尊きものを胸に抱ける明日を創る為に

仁志隆生

尊きものを胸に抱ける明日を創る為に

 高校の入学式。

 これからの学校生活を想像し、ワクワクしていた事。


 最初は「ありゃ?」と思った授業。

 中学の時より簡単に思えた。

 だが、それは最初だけだった。

 それでも中学の時より点数はよかったが、元が悪すぎただけであろう。


 それと、授業時間中に出来ず、居残りしてやり遂げた課題。

 てか殆ど誰も時間内で出来なかったのだが。


 その後は 

「ここは軍隊か!?」と思うほどハードだった林間学習。

 勉強はしたが、散々な結果だった期末試験。

 夏の暑い中「ここは地獄か!?」と思うほど無茶苦茶ハードだった部活の合宿。

 死ぬ思いした体育祭。

 なんかやる気ねえ奴らが多い中、自分を含む少人数で準備して出し物を出した文化祭。


 とやっていくうちに、一年が過ぎ

 二年生になって、新一年生が入ってきた。

 ここは大変だぞ~、頑張れよ~、と新一年生を見てはボソッと呟いた。 


 それと、毎年登校拒否してそのまま退学する奴が何人も出るという、今なら絶対校長の首が飛ぶであろう難しく量の多い課題。

 かなり後でこれは是正されたようだ。

 よかったよかった。


 修学旅行というが、耐寒訓練の間違いだろうっていう雪山でのスキー教室。

 今思い返しても、殆ど勝手になんかしてたような気がする。



 そんなこんなで三年生になり、最上級生になった。

 あと一年か、と思った春。


 色々悩みすぎて登校拒否寸前までいった一学期。

 他所のパクリだと卒業してから分かった、体育祭での集団競技。


 そんな引っ掛け問題アリか!?

 そんな個人的趣味全開の問題アリかあああ!?

 と叫んだ期末試験。


 なんとか引退まで頑張った部活。

 大学行く気がなかったので、就職活動に精を出した夏から秋。

 それも落ち着き、のんびり過ごした冬の初め。

 年が明けて最後の試験も終わり、長い試験休み。 

 

 そして、卒業式。



 ……思えばしんどい事だらけだったのに、思い返すと全てが尊い日々のように思える。

 

 戻りたいかと言われたら戻りたい。

 今の俺ならもうちょい上手くやって、少しはしんどくない日々になるだろうし。


 でも、それは叶わない願い。

 今、目の前にある事から目を背けてはいけない。

 俺が、いや俺達が逃げたら未来は無い。


 家族を守る為、あるいは自分自身の何かの為。

 皆それぞれ何かを胸に、ここで踏ん張っているのだと思う。


 俺はというと、未来を創る人達に何かを伝えたいと思っていた。

 だが、それも……




「くそ、もう俺達二人しか残ってないのかよ」

 ここまで一緒に来た相棒が言う。

「ああ、けど諦めねえぞ」

 俺がそう言うと

「あのな、俺もまだ諦めてねえよ。でももう打つ手がないだろ?」

「手ならあるぞ。だがこれをすれば死ぬだろう。だから俺一人でやる」

「アホかお前は。やるなら俺がと言いたいが、どうせお互い引かないのだし、ここは二人で行こうぜ」

 相棒がそんな事を言うので

「アホはお前だ。お前には奥さんと子供がいるだろが」

 俺はそう言い返してやった。


「それを言われるとな。だけどここでお前だけを犠牲にしたら、俺はこの先胸張って生きてられねえよ」

「それでも耐えて家族の為に生きろ。じゃあな」

「あ、待て!」

 相棒が追いかけて来ようとしたので


「来るんじゃねえ! 生きろって言ってんだろがああ!」

 一度振り返って叫んだ。

 すると


「……ぐ、す、すまん!」

 相棒は涙ぐみながら、俺に向かって敬礼した。




 これで、最後だ。

 先に逝った皆、俺に力を貸してくれ。

 この先を生きる皆がそれぞれの尊きものを胸に抱ける、そんな明日を創る為に。


「うおおおー!」

 

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