天上天下唯猫独尊
スズヤ ケイ
私は猫が好きだ
私は猫が好きだ。
透き通った宝石のような瞳が好きだ。
変化に富んだ色合いは、サファイアやトパーズ、ジルコンなどのとりどりなものを想起させる。
濃淡によっても味わいが代わり、一つとして同じと断定できるものは無い。
時に細く、時に丸く、刻々と形を変える瞳孔が好きだ。
あの美しい瞳と見詰め合っているだけで、つい時が経つのを忘れてしまう。
ぴんと帆を張ったような三角形の耳が好きだ。
もちろん折れていても好きだ。
ふにゅふにゅとした、何にも例えがたい触感が好きだ。
クニクニと指で挟んで弄ぶと、仕方ない奴だとばかりに見上げて目を細めながらも、結局されるがままになっているのを見ると感激に襲われる。
何事も聞き逃すまいと、ピコピコと動かす様も好きだ。
興味がなさそうにそっぽを向いて寝転がっていても、声をかければ耳だけはこちらに向けてくれる時など、深い愛おしさが込み上げる。
ぷにぷにとした肉球が好きだ。
ピンクや黒、あるいは入り混じったもの。
何色だろうと構わない。
その柔らかさの前には全てが平等だ。
普段ツンとしていて、撫でさせもしてくれない癖に、ふとした時だけきゅっと前足を握らせて貰えた時など、身に余る栄誉を覚える。
その肉球を、やわやわにぎにぎしているだけで訪れる、束の間の平穏が好きだ。
猫との確固たる絆を築かなければ得られないその一時は、至高のものだと断ずるに微塵の躊躇もない。
首から腰までを繋ぐ流線型の背中が好きだ。
つつりと指でなぞると、対応して尻上がりにうねる様が好きだ。
尻尾の根本をくすぐると、もっととばかりにお尻を高く突き上げてねだる仕草は辛抱たまらない。
長くふさふさな尻尾が好きだ。
真っ直ぐ上に立てて威風堂々と歩く様は、旗を掲げた聖女のように勇壮だ。
それを根本から軽く握って、先端までしゅるりと撫で上げるのが好きだ。
手を離した反動でくるんと反り返るところは必見である。
パタパタとはたきのように振るところも好きだ。
横になっている時に、顔の上でそれをやられると悶絶ものだ。
ちょこんと短い尻尾も好きだ。
ことあるごとにプリプリと揺れる様。こりこりとした手触り。
長い尻尾とは、また違う趣がある。
モフモフとしたお腹が好きだ。
ごろりと無防備にひっくり返ったところを、わしわしと揉むのが好きだ。
筋肉質でスマートなのも良いが、太ってぷよぷよとしていても猫の魅力は変わらない。むしろ増すばかりだ。
お腹を吸うのはもっと好きだ。
毛皮と言う名の草原へ、顔を埋めて深呼吸をすると、まるで大いなる慈悲に包まれているような気分で満たされる。
毛繕いをする仕草が好きだ。
くいくいと、耳の裏を前足で撫でているところが特に好きだ。
いつも身綺麗であろうとする高潔な精神には頭が下がる思いだ。
更には自分だけでなく、私の事も舐めてくれるのが好きだ。
ざりざりとした痛みなど帳消しになるほどの、えもしれぬ快感に見舞われる。
すやすやとした寝顔が好きだ。
気を許した相手にしか見せない安らかな表情が好きだ。
その尊顔を拝する事は光栄の極みなのだ。
かの安寧を守りたいという使命感が沸々と湧き上がり、日々を生き抜く糧をもたらしてくれる。
私は猫が好きだ。
雄雌どちらでも好きだ。
品種の別なく好きだ。
血統書付きでも、雑種でも関係なく好きだ。
家猫、野良猫も問わずに好きだ。
生身が好きだ。動画でも好きだ。画像でも好きだ。ぬいぐるみでも好きだ。
顔が好きだ。様々な模様が好きだ。短毛長毛両方好きだ。声が好きだ。ごろごろ鳴らす喉が好きだ。
全てだ。
世にある猫はすべからく美しい。
と、私は心から思う。
もしも生命を創った神が在るならば、猫と言う種を産み出した事にこそ最大の感謝を贈りたい。
猫こそ究極の美。
人の手によらぬ神秘の具現。
ただ在るだけで尊いもの。
そう思わせるだけの魅力が、猫にはあると私は確信する。
私は猫が、大好きだ。
天上天下唯猫独尊 スズヤ ケイ @suzuya_kei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます