【7】入団



〜 1941年 2月 イタルナ国中部 軍事施設 〜



兵士「よ、よるなあああ!!!」


ダダンッダダンッダダンッ


ガキンッ


スクルド「はぁ・・・」


兵士「な、なんで当たらな」


 驚いている兵士に向けて拳銃を突きつける。


ダンッダンッ


スクルド「・・・全部片付いたな」


無線機を抱えた男「こちら3班、1階に逃げてきた敵は室内で殲滅した、どうぞ」


無線機の先の声「3班、了解。

総員撤退、総員撤退。西側壁外に車両を回す。残党に注意して直ちに集合せよ。

繰り返す、総員撤退」


スクルド「これで全員だ。ジュリー、あとは頼むぞ」


ジュリー「分かったわ」



ブロロロ・・・



 ジュリー以外の全員を乗せて、車が走り出す。


ブォン


ジュリー「ふぅ・・・ただいま。ちゃんと全箇所からの着火を確認してきたわよ」


ロウ「お疲れ!今回も成功だな!

にしても、最近イタルナでの任務ばっかだよな」


ジュリー「枢軸国(すうじくこく)の中ではまぁまぁ大きい国だったのに、サラッと上陸されちゃうんだもん。私たちの仕事は増えるよ」


アマネ「お疲れ様です。今回の任務もドイルとの交信記録の隠滅でしたよね」


ジュリー「全く、あと何箇所焼けば終わるのよ・・・」


 後方に、赤く輝く軍事拠点だったものが見える。


ロウ「まぁ、車で移動できるだけありがてぇし、今回は楽だったな」


アマネ「そうですね・・・。南部沿岸の港の時は最悪でしたよね」


ジュリー「あーーー!私イタルナの任務って聞いただけで嫌気が刺すわ。あのあと髪ベッタベタでしばらくお昼に人前歩くの避けたんだから!」


ロウ「まさか潜水艇の格納庫でやり過ごせってなぁ〜。しかもあの夜に限って大雨強風な。クレイジーな海水浴みたいで俺は楽しかったけどな!」


アマネ「私あの時初めて、スクルドさんの守護壁に乗せてもらったんですよ!」


ジュリー「あんたさ、その壁折り曲げるとか、全部の方向から守れるよう包むとかできないの?」


スクルド「・・・」


ジュリー「ねぇ聞いてるの!?」


スクルド「あぁ?なんか言ったか?」


ロウ「どうしたよ?今回の作戦、なんか納得いってないのか?」


スクルド「いや、作戦は大丈夫だろう。ただ、ちょっと考え事してただけだ、気にすんな」




〜 3年前、 1938年 パツィフィスト本部 〜




シャルガ「ようこそ、ここがユバヴェンダーたちの帰る家、パツィフィスト本部だ!」


 車両に被せてあった布が大きく捲られる。

果たして、目の前にあったのは・・・


スクルド「・・・山?」


ウィール「を、くり抜いて作られた基地だね〜」


シャルガ「本部丸ごと空爆されて、甚大な被害を出すのはまずい。この形が一番適してるんだ。

っと、私は今回の報告とスクルド君たちのことを伝えてくるよ。

バグラス君、コノエ君、とりあえず空いている会議室に案内してくれ」


ウィール・アマネ「はい!」



〜 3日後 パツィフィスト本部内部 居住区 〜



ドサ


スクルド「・・・」


 心地のいいベッドに体を預ける。


 パツィフィストにきてからの3日間は順調に過ぎた。


 あの後、ロウやジュリーとはすぐに再会した。

ロウは死にかけたわりにはケロっとしていたが、ジュリーはスクルドを見るや否や泣きながら走ってきて、思いっきり頬を叩いた。


 その後、パツィフィストについて、今後の生活について、先輩ヴェンダーのウィールとアマネの2人が詳しく話してくれた。



 パツィフィストを構成する人間は3つに大別される。

ヴェンダー、サポーター、マネージャー

の3つだ。


 ヴェンダーはシャルガという男が話した通り、能力者のことだ。

無能力者が能力を得る条件は2つ。



【若いこと】

 ヴェンダーが持つ能力、ユヴェンは、物心はついているがまだ純粋なところが残る少年少女、年齢にして大体10代に、発現する傾向が強い。


【1人では抱え切れないほどのストレスを経験すること】

 これは以前スクルドが立てた仮説通りだ。

スクルドは”目の前で人が亡くなった時”と言っていたが、厳密には強すぎるストレスがトリガーになる。

しかし強すぎるストレス=思い出したくもないような悲劇、だろう。

よって、ヴェンダーの過去を探る行為は御法度なのが、暗黙の了解なのだそうだ。



 サポーターとは、そのヴェンダーと共に行動するノーマル、つまり無能力者であり、任務の際はヴェンダーではなくてもできる任務をこなし、負担を減らして任務成功率をあげるサポートをしてくれる人たちだ。

先に目的地付近の街に潜入したり、無線を利用して作戦を円滑にしたり、敵勢力と戦闘になった際は銃や車両などの兵器を使って応戦することも役割の範囲となる。



 マネージャーは、パツィフィストの拠点に務める人たちのことを指す。

司令部・居住管理部・補給輸送部・教育部など、ヴェンダーとサポーターが活動する上で接する人たちの総称だ。

マネージャの中には、元々派遣されていたヴェンダーやサポーターも含まれている。



 続いて現在の世界情勢について。

あらかじめ用意していたのか、アマネが世界地図を広げ、指差しながら話す。



 まず、自分がいるココはフランツェ国ではなく、その隣国であり敵対国でもあるドイル国の領地内だという。


 パツィフィスト自体がドイル国と強い結びつきがあるようだ。


 政府直下というわけではないようだが、ドイル政府、特に軍部との繋がりは根強くあり、協力関係を築いている。

総員120名、本部在中だけでも30名近くいるヴェンダーを保有するパツィフィストは、それなりの影響力がある。

世界の列強の中でもトップの技術力を持つドイル国の軍だが、パツィフィストを相手に上下の関係は提案しなかった。


 ドイルとパツィフィストの間で結ばれる協力関係には、共通の目的がある。


それは、”ドイルを世界の覇権国家にする”ことだ。

現政府は独裁状態ではあるが、しっかりを国内情勢を理解し、その対処に注力した。

実際、首相と大統領を兼任する総統バドリフは、国民の8割以上に支持されている。



 20年前に収束した周辺国一帯を巻き込んだ第一次大戦で、ドイル国は敗戦国代表のような立ち位置だった。

今後半世紀経っても支払いきれない賠償金、大戦前・大戦中に得た植民地の没収、軍拡の制限など、敗戦の際に連合国と締結したヴァロサイユ条約は、歴代の戦争を見ても特に大きいものだ。


 国全体が大不況で、街を歩けば家も職もない人々が常に視界に入るような惨状。

しかし、これに追い討ちをかけるように世界恐慌が発生。


 これは、第一次大戦で資金を多く消費した各国にお金を貸していたアミリカが、大不況に陥ったことを発端とする。


 アミリカの手を借りていたイグリスやフランチェといった大国でも、経済危機に陥る。

これら2カ国は、植民地及び第三国との貿易に特恵関税を設定するための関税同盟を組み、自国の経済を何より最優先するブロック経済政策を推進。

平時では考えられない、自国のみ利益を出すこんな政策に踏み切るほど、財政は火の車だった。


 同様に、アミリカの支援があってなんとか経済活動を繋いでいたドイル経済には、とどめを刺す形になった。

ドイルは世界で最も恐慌の煽りを受け、三人に一人が失業する事態が発生。

帰る家を失い、路頭に迷う人が町中に溢れかえり、貧困化の一途を辿る。


 そんな中、バドリフ・キトラー率いるナチル党が力を付ける。

彼らは、国民にパンとスープを口にできる暮らしを約束。

マニフェスト通り、民衆に職と食糧を行き渡らせることを最優先する政策に舵を切った。


 その過程で、第一次大戦時に締結したヴェロサイユ条約を一方的に破棄。

国際的な問題より、悪化する国内の回復を優先した。


 国内の交通網を飛躍的に発展させるために、アウトバーンと呼ばれる公共事業を展開。

国内に巨大な道路を敷き、物量と人々の移動を支える柱を建てた。

また、これによって12万人以上のドイル国民が職に就き、生活を取り戻し始めた。


 その他、貯蓄を奨励する金融政策、自動車オートバイの免税、農業の経営管理など、さまざまな施策が効果を発揮していった。


 街に放浪していた大量にいた失業者達は、これらの政策で職とパン、住居を得ることができ、浮浪者は目に見えて少なくなった。


 そして、新たに発生する需要による経済活動の活性化と、千年帝国を築き上げるために領土拡大を図るために決行したのが、欧州の小国に始まりドイルの東西を挟むパーランドとフランチェへの侵攻であった。



 1938年、この世界は大きく二つの陣営に分かれる。



 一つは、枢軸(すうじく)国陣営。

欧州中央に位置するドイル国。

その南に位置するイタルナ国。

そして大西洋に面しながら北にフランチェを置くスペリン国。

さらに欧州から9,000km以上離れている東洋のヤマト国。

これら4国が協定を組み、中心となった陣営だ。


 今回の第二次大戦は、主に枢軸国が勃発させた。

それもそのはず、枢軸国代表のドイルとイタルナは、先の大戦で大敗に喫していた。

その穴埋めと、すっかり衰えた国内情勢を栄させるには、このような強行策しか手段はなかった。


 そして、その枢軸国と激しく対立するのは枢軸国以外の諸外国、連合国だ。

戦犯である枢軸国を敵と扱うこれらの国々は、敵の敵は味方理論に則って言うなら協力関係となる。

また、連合国側は第一次大戦の戦勝国が多くを占めている。

そのため、これら連合国は世界各地に植民地を持っていた。


 代表的な連合国は、

ドイルの西に位置するフランツェ国

フランツェより北部、ドーラー海峡を挟んだ島国イグリス国

ドイルの東に位置するパーランド国

パーランド国のさらに東、広大な領地面積を有するソブリト国

まだ参戦こそしていないが、イグリスより参戦を強く願われている世界一の大国アミリカ。


 ここまで上記したヤマト、アミリカ、ソブリト以外の全ての国は、欧州(ヨーロッパ)という括りにまとめられる。

欧州からすると、ヤマトは遥か東に位置する島国。

アミリカは欧州の西側に位置し、欧州との間に大西洋が広がっている。

ソブリトは、欧州の東側に位置する。世界一の広大な領土は大陸を両断できるほど広く、東の果てまで行けばヤマトの目と鼻の先まで到達できる。



 1938年現在、武力を持って対立している国は、


枢軸国側が


・ドイル

・イタルナ

・スペリン


そして、連合国側は


・フランチェ

・イグリス

・パーランド

・その他欧州の小国


 ソブリトはドイルとの間に軋轢(あつれき)こそあれど、いまだ参戦はしていない

ヤマトは同じアジアの中民国との戦争状態にあるが、ソブリトが動き出せばいつでも侵攻できる。

アミリカは、参戦する理由が明確になく、様子を見ている。



 ここまでの内容ついて、スクルドは教会で読んだ本で先に知っていた部分が多くあった。

ロウとジュリーは、これらの話を聞いて理解できていなかったようだが、


”世界は二分されており、大体の先進国は戦争に突入している”

”俺たちは今ドイル国に属している”


とまとめると理解したようだから、とりあえずは良しとしよう。



ウィール「大体わかっていただけたかな?」


スクルド「はい」


白目を剥くロウ「・・・おう」


ジュリー「う〜ん」


アマネ「どうされましたか?ジュリーさん」


ジュリー「パツィフィストはドイルと手を組んで”はけん国家”っていうのになることを目指してるのよね?

その”はけん国家”っていうのになると、何がどうなるの?」


スクルド「覇権国家ってのは世界で一番権力を持った国のことだ。世界規模の王様みたいなもんだな。

ドイルはこの覇権を握ることで、歯向かう国を黙らせて誰も戦争しない世界を作ろうってことがしたいわけだ。


 今やっている第二次大戦でドイルが勝てば、この覇権は実現するように動いてるみたいだな。

 つまり、このパツィフィストは、ユヴェンと呼ぶ能力を使ってドイルを戦勝国にして、覇権を握ったドイルが叶える世界平和の実現に一役買う組織ってことだ」


ジュリー「それじゃ、覇権を握るまでの戦争でたくさんの人が!」


ウィール「あー、全くだ。全くその通りだよ。スクルドくん、そしてジュリーちゃん」


 何かに弾かれたようにウィールが話しだす。


ウィール「スクルドくんが言うように、このパツィフィストはドイルの支援を主な任務として動いているんだってさ。

事実上、国とは別の組織となってはいるが、やっていることは国への奉仕みたいなもんだよ。

 そして、ジュリーちゃんの気持ちもよ〜くわかる。

殺し合いなんて存在しない平和な世界を手に入れるために殺し合いをするのはおかしいって」


アマネ「・・・さっき話したように、ヴェンダーの過去のことは探らないのが暗黙の了解になっています。

なので具体的に聞くわけではありませんが、おそらくヴェンダーである以上、あなた方も殺し合い、戦争というものを人一倍嫌われていると思います。

そして、それは私たちも同じです」


ロウ・ジュリー・スクルド「・・・」


ウィール「それでも俺たちがパツィフィストに入団しているのは、この犠牲を最小限にするためなんだよ。

最終的に目指す平和というのを実現するためには、どうしても犠牲が生まれる。

 そうした殺し合いが起こった先で、今度は俺たちのようなヴェンダーが生まれる。

ちょっと考えればわかるが、ヴェンダーが生まれるのは全く望まれないことだ」


アマネ「ヴェンダーとなる者の気持ちは、ヴェンダーが一番理解できます。

だからこそ、今この本部にいる私たちが、最後の代のヴェンダーになるよう努力したい。

 それが、私とウィール、そしてこのパツィフィストにいるヴェンダーたちの願いなんです・・・。


 即決できることではないと思います・・・。

でも、もし共感していただけるなら、どうか皆さんの力を貸してほしいんです!

もう私たちみたいな子供を!」


スクルド「いいだろう、入ってやる」


 アマネが言い終える前にスクルドが返事をする。


ロウ「へへっ、俺もだ」


ジュリー「そうね」


 ロウとジュリーは、安心したかのように笑った。


ウィールとアマネも嬉しそうに笑う。


アマネ「あ、ありがとうございます!そ、それでは・・・」


 アマネが手を差し伸べる。


アマネ「これからは、よろしくお願いいたします!!!」


ロウ「おうよ!よろしく頼むぜ先輩!」


ジュリー「よろしくお願いしますっ!」


スクルド「よろしく」


 それぞれが握手をしながら、改めて挨拶を交わしていく。


ウィール「先輩と言われるほど俺たちも長くないんだが・・・まぁ、これからは戦友となるわけだ、超仲良くしような!

ちなみに、うち以外でこんだけ手厚い待遇してくれるとこ、他にないらしいからね〜

何より食堂のオムライスはデェ〜リデリデリシャス!」


アマネ「確かにオムライスは美味しいね」





 無語のまま、腕を組んで過去を思い出してた。


ロウ「ま〜た何か考え込んでますぜ」


アマネ「そのまま彫刻になりそうですね」


ジュリー「今度頭に水の入ったグラスでも乗せてみましょ!」


ロウ「誰が一番早く乗せたか、だな!」


アマネ「いいですね!あ、でもウィールがいないときにしましょう!その条件は私たちが不利すぎます」


スクルド「何一つ良くねぇよ」


 スクルド以外の全員が笑う。


サポーター「お疲れ様です。付近で監視していたサポーターからの無線が入りました。

その内容よると、炎上に崩れ去る様子を目視にて確認、今回の軍事施設の焼却は成功のようです!」


ロウ「よっしゃ!」


サポーター「本部には先ほど伝達しました。

これからイタルナ北部の街にて停泊、他の分隊とも合流したのち、輸送機にて本部へ帰投します。

 街までは6時間ほど要します。周囲警戒は我々がしますので、どうかごゆっくりおやすみください」


アマネ「ご報告ありがとうございます!

でもラマさんたちもお疲れでしょうし、見張りは我々も含めて交代制にしませんか?」


ラマ「いえいえ!ヴェンダー様方にはいざという時に動いていただかなければなりません。こうした時間に休んでいただがないと」


スクルド「そのいざって時、俺かアマネが即対応できれば便利だろ。

俺なら銃撃も砲撃も防げる。アマネなら迎撃までできちまう」


ロウ「まぁ、俺とジュリーはこの状況じゃ役立たずになるよな・・・ガックシ」


ジュリー「役立たずで悪かったわね!」


アマネ「スクルドさんのおっしゃる通りです。

それに今、サポーターさんは3人ですよね。人数は増えた方がゆっくり休めますよ。

 とりあえず私とスクルドさんの2人は警戒に加わりますので、ラマさんから先におやすみください」


ラマ「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます。

あっそれとですね、スクルドさん」


スクルド「ん?」


ラマ「・・・本部から、スクルドさん宛に伝令です」




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