喜右田ミコトを思い出す
名苗瑞輝
喜右田ミコトを思い出す
自治権を求めた宇宙コロニー移民者と地球政府との戦争がついに終結した。
結果としてコロニー側は自治権を勝ち得た。しかし、そのために払った犠牲は決して少なくなく、それらはもう取り戻すことが出来ない。そんな尊い命のことは決して忘れてはいけない。
喜右田ミコトもその一人だ。俺の幼なじみである彼は、学校で学んでいたときも、軍に志願したときも、配属された部署でも、常に俺と共にあった。
だが彼は俺を残して、俺の代わりに逝ってしまった。
そう、あれはコロニー防衛戦での話だ。
『タケル! 危ない!』
『ミコト!?』
『タケル……お前は──』ドーーーン
『ミコトぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
ミコトの乗る
攻撃は幸いにもザッコーの脇腹部分をかすめただけに思えたが、程なくしてミコトを乗せたまま爆破四散した。
そのビームを放ったのは、地球軍の決戦兵器ツェーンであった。地球軍の白い死神と呼ばれるそれは、まさに一騎当千といった具合に、次々と俺の仲間たちも撃墜されていった。
そう考えると、よく俺は生き残ったというか、コロニー側が自治権を勝ち得たことが不思議でならないほどだ。
さて今日は軍事演習である。何やら特別教官を迎えて実施すると聞いている。
「紹介しよう。大和耕作大尉だ」
「大和だ。先の大戦では地球軍でツェーンのパイロットをしていた」
彼の言葉に俺たちはザワついた。当たり前だ。先の大戦で俺たちが戦った相手が、ミコトを殺した奴が、目の前で特別教官として現れたのだから。
『タケル……お前は──』ドーーーン
『ミコトぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
ミコトの乗ったザッコーが爆破四散した時のことがフラッシュバックする。
あいつの所為でミコトは死んだ。何が特別教官だ。殺してやる。
「何をしている」
大和の言葉で我に返ったときには、俺は奴の前に立ち、その拳を振りかざしていた。
しかしその拳はいとも容易く奴の手で防がれてしまう。
「お前のせいでミコトは!」
「喜右田ミコト。先の最終防衛戦にてツェーンのビームを被弾し動力制御部を欠損。制御不能に陥った動力部が暴走し機体は大破。それに巻き込まれ死亡」
「なっ」
「不幸な事故だった。お前はあの時行動を共にしていたな。尊い犠牲の下にお前の命がある。大事にしろよ」
そう言うや大和は俺の顔を殴り、それをもろに受けた俺はそのまま倒れ、気を失った。
* * *
『タケル……お前は──』ドーーーン
「ミコトぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
飛び起きるようにして目が覚めた。
今自分がどこに居るのかが一瞬解らず、辺りを見回してここが医務室だと理解した。
「うなされていたようだが」
声の主は大和だった。何故か彼は、俺のベッドの傍らに椅子を置いて座していた。
「お前っ」
「そう熱くなるな。……といいたいが、俺が言うべきことではないのは解っている」
「あぁ! お前のせいで!」
『タケル……お前は──』ドーーーン
『ミコトぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
「くっ……」
またもあの時のことがフラッシュバックする。
「今のお前はまともな精神では無い。転属するか休むかするといい」
大和はそう言い残して医務室を去って行った。
残された俺は一人考える。
『タケル……お前は──』
なあミコト、お前は最後、なんて言いたかったんだ?
届かない存在になったあいつにそう訊ねても、その答えは返ってこなかった。
喜右田ミコトを思い出す 名苗瑞輝 @NanaeMizuki
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