「武装して心霊スポット~21回目の挑戦者~」
低迷アクション
第1話
「ワリィな“T”ホントに、こんなん付き合わせて…」
「いいよ“シバ”俺もマルゼン(トイガンメーカー)のガス銃MAC11(短機関銃)の
試し撃ちしたかったしよ?」
シバのバイクに、ニケツしたTは軽快な口調で答える。高校時代の友人である彼は
クラス内での“ヤンキー”の部類に属する者であり、オタクのTとは本来関わりなかった。だが、ふとした事で喧嘩となり、オタクだけど、意外とアウトドア&ちょい武闘派のTの
“ボロ敗け、鼻から血が濁流だけど、最後まで立っている”姿に思う所あったのか、以後は
“オタクもワルもアツい奴はいる”との見解を持ち、在学中、卒業後も会う仲となっていった…
深夜の国道を進むバイクは、やがて山の峠道に入り、頂上付近の駐車スペースに向かう。
「いよいよだ」
運転をするシバの背中から緊張が伝わってくる。Tは了解の意を、手で示した…
「“みき”が死んだ」
久しぶりに会ったシバの第一声にTは少なからず驚く。それと同時に、急な深夜の男2人のツーリングの提案、しかもバイクを持ってないTは、彼の後ろに乗るしかない。可笑しな具合の誘いはこれか?と妙に納得出来たのも事実だ。
シバの一個上のみきと言う女性は、彼と同じく、峠を攻める走り屋の1人との事、その彼女が2週間前に彼の地元で有名な心霊スポットである“トンネル”を走り、事故死した。
「グレてるとかレディースって訳でもねぇ。純粋に走るのが好きな奴だった。妙に気が合ってよ。その日も一緒に行く予定だったが、俺の現場でトラブルあって遅れちまった。そしたら、アイツ…」
トンネルを出た、すぐのガードレールにぶつかったと言う。彼女の運転テクじゃあり得ない。シバは自身に言い含めるように何度も呟く。そして、ある噂を話し始めた。
いつからの話かは定かではない。その因縁もだ。ただ、山の峠のトンネル…そこを抜けた先で何かが出る。時刻は決まって深夜の2時…何人かの人間が試した。だが、実際にどんな
モノが出るのか、見た者はいない。知った奴は死に、ただ、噂だけが残った。
「俺の地元じゃぁ有名だ。だから、アイツはそれを確かめようとしてた。俺と一緒に…
皆が楽しく走れるがモットーの奴で、変な噂を無くしたがってた。
あの辺りは走りやすい場所だから…」
その弔いの意味を込めて、行きたいと言う。Tに同行を求めたのは、酒の席で、
彼が心霊スポットに足を運んでいる話を覚えていたからだ。
シバの申し出に答える前に、Tは一つだけ尋ねた。
「なぁっ、シバ?」
「うん?」
「…その、みきさんは…いい人だったんだな?」
「‥‥…ああ、勿論だ…」
それで全てが決まった…
「なぁっ、そこの2人?賭けをしないか?」
駐車スペースには先客がいた。3台の車に8人のT達と同い年くらいの年齢の男性…
2人乗りの男というのも、何だか気まずく、とりあえず降りたT達にリーダー格の男が
ニヤニヤしながら、提案をしてきたという次第だ。こちらが首を傾げるのも構わず、
彼は言葉を続ける。
「こんな時間に来たって事は、君達もトンネルの噂目当てだろ?俺達もそうだ。そして、
ここに来ると、いつもゲームをする。
ゲームのルールは簡単、トンネルをくぐって、ここまで戻ってくるだけ。参加者は最初に
1万円を俺達に預ける。怪我もなく、戻ってこれた奴には…そうだな。20万円を払う。
つまり、プラス21万円の儲けになる。どうだ?上手い話だろ?…信じてないか?
なら、これだ」
相手が差し出した紙幣の束は、確かにそれだけの額があった。シバの方を見る。何かを考え込むように俯いてはいたが、こちらの視線に気づくと、同意の印に紙幣を男達に放った。
「OK、これで、交渉は成立!ゲームスタートだ」
受け取る男の笑いが闇の中でもハッキリとわかった…
トンネルに入ったシバはバイクのスピードを上げる。後ろに乗るTは、ホルスターに
固定したMAC11をいつでも抜けるようにしていた。
「もうすぐ、トンネルを抜ける。なぁっ…T、みきがさ…事故…に遭う直前、電話してきた」
「えっ、何だ?」
風の勢いに邪魔され、なかなか聞き取れない。トンネルの出口はもうじきだ。
「あの時はわからなかった…だが、今はようやく意味がわかった…あいつ…ら…らああああああ」
トンネルを出た直後、シバが、今まで彼が上げた事もない声で叫び始める。
その影響でバイクがスピードを出したまま、大きく傾く。
「おいっ、シバ、シバ!!」
「わああああぁあああ、ああああぁああああ!」
一体何を見ているのか?Tには見えない。こちらの声にも答える余裕はないようだ。しかし、恐怖は嫌でも伝わってきた。ガードレールが迫っている。みきや幾人の人間を奪ってきた
ガードが闇に怪しい光沢を放ち、自分達のバイクとの距離僅かな地点まできている。
シバに負けないくらいの叫び声を上げ、逃避するように、体を反り返らせたTの視線は、
トンネル出口横壁面で一瞬、光る何かを捉えた。
本能的に抜いたMAC11を仰向け越しにフルオートでバラ撒く。改良を加えたガス圧最大のBB弾数十発が山肌に吸い込まれ、マガジンを撃ち切る途中で、ガラス片の割れる音が辺りに響き渡る。
「消えた…今の…うわっ!?あぶねっ」
シバがハンドルを握り、バイクを元に戻したのは同時だった。急停車する彼等の横を
申し合わせたように車内から喚声を上げ続ける3台の車が通り過ぎていく。2人に対する
賛辞ではない事は、何故かわかった。
「ハハ、お疲れぇっ」
最後の1台からリーダー格がふざけたように札をばら撒く。その紙の束を浴びながら、
先程のシバの言葉を、Tは薄々理解し始めていた…
「多分、一種の“合わせ鏡”だ。誰が設置したモノかはわらかない。ただ、斜面に吊るした鏡(大きさは不明)と磨き上げたガードに、月明り、もしくは車やバイクの照明が反射し、午後2時=逢魔が時と言う条件が重なった時、お前が見たナニかが発生した訳だと
俺は考えている」
何を見たかまでは最後まで教えてくれなかった。命の危険もあったツーリング以降、
原因不明の高熱を出し、そのまま入院の形となったシバを見舞ったTは自身の推論を話す。あの日、彼が気づいた“結論”を聞きたかったと言う思いもあった。
「‥‥…」
シバは答えない。黙って病室の前を見つめている。
「なぁっ、あの時、お前が言ってた、みきさんが言ってた言葉だが…」
「20だ」
「ん?」
「みきが走行中に電話してきた。よく聞き取れなかったけど、20と言う言葉と、これで
楽しく過ごそうって…アイツ、俺んちが苦しいの知ってたから。そんで‥‥」
顔を伏せる。
「どーゆう意味だ?」
「19万円だ。1万渡して、無事戻ってきたら、プラス1万で20万…あいつ等、
俺達以外にも試してた。俺達は21回目のチャレンジャー…あのクソ野郎共が持ってた
20万は、20人の犠牲の上で、もし、生きて戻ってこれたら、金を払う。あいつ等の
たまり場の祓いも出来て、一石二鳥だ。あの1万円の1枚はみきの…畜生」
拳を固めるシバの目には涙が浮かんでいる。それを見ながらTは、最初に話を聞いた時、
彼女が同じ走り屋たちのために、トンネルに向かった件を思い出した。
「なぁっ、T…」
しばらくの沈黙の後、シバが顔を上げ、訊ねる。
「その、仕掛けは…呪いみたいなものは、消えたのか?」
「‥‥正直わからない。専門外だ。ただ…」
「ただ?」
Tは首を振った後、彼に、今朝の朝刊を渡す。
「カ・タ・キ・はとれたんじゃねぇのか?」
シバはそれを読み、静かな嗚咽を響かせ、頭をベッドに埋める。Tが渡した新聞の見出しにはこう記されていた。
“山の峠で車3台事故…運転手、同乗者、全員死亡”…(終)
「武装して心霊スポット~21回目の挑戦者~」 低迷アクション @0516001a
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