、どうでもいい瑣末なこと「女王」が気にとめるわけがなく、遠藤も溺れていることをおくびにも出さない。
遠藤は「女王」の秘書らしく、溺れていることを悟られないよう、努めて冷静に返答し、いつものように小切手を取りに行こうとしたその時、「今日はやめときます。」
江口が、二人の背中に信じられない言葉を投げかけた。
二人の動きがピタリと止まる。
「女王」は、またも我が耳を疑った。
同じく、遠藤も自分の耳を疑った。
「女王」の城まで絵を見せに来て、売らない。一体、何の意味があると言うのだろうか。
富士の山頂まで昇り、御来光せず、下山する人間がいるだろうか? ラストシーンを見ずに映画館を出る人間がいるだろうか?
もし、そんな人間が実在するとしたら、その人間は気が触れているということになる。しかし、残念なことに、そんな人間が実在していた。今、まさに、二人の目の前に座っている。
しかも、「女王」に対して行われたのだから気が触れているとしか言いようがなく、無事に帰れるわけがない。
「女王」は躰をゆっくりと戻し、江口の方を見る。
その
今さっきまで、200と聞いて慌てふためいていた人物とは思えないほど、吞気な顔をして、「女王」を見ている。そして、今度は「女王」の方が仏の顔から修羅の顔に変貌しようとしている。
惨劇が再び、遠藤の目の前で起ころうとしていた。江口を助けたことを後悔しながら、遠藤はまたも、惨劇回避の質問を江口にする。
「いいお値段だと思いますが。お気に召しませんか?」
それを聞き、またも江口は笑いながら、右手を左右に振り
「いえいえ。そうじゃありません。」
遠藤の気も知らずに、江口は吞気に答えた。
遠藤の位置からでは「女王」の表情を窺うことはできないが、剥き出しの殺気が「女王」の背中から溢れ出ているのがわかる。
惨劇が飛び散る前に、間髪入れずに遠藤が話しの間を埋める。
「それでは何故、契約して頂けないのでしょうか?」
「それがですね。アイツと。クラウドと、今日は絵を見せるだけという約束で来ているものですから。スイマセン。売れないんですよ。」
江口は明るく答えたが、この温度差に気付いていない。
目の前に、凍てつく怒りをメラメラと燃やす視線が見えていない。
だが、理由はわかった。しかし、納得のいかないところがあり、遠藤は続けて質問をする。
「何故、今日は売って頂けないのですか?」
「知りません。」
今度は江口が間髪入れず、答えた。
「あっ、なるほど。」
そう言われたら、遠藤も何も返せない。わかったような、わからないような顔をするだけだ。
「そんなものじゃないですか。絵を描く人間て。変わり者が多いと聞きますし。」
縁側で話しをしているかように、お茶を一口飲む。大金が動く商談とは思えないようなほど長閑な空間。
だが、「女王」だけは違う。絵の代わりに今度は、ずっと江口を睨み続けている。
今にでも、噛みつきそうな、呪い殺しそうな
しかし、江口は気づいていない。そして、またも信じられない奇行が「女王」の目の前で行われた。
「それじゃ、そういうことなので。スイマセン。」
江口は、するりと「女王」から絵を取り上げてしまう。
「女王」は我が目を疑った。
遠藤も自分の目を疑う。
「女王」が気に入り、400万という価値が付いた絵を、今度は江口がいとも簡単に奪い取った。
あの「女王」から奪い取ったのである。自ら売り込みに来て、売らずに帰ろうとしているのだから、そんな光景を見せられたら遠藤も動けない。ただ立ち尽くし、呆然とするだけだった。
それは「女王」も同様だ。
今、起こった出来事が理解できず、絵と江口を何度も見るだけで、あれだけ怒り渦巻いていた炎さえも、消えていた。
「女王」は振り返り遠藤を見る。
遠藤も「女王」に見られたところで、どうしていいのかわからない。なにせ、こんな常識外れなことをする人間を見たことがない。しかも、「女王」の城でする人間などいるわけがない。
江口という男。鈍感なのか?無神経なのか?それともただのバカなのか?自分がどれだけの奇行を「女王」の前でしたきたのか露ほども感じず、ジッと絵を見ている。
「これで400万なら、あの絵はいくらするんだろ?」
江口は、ポツリと小さな独り言を絵に向かって言った。その言葉に一早く反応したのが、「女王」だった。素早く躰を戻し、江口を見る。
「他に絵があるの?」
そう聞いた「女王」の
「えぇ。何十枚も。」
江口は横一杯に腕を広げ、「こんな大きいサイズの絵もありますよ。」
「それ。全部買うわ。」
「えっ⁉」
やはり最初に声を出したのは遠藤だった。
江口のような鈍感で無神経なバカな人間は初めてだったが、こんな「女王」を見るのもまた初めてであった。
ここまで絵画に執着することなんてなかった。絵画は「女王」にとって、名を上げるための道具に過ぎず、安価な投資としか考えていない。その「女王」が、ここまでこのクラウドという画家に夢中になることが、遠藤には信じられなかった。
それを聞き、江口は自分の膝をポンと一つ打ち、「わかりました!すべて、社長にお売りします!」と威勢よく断言した。
「その代わり独占契約よ。どこかに売ったらその時点でお終い。契約はなし。いい?」
「もちろんです!どこにも売りません!信じて下さい社長!」
二人の間に、ようやく厚き壁が壊され、橋がかかった。しかも、大きな橋だ。喜ぶのも無理はない。独占契約なのだから、将来は約束されたようなものだ。
しかし、そんな喜んでいる江口が遠藤には悲しく映る。
幾度となく奇行・愚行を繰り返し、遠藤を溺れさせた鈍感で無神経なバカな男でも、この状況には同情する。例え「女王」を裏切り、どこかへ売りに行ったとしても誰も買わない。「女王」を敵に回してまで買おうとする人間などいない。それに、こんなグロテスクな絵が売れるとは到底思えない。
無名の画家の作品にとって大事なのは、誰が所有しているかだ。こんな奇怪な絵は「女王」が評価してはじめて価値が付く。
「女王」は最初からそれを狙っていた。
この城に入った時からクラウドの運命は決まっていた。どんなに足掻いても、すべて「女王」の養分となって溶けて行くだけ。
はじまる前から終わっていた。
目や耳を疑うような奇行・愚行を繰り返した江口を叩き出さずに、振り回されながらも契約したいのだから、この絵に何かしらの価値があるのだろう。「女王」の目利きを疑うことはない。それは確かだ。
そして、この絵が「女王」の養分となるのも確かだ。
そんなことも知らずに喜んでいる江口が不憫で、憐れで同情するしかなかった。
「それで、いつ契約してくれるの?」
「女王」は話しを詰め、逃がさない。
「そうですねー。…三日?」
「三日ね。」
「いや、五日もれば…。」
「じゃあ、五日ね。」
「でもなー。」
「いつなの⁉」
詰め寄っているようで、かわされているような、何とも言えない問答が続く。
「じゃあ、一週間下さい。一週間もあればアイツを説得できると思います。」
「一週間ね!」
「たぶん。」
「たぶん⁉」
「あ、いや、絶対、大丈夫です! 一週間で説得してみせます!」
「わかった。一週間。それで決まり!」
「はい。絵は必ず、社長にお売り致します。私を信じて下さい。社長!」
段々と胡散臭さが、江口の周りから漂いはじめて来る。
「もし、どこかに売ったりでもしたら、わかっているわよね。」
江口の異臭に気がついたわけではないだろうが、「女王」は念を押すように教え込む。
「それは死んでも致しません!もう、神仏に誓って致しません!」
置かれている立場がわかっていないのか?遠藤には、江口が「女王」の話しに調子よく合わせているようにしか見えず、不信が増幅し、どうにも江口が好きになれなかった。
「それでは、この絵は一旦、持って帰りますね。」
「女王」を挑発しているかのような言い方で、江口は絵をカバンにしまう。
ゆっくりと沈む夕日のようにカバンに絵が消えて行き、それを「女王」は名残惜しそうに見ている。
こんなことは初めてだ。欲しい物は必ず、手にして来た。手に入らなかった物など何もない。
それが、どんなに高価な物であっても、世界にひとつしかない物であっても、「女王」が“欲しい”と思った瞬間から、それはすべて「女王」の所有物になる。必ずなる。ならなくてもなるようにしてしまうのが「女王」だ。ましてや、無名の絵画など造作もない。札束を二つ、三つ積めば手に入る。それだけのこと。ただそれだけのことなのに手に入らない。目の前にあるというのに、もどかしい。こんなもどかしい現実は現実ではなく、悪い夢か笑えない冗談だ。
こんな悪趣味で笑えない冗談など力を使って終わらせればいいのだが、名もなき画家の絵にそんな失態は見せられない。しかも相手がその画家の代理なら尚更だ。喉から出そうになる手をグッと飲み込み、「女王」は平然とした顔でクラウドの絵を見送った。
「私はこれで失礼致します。それでは一週間後に。」
「女王」は何も答えず、ゆっくりと頷く。
その返事を見てから江口は立ち上がり、ドアへと歩き出そうとしたその時、「ご連絡先、教えて頂けますか。」
遠藤が帰ろうとする江口の動きを止めた。
危うく、江口のペースで終わってしまうところだった。考えてみれば江口の素性やクラウドのことなど何も聞いていない。詳しいことを何も聞けないまま帰すことは、「女王」の秘書として看過できない。それに、こんなアヤシイ男に振り回されて終わることが癪でしかたなかった。
「これから色々なことを決めなければいけませんし、作品の詳細も知らなくてはいけないので、ご連絡先を教えて頂けないでしょうか?」
連絡先がわかれば、江口やクラウドの正体もわかる。先手が打てる。一週間もあれば容易い。遠藤には勝算があった。
それに、この部屋に入って来てからずっと江口に翻弄され、ペースを乱され、調子を崩され、おまけに溺れかけた。こんな恥ずかしいことをされてタダで済ませる気などなかった。先手必勝。次は遠藤の番だ。
江口はスッと右の手のひらを遠藤に見せ、「連絡はこちらからします。」と言い、断った。
予想外だった。
まさか連絡先を聞けないなんて考えてもいなかった。遠藤は断ったその手を払いのける次の言葉が見当たらない。
「そ…うですか…。」
この言葉を絞り出すだけで、今は精一杯。
「会社の方にかければいいですか?」
遠藤の気も知らないで、江口が聞いて来る。
「あっ、それでしたら、こちらの方にご連絡下さい。」そう言って、遠藤は江口に自分の名刺を渡す。
「私か、先ほど案内した田中が対応致しますので。」
「わかりました。必ずご連絡しますね。遠藤さん。」
江口は遠藤を見てほほ笑む。五月の風のように爽やかで、心地のいい笑顔。
何だか最後までペースが掴めない。
「そ、それでは、田中に下まで送らせます。」
またも、江口は遠藤に右の手のひらを見せ
「帰りはわかりますので、お見送り結構です。お気遣い有難うございます。」
またも、爽やか笑顔を見せた。
「そ、そうですか。そういうことでしたら…。」
またも失敗だ。下まで田中を見送らせ、その間に何か聞き出せたらと思っていたが、それもうまくいかない。
江口という男。勘だけは鋭いのか?それとも用心深いのか?とにかく実態が掴めない。遠藤は最初から最後まで江口に振り回された。ブンブン振り回された。目が回るほど振り回された。
「それでは社長。一週間後に。」
「女王」は素早く躰を回し、「誰にも売ってはダメよ!もし、誰かに売れば、その時点で契約はなしだから!」もう一押し、江口にグイっと念を押す。
「大丈夫です。社長!私を信じて下さい。アイツの絵を最初に評価して下さった社長を裏切るなんて、そんな恩知らずなこと絶対に致しません。」
胡散臭さが、江口の体から溢れ出る。
「もし、そんなことしたら私の命、差しあげます!信じて下さい!もう、今からすぐ帰って、アイツ、クラウド、説得してきますから。アイツを説得できるのはこの世で私しかいませんから。アイツはね、私の言うことだけは聞くんですよ。えー、根はいいヤツなんですよ。ちょっと変わったところはあるけれど。いいヤツなんです。いずれ社長と会ってご飯でも行けたらいいですね。」
喋れば喋るほど、胡散臭さが酷くなる。
「それでは社長!一週間後に!遠藤さんも一週間後にお会いましょう!」
胡散臭さを城中にばら撒いて、ドアが閉まる。
嵐が過ぎ去り、部屋にいつもの静寂さが戻る。
「大丈夫ですか…ね。あの人、信じても…。」
メチャクチャになった部屋に残されたものは、生ぬるい不安だけだった。
「誰かに売らないかチェックしといて。何か情報が入ったら、逐一、報告して。」
「女王」には関係ない。頭にあるにはクラウドの絵のことだけ。
「そこで社長。一つ提案があるんですけれど。」
「なに?」
生ぬるい不安が遠藤にまとわりつく。どうにも無視できない気味の悪さがあった。秘書としての勘が動く。確実にこの生ぬるく、まとわりつく不安を払拭させるため、改めて先手を打つことにした。
江口とクラウド。
この両者が、「女王」にとって恵みとなるのか?禍となるのか?
予測不可能な嵐が「女王」の前で、静かにゆっくりと渦を巻きはじめていた。
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