95話 先生たちのメイクアップ




「もうこんな時間? 花菜ちゃん、そろそろ準備しておいで?」


 結花先生が壁にかかってる時計を見て言ってくれる。


「まだ片付け終わっていないですよ?」


「そんなの後回しでいいから。今日の花菜ちゃんは遅刻厳禁だから。時間に余裕を持っていないとね」


 結花先生は私の背中からエプロンの結び目をほどいてしまう。今日はこれ以上お仕事はさせないと言っているようなものだ。


「花菜ちゃん、大丈夫。ハンカチとメイクの用意持っていきなよ?」


 二人の大先輩が緊張している私の背中を押してくれる。


「なんかさぁ、花菜ちゃんを見ていると結花の妹みたいに見えるのよね」


「ほとんどサイズ一緒だもんね。花菜ちゃんの方が若いだけあってウエストは細いのよ?」


「仕方ないよそれは。結花はもうママさんなんだからさ。現役女子高生と比べない」


「それ聞くと一気に老けたように感じるんだけど……」


 結花先生は、私が控え室に持ってきていた服をもう一度点検してくれた。


「そう、これを使うのね……?」


「はい……。いろいろ今日の意味とか考えると、もうこれしかなかったです」


「まさか花菜ちゃんに、私と同じシチュエーションのために着付けてあげることになるとはねぇ」


 これを渡してくれたときと同じく、結花先生は歩いても着崩れしないようにファスナーやフック、リボンをしっかりセットしてくれた。


「大丈夫。花菜ちゃんはたくさん泣いてきた。しっかり言葉を受け取って、笑顔になって帰ってくるのよ」


 髪の毛も一度解いて、結花先生が結びなおしてくれた。


「結花、靴も磨いておいたよ」


「ちいちゃんありがとう。よし、これで準備は完璧」


「あたし、結花の変身はいろいろ見てるけど、この服は見たことなかったんだなぁ。花菜ちゃん行ける。絶対に成功するよ」


 千佳先生からシルバーの細いチェーンネックレス。結花先生からは服に合うようにと、襟にファーがついたコートを貸してくれた。


「大人っぽい!」


「これは高校2年生には見えないねぇ」


 結花先生が私の顔にメイクを施してくれる。普段は使わないアイシャドー、チーク、ルージュを使って限りなくナチュラルに仕上げてくれた。


「変じゃないですか?」


「ううん。ちゃんと合わせたから。花菜ちゃんよ」


「そんな言葉初めて言われました」


「途中で誘拐されないように送っていかなくちゃね」


 そんなに変身してしまったのかな……。


 先生たちの歓声が一度消えると、一人玄関で待っている私は不安になってしまう。


 普段の私、制服の時の姿は表の姿だからそれなりに整えてはいるけれど、私服は本当に目立たない地味なものだし、もしそちらの方が好みだとしたら……。


 でも、あの結花先生のお家からの帰り道には、何度も似合っていると言ってくれた。それ以外にも、茜音先生や結花先生からは、「他に着こなせる子がいないから」と差し入れが続いているお陰で、外出時に困ることもなくなった。


 あの時の言葉が本物の感想でありますように……。まずそこから心配しなくちゃならないなんてね。


 でも、最近はそれも私らしいと思うことにしたんだよ。

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