96話 特別な夜の準備完了
夕方5時半のチャイムが時計から鳴って、二人の先生がお子さんたちを迎えに行っている間、私は児童センター側の入り口で待っていた。
「こんばんは……。えーっ、花菜ちゃん?! すごぉい!」
通りかかって声をかけてくれたのは、茜音先生だった。
大きなイベントも終わって、本当はお家に帰ってもいいのだけど、お子さんたちもみんな独立されてからは旦那さまの健さんと二人ここで過ごすんだと言っていたっけ。
「結花先生と千佳先生の合作です。私、本当に似合ってますか……?」
考えてみれば、あの二人の先生たちのされるがままにメイクアップがされ、一応自分では姿見で確認したけれど、現実のものなのか分からないくらい私は変身していて……。
そんな状況の私を初めて第三者的な視点で見てくれたのが茜音先生になる。
「そかそかぁ。あの二人が組むと凄いなぁ。お世辞抜きに素敵なレディに大変身。今日お会いするのは、あの方なんでしょう?」
無言でうなずいた私の両手を、茜音先生はぎゅっと握ってくれた。
「花菜ちゃん、素敵な時間にしてきてね。花菜ちゃんがいつも頑張っているの、みんな知ってるから。みんな味方だからね」
「はい……」
そこに、お子さんたちを連れてきた先生たちが戻ってきた。
「茜音先生、どうですか? 私たちの最高傑作。びっくりですよね」
「二人の腕もあるけど、花菜ちゃんがもともと美人さんだからねぇ」
「えぇ? そういうこと言いますかねぇ。途中の待ち合わせ場所まで送りながら帰ります」
「そうね。よろしくお願いしますね」
お子さんたち二人も入れて五人で珠実園を出て、横浜駅までのバスに乗る。
クリスマスイブ、同じようにこれからデートという人も多いのだろう。そんな事情も加わって私の服装も今日は目立たないみたいだ。
「何時に待ち合わせ?」
「6時半に東口のバスの案内サイン前にしました」
「うん、じゃあ十分間に合うね」
それでも道路の渋滞はいつもよりひどい。余裕を持っていたはずだったのに、駅に到着したのは約束の15分前だった。
「どう? 先生来てる?」
「こんな可愛い女の子を待たせるような人じゃないからね、もう来てると思うよ?」
そんなことを話しながら、みんなで約束の場所に近づいた。
「あ、いたいた。行きましょう」
結花先生が私の手を握る力を少し強めた。
「長谷川先生、お待たせしました」
緊張している私の代わりに声をかけてくれる結花先生。
「すみません、わざわざ送ってくださったんですか?」
「花菜ちゃん大変身だもん。拐われちゃったりしないように、ちゃんとお届けですよ?」
「私たちは帰り道の途中ですから、今日はこちらで失礼します。今夜の夜間外出の許可は取ってありますので、花菜ちゃんのこと……、このあとはお願いしますね?」
二人とも本当はもう少し何か言いたかったのを喉元で抑えて、つないでいた私の手を長谷川先生に託すようにゆっくり握らせてくれた。
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