135話 いつも笑顔の結花先生が…?
菜都実さんは、そこで一度言葉を区切ると、お店の奥から袋に入ったお弁当やおつまみを渡してくれた。
「はいこれ、お弁当ね。せっかく新しいお友達も連れてきてくれたのに、いつものメニューで悪いね」
「いいえ。いつもすみません」
「先生、今年はもう結花ちゃん泣かしちゃダメだよ? いい?!」
菜都実さんが陽人先生に念を押している。今年はって、前にもあったってことなのかな。
「大丈夫です。今ではもうネタ切れですから」
「ハッハッハ! じゃあ安心だ。これ持っていきなよ。シートに直に座るよりも楽でしょ。場所は前と同じところにシートを敷いておいたから、帰りに一緒に持ってきてくれる?」
そう豪快に笑って、菜都実さんは折り畳みタイプの小さな椅子を貸してくれた。
「ありがとうございます」
「結花ちゃんと花菜ちゃんは帰りに中に寄ってね。浴衣直してあげるから」
「はい。お願いします」
お礼を言って、お弁当は結花さんと私、椅子はふたつずつ陽人先生と啓太さんが持ってくれて、階段から堤防を乗り越える。
「陽人先生、ここでも結構人がいるんですね」
「会場だと人が多すぎてゆっくり見られないから、昔からの隠れ人気スポットなんだと言ってたな。昔の俺も結花と菜都実さんからここを教わったんだ」
海岸の堤防の上に出ると、同じように花火見物をする人たちが思い思いの場所に腰を下ろしている。
「あー、あれかぁ。全く変わらないな菜都実さんは」
小島先生夫妻のあとについて行くと、堤防のコンクリートで少し平らになっているところにレジャーシートが敷かれていた。
「よし、せっかくだからこれを使わせてもらうか」
椅子を使わせてもらうなら、砂地よりも安定するからありがたい。
夕闇が少しずつ濃くなってきて、腕時計を見たとき、ちょうど開始の花火が上がった。
菜都実さんにお願いしてあったお弁当を食べながら、打ち上げ花火を見られる。この間の珠実園での時も良かったけれど、こうして海岸に座りながら見る水上花火もとても素敵だ。
「結花さん、大丈夫ですか?」
ふと横を見ると、いつも笑顔を絶やさない結花さんの頬に幾重も筋ができている。
「ごめんね。何でもないのよ」
「結花、同じ関係にいる花菜ちゃんに話してみれば楽になるんじゃないか?」
「そっか。そうね。私は花菜ちゃんのことをみんな教えてもらったけれど、私たちのことで話していないこともあるからね。私たちも花菜ちゃんと同じで、『辛くても卒業します』って約束から始まったことは前にもお話ししたよね……」
結花さんが花火を見ながら、当時のことを思い出すようにぽつりぽつりと、これまで教えてもらえていなかった、「教師とその生徒」という難しい道を乗り越えてきた、私たちの教科書ともいっていいお話の穴埋めを始めてくれたんだよ。
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