パーフェクト・マシーン ~完全なる機械~

@anima_524

プロローグ 鋼鉄の黙示録

 赤熱した鉄柱が地上を蹂躙する。人工の巨大構造物も、生命に満ちた大樹も分け隔てなく圧壊させ、灼熱の炎で全ての生命を燃やし尽くそうとしていた。


 崩壊しかけた建物の内でひとりの男がキーボードを叩いている。数億もしかすれば数兆にも及ぶ熱せられた鉄柱の飛来は地球の温度そのものを上昇させたが為に男は大量の汗に濡れそぼっていた。


 白衣の袖で額の玉のような汗を拭い男は呟いた。


「あと少しだったのに。」


 その言葉には怒りと悔恨の念が滲み出ていた。


「下らない争いに君まで巻き込まれる必要はない。あの穴を使えば少なくともこの人類の滅びからは逃れられる筈だ。何処かしらへは繋がっているのだから」


 地響きが建物を揺らした。どうやらすぐ近くに着弾したらしい。


 「もうここも持たないか。だが、最終調整は終わった。不十分な点はあるかもしれないが自己補完できる範囲の筈だ。」


 男はコンピューターに繋がれた箱の表面を優しく撫でながらまるで棺のようにも見えるそれからコードを取り外し、白衣のポケットから手のひらサイズの端末を取り出した。それは未来的な意匠で飾られながらもどこか古代の石板であるかのような矛盾した印象を抱かせる不可思議なものだった。


 「機関から持ち出してきたんだ。もうこれを研究するような人間は生きちゃあいないだろうしね」


 皮肉げに笑みを浮かべつつ言葉を続ける。


「君は今から未知の世界へ向かうのさ、どこへ繋がっているのか、

 そもそも出口があるのかは不明だが心配はいらない、有機生命体が生存可能な空間でしか起動しないように設定してある」


 端末に指を這わせスイッチを押す。


 その瞬間、空間にヒビが入り、渦巻き、瞬く間に半径三メートルほどの穴が発生した。青と紫に揺らめくその穴の先は全く見えない。


 男は穴に向け箱を動かす。重量感のある棺のような箱は意外なほど滑らかに移動した。


 「さようなら、我が子よ。願わくば進む道に先があらんことを。そして願わくば愚かしい人類の唯一の生きた証明と成ってくれ」


 箱は穴に消えた。と同時に穴もまるでそこにあったのが嘘のように消滅した。


 男も遂に爆風に飲まれる。


 地上に人類の痕跡はなくなった。


 



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