~漫才風会話劇~『尊い』

維 黎

第1話

「「はい、どうもぉぉぉぉ。よろしくお願いしまぁぁすぅぅぅ」」


「ちょっと、ちょっと。大変ですねん」

「何がやの?」

「ホンマに、ホンマに大変ですねん」

「だから何がや」

「めちゃくちゃ、めちゃくちゃたい――」

「もうえぇッちゅーねん! また文字数稼ぎか。しかも冒頭から」

「……ちょっと何言ってるか分からない」

「だからマジもんパクるなっちゅーてんねん! ――それとなかったことにはせぇへんからな」

「……」

「――泣くなや、自分」



「僕ら二回目のお題の時も漫才させてもらいましたやんか? お題が確か――『ぱしる』でしたっけ?」

「『はしる』や! まぁ、パシる時って走ると思うけども」

「あははははっ! ウケるぅぅぅ! ははははっ」

「――なにわろてんねん。どこにおもろい要素があったんや」

「走る描写ジェスチャー、手と足が交互じゃなくて一緒に出てましたよ?」

描写ジェスチャーなんかしてるか! 会話文トークだけやぞ? ラジオと一緒で動作とか読者には伝わらんやろ」

「……ちょっと何言ってるかわかります」

「……そこは、わかるんかい――それで? 何が大変なんや?」

「実は前回、登場したとき挨拶はさせてもらいましたけど、僕らのコンビ名、伝え忘れてましたねん」

「そら大変やけど、だからって最初からやり直さへんからな――って、だから泣くなや!」



「僕の名前がライトで相方がリードって言いますねん」

「まぁ、ベタな名前やけどな」

「二人合わせて"ライト兄弟"って言いますぅ。覚え――」

「ちゃうわッ! ライトリードや! そのコンビ名、わいの名前入ってないやんけッ! あと兄弟でもないし! 覚えたらアカンで! ごっそり忘れてな、頼むわッ!」

「――文字数稼ぎつかみはオッケー……と」

「……」



「ところでリードさん。辞書って最近使いはります?」

「辞書? いや、使わんな。漢字とかわからん言葉とかはネットでググればすぐわかるし」

「そうなんですよねぇ。それで今回のお題は『尊い』なんですけど、これってネット使わずに意味、答えられます?」

「え? そりゃ、貴重なこととか、神様とか仏様なんかに対する気持ちとか、慈しむとか。そんなんちゃうの?」

「てやんでぇ!! お来やがれ!!」

「――えらいもんぶっ込んできたな、おい」



「実は『尊い』を某ウィキペディアで調べると、昔からある日本語本来の意味よりも先に、ネット用語としての説明が書かれてますねん」

「へぇ……って、素直に驚きたいけどアカン。台なしや。お前、『某』の使い方おかしい! 全然ぼかしてないやんけ。『ウィキペディア』言うてもうてるやん。つーか、ぼかさんでええし。普通に『ウィキペディア』って使ってええし」

「そうなんですか!? 漫才協会って忖度して『ヤホー』みたいに実名使わないと思ってました」

「いや、知らんけども。っていうか、ここで掘り下げたら余計ややこしいことになるわ」

「なるほどッ! 余計なトラブルにならんようにすることをすることにしたんですね! お後がよろしようで。どうも――」

「いや、そんなんでオチへんで! 無理やから! そもそも落とすんやったら『尊い』で落とさんと!」

「――」

「――泣かへんのかい」



「実は僕、好きなアイドルグループありますねん」

「初耳やな」

「その中でもキヨちゃんってが僕の推しメンでして」

「キヨちゃんか。なんや勝手なイメージやけど、名前からしてお淑やかでおとなしそうで、二列目とか三列目で踊ってそうな感じやな」

「まぁ、あまり身体も丈夫じゃなさそうなんで、激しいダンスとかは見たことないんですけど」

「踊らへんのか。っちゅーことは歌唱力で勝負する娘か?」

「いや、声もか細くて聞き取りにくいことも多いんですわ」

「――どんなアイドルやねん」



「推しの娘がおると毎日の活力が湧いて元気が出てくるんで、リードさんにも体験してほしいんですよ」

「いや、別にええよわいは。好きなアイドルとかおらんし」

「体験なんで"ふり"でいいんですよ。推しメンがおるつもりで。僕がキヨちゃんをしますんで、リードさんもキヨちゃんを推しメンと思って、全力で応援するファンをやってみてください」

「そんなん、急に言われたかって無理やって」

「大丈夫ですって。とりあえずペンライト持ってるつもりで腕を伸ばして、僕――というかキヨちゃんに向かって振ってください。で、腹から声だして『キ~~ヨちゃ~~~~ん』って掛け声やってください。いきますよー」



「――キ~~ヨちゃ……って、なんでお前、前かがみで腰曲げとんの?」

「……」

「えっ? なんて? 聞こえへん」

「……」

「もっと大きい声でしゃべれや」

「――これがキヨちゃんなんですよ」

「めちゃくちゃ腰曲がっとるやんけ。そんなアイドルおるかぁ? なんていうグループやねん」

「"熟烈じゅくれつ”っていうグループです」

「熟烈?」

「平均年齢76歳の8人グループで、キヨちゃんは83歳で一番お姉さん的存在ですねん」

「全員ババァやんけッ!」


「アイドルに年齢は関係ないんですよ。アイドルは永遠にアイドルなんで。キヨちゃんめっちゃ尊い。あ、ちなみに僕らが使う『尊い』って『萌え』のさらに上です。神々しいっちゅーか、高嶺の花ちゅーか」

「いや、まぁ、人生の大先輩って意味では『尊い』けどやな」

「はいッ、リードさん、もっかい! ペンライト振って! 身体全体を揺らして応援! ――そこで掛け声ッ!!」

「――キ~ヨちゃ~ん……」

「アカン! ぜっっんぜんアカンわ、リードさん!」

「いや、だから言うたやんけ。わいは別にアイドル好きちゃうって」

「口答えすんなやッ! リードさん、アカンわッ! 推しをいただくには早いわッ! 出直しや! お来やがれッ!」

「そっち!? やめさせてもらうわ」



「「どうもぉぉ! ありがとうございましたぁぁぁ」」

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