科学の道を歩む者

徳野壮一

第1話

「先生、無理ですよ、永久機関の開発なんて。辞めにしましょう」

「仮にも科学者なら、憶測で判断するな!無理という言葉は全てをやりきった後に初めて使える言葉だとしれ!馬鹿者!」

「えぇ……でも、僕らより天才の人達が、永久機関製作に挑んだのに成功してないんですよ。それなのに彼らより頭が良くないのに作ることができるとは到底思えません」

「何故、私が彼らより頭が悪い前提なんだ」

「だって先生、中卒じゃないですか?」

「中卒だからって頭が悪い理由にはならんだろ。それに天才じゃないと新しいモノを作れないなんてのはお前の思い込みだ。科学者たるもの偏見でモノを観てはいけない。濁っていない瞳を持たなければこの世の真理には辿り着けないぞ」

「でも永久機関ですよ!外部からエネルギーが与えられなくても、何かの仕事をずっとし続ける装置ですよ」

「科学者はいつも不可能を可能にしてきたんだ。チャレンジ精神こそが原動力。……チャレンジ精神が機械にあったら永久機関は簡単に出来そうだな……」

「でも熱力学の原理に反しているのにできるわけないですって。今回の実験も失敗したじゃないですか。もう21回目ですよ」

「はぁ……。実験や証明は否定的なモノだが、頭ごなしに否定するのは唯の馬鹿だ。お前本当に科学者か?その白衣はハッタリか?……分かってないようだから教えてやる。まず一つ、実験に失敗はない。今回の実験は成功しなかったという事実があるだけだ。毎回毎回条件を変えて、形がわからない真理の輪郭を、積み上げた事実で捉えるのが実験だ。かのトーマス・エジソンはこう言っている『失敗したわけではない。それを誤りと言ってはいけない。勉強したのだと言いたまえ』と。私は30年間勉強したがまだまだだ。勉強に終わりはない」

「…………」

「二つ目は21回など多くもないは!少な過ぎる。まだまだ始まったばかりだろうが!そんなに簡単に出来るわけがないだろう!誰にも出来なかった事をやるんだぞ!むしろたったの21回で成功してしまった方が興醒めだ!かのエジソンはこうも言ってる『私は失敗したことがない。ただ、一万通りの、うまくいかない方法を見つけたのだ』と。21回など試行した数にも入るまい」

「まぁ、そうかもしれないですけど……。地味だし面倒臭いじゃないですか……後何回ぐらい実験するつもりですか?」

「愚問だな。成功するまでに決まってるだろう。お前は実験が劇的なモノだと思っていたのか?馬鹿め!地味で辛くて大変なものに決まっているだろう」

「ならなんでそんな大変な事をするんですか?」

「誰もが無理だと言った事を覆したい。誰もが出来ないと匙を投げた事をやり遂げたい。この世界の真理を知りたい。そんなところじゃないか?」

「科学者ってもっとリアリストだと思ってました。でも意外とロマンチストだったのですね」

「リアリストとロマンチストは共存出来るモノだろ。科学者は現実的に夢を追い求める者のことだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

科学の道を歩む者 徳野壮一 @camp256

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ