21が幸運数であることを語る人

関根パン

21が幸運数であることを語る人

 一人の男子生徒と、一人の女子生徒が通学路を並んで歩いていた。夕方なので、登校ではなく下校である。


 帰る方向が同じ生徒が減っていき二人だけになったところで、男子生徒はおもむろに口を開いた。


「ねえ。幸運数って知ってる?」


 女子生徒は無言で首を振った。


「幸運数っていうのは、自然数の一種なんだ。自然数はわかる?」


「正の整数だっけ?」


 女子生徒は即答した。以前にも、何度か男子生徒から自然数についての話を聞かされたことがあったのだ。


「そう。まずは自然数、つまり正の整数を1から順番に並べる。1、2、3、4、5、6,7,8,9,10,11……っていう風にね」


 男子生徒は、指折り数えてそう言った。


「ここから、この数列をふるいにかけていく。幸運数ではない数を取り除いていくんだ。まずは2n番目の数だ。つまり、偶数を除外する」


 女子生徒は、なぜ偶数を除外するのか、なぜ偶数には幸運がないのか少し疑問に感じたが、いちいち口に出して聞いたりはしなかった。


「そうすると、1、3、5、7、9、11、13、15、17、19……、まあ、当然奇数が残るわけだ。この奇数の数列、つまり、自然数の『2n番目』の数を取り除いてできた数列で2番目に並んでいる数を『幸運数』という」


「じゃあ、幸運数は3ってこと?」


「ああ。でも、幸運数は3だけじゃないんだ。今度は今できた数列から、『3n番目』の数を取り除いていく」


 男子生徒は再び奇数をいくつか羅列して、それから、3番目、6番目、9番目……と、3の倍数番目に並んでいる数を取り除いた。


「すると、1、3、7、9、13、15、19、21……のようになる。今度は、この数列で3番目に並んでいる数が『幸運数』ということになる」


「7ってこと?」


「そう。そして、今度はこの数列から、『7n番目』の数を取り除いていく。そうすると今度は4番目の数が9になる。そしたら9が幸運数で、次は『9n番目』の数を取り除く。そうすると今度は5番目に13が来るから、13が幸運数だ。次は『13n番目』の数を取り除く。これを同じようにずっと繰り返す」


 女子生徒は、正直に言ってもう説明の内容を正確には理解していなかったが、適当に合わせてうなずいておいた。


「こうして繰り返すと、やがて幸運数の数列ができていく、1、3、7,9、13,15、そして、7番目の幸運数は――21」


 男子生徒は立ち止まると、ここからが本題とばかりに声のトーンを上げた。


「わかる? 21は幸運の数なんだよ」


「へえ」


「21というのは特別な数なんだ。だから、21という数字にもとづいて何か大きな決断をすれば、きっときみにもいいことがあるはず。そうに違いない」


 それから、男子生徒はあらたまって言った。


「だから、言うね。これで21回目になるけど、きみのことが好きです。よかったら、僕と付き合ってもらえませんか?」


 そんな得体の知れない理由で人の心が動くはずもなく、女子生徒は過去20回と同じ答えを返した。




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