コロナな正月誕生日

まぁち

人っていうのは単純な生き物である


 正月はあまり好きじゃなかった。

 なぜなら僕の誕生日が一月一日だから。

 お年玉と誕生日プレゼントが一緒くたにされてしまうのだ。誕生日プレゼントがお年玉の代わりだからねみたいなカンジ。

 それが小さい頃に「他の家はそんなことしねーし!」という反発を起こし、母に「他所は他所ウチはウチ!」と一喝され、泣きながら怒る……と言うのが僕の誕生日の恒例だった……らしい。


 両親から聞いた話だ。僕はそれを覚えていない。

 それを聞く前は、なんとなく正月になるとモヤモヤするのが不思議だったけど、聞いてとても納得した。


 ああ、だから未だに好きにはなれないんだなと。



 そして今日、20歳の誕生日をたった今迎えた僕は今までより一段と優れない気分のままチューハイの缶を片手に一人で寂しく晩酌をしていた。


 惰性でつけていた生放送番組では新年あけましておめでとうな話題で盛り上がっている。


「ぜーんぜんおめでたくないよー」


 チューハイを一気に煽って「ぐあー」と唸る。


 今年は散々だ。新型ウイルスだかのせいで人に会うの禁止&引きこもりを強制されて好きな歌手のコンサートは中止になるわ大学はリモートになるわ、そんな状態がまだ続くってのにおめでたいなんてあるかちくしょう。

 お先真っ暗で希望も見いだせない。


 それに一番のおめでたくない理由は別にあるんだ。

 なんてったって、


「るりー……」


 スマホでトークアプリを開いて一つの名前を見る。


 九重瑠璃ここのえるり。ハードカバーの本をいつも読んでる文学少女な僕の恋人。

 彼女と全く会えなくなったのが辛い。

 去年の今頃は瑠璃の家で一緒にテレビを見ながら「来年は新年明けた瞬間一緒にお酒飲もーね」なんて肩をコツンコツンぶつけ合いながら笑い合っていたというのに、なんだこの仕打ちは。去年はそれ以来まじで電話とメッセージのやり取りしかしてないんだぞ。

 しかも瑠璃は今どき機械が好きじゃない化石みたいなコ(貶しては無い。むしろそこがいい)だから頻繁にやり取り出来ない。


 ていうか最近瑠璃成分が足りなくてついウザイくらいメッセージを送ったら返事そっけないし。「会えなくて寂しい」に対して「そっか」だよ?

 これ愛想尽かされてない?いや、いつもメッセージはそっけないけれどね?

 けど瑠璃に愛想尽かされたら僕どう生きていけばいいの?辛い。

 というか新年明けてメッセージ送ったのに新年の挨拶交した後は既読無視続いてるし、これ確定じゃない?辛い。


 というわけで、本年の誕生日は最悪極まりない気分で迎えていましたとさ。


 と、


「あ」


 スマホから通知音が鳴り、画面を見ると、瑠璃からの返事が返ってきていた。

 恐る恐る内容を確認する。


《窓の外》


 メッセージにはそれだけ書かれてた。

 僕は一瞬なんの事かと考えたが、すぐに窓の外を見てという事だと気づき、閉まっていた窓のカーテンを開けた。


 見下ろすと、


「る、瑠璃っ!?」


 見間違うはずもない。マスクをした状態でも分かる整った白い顔が夜闇からこちらを見上げて恥ずかしそうに小さく手を振っていた。


 そしてその片手にはチューハイの缶。


 外出自粛を律儀にずっと守ってきた瑠璃がなんでここに?とか、色々疑問は浮かんだ。

 けど三年以上連れ添ってきた経験からか、瑠璃の意図している事を察し、すぐに窓を開ける。冷たい外気が顔に当たり、思わず身震いした。


 僕は同じようにチューハイの缶をかかげた。


 それを見た瑠璃は一旦チューハイを脇に挟めて、スマホを何やらいじる。


 僕のスマホが鳴った。


《誕生日おめでと》

《かんぱーい》


 慣れないながらも一生懸命打ったであろうメッセージ。多分コロナを意識して喋らないようにしてるんだろう。

 僕もすぐに返した。


《ありがとう!》

《乾杯!》


 チューハイを前に突き出す。

 瑠璃も同じように前に突き出して、乾杯。

 一緒にチューハイを飲んだ。


《寂しいって言うから、きた》


 続くメッセージに、僕は泣きそうになった。

 だって不要不急の外出をひかえていた瑠璃がこうやって僕のために出てきてくれたのは、それだけ大切に思ってくれているって事で。


《来年はもっと近くで飲むからね》


 真っ暗だった世界が光り輝くようだった。


 二十一歳の誕生日。その時世の中がどうなっているか分からないけれど、多分最高の気分で迎えられるんじゃないかなと、今ならそう思えた。

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