26章 クリスマスイブの予約
97話 緊張してるか? あたり前です!
私たちが手を繋いだのを確認して、珠実園の先生たちは黙って肯いて帰っていった。
「俺たちも、行こうか……?」
「はい」
二人で電車に乗って向かった横浜港の大桟橋は、私も小学校の頃に社会科見学で来たこともある。
それなのに今は本当に別世界にいるようだった。
まさか自分がクリスマスイブにこの場所に立てるなんて思ってもいなかったもの。
「長谷川さまですね。お待ちしておりました」
先生がロビーで名前を告げると、係の男性は私たちを他の人たちとは別の、奥の方のソファーが置かれているブースに通してくれた。
「よくこの日に取れましたね?」
「ずいぶん前から決めてた。松本と一緒にこの日を過ごしたいって……」
先生の顔が赤い。そんなものじゃないよ。きっと見えないところですごく頑張ってくれたに違いないんだ。
イブのナイトクルーズなんて、なかなか取れるものではないんだから。
そもそも私と一緒に行けるかなんて、この間私の予定を確認するまで分からなかったと思うよ。
この間、私のスケジュールを聞いたとき、ホッとした顔をしていたのはこれのことだったのね。
「もぉ、サプライズを仕掛るのが大好きな結花先生たちの影響ですよね? 流されやすいんですから」
まわりを見ると、やはり同じように「クリスマスイブの特別な日に」というカップルがたくさんいるみたい。その中に混じってしまえば、私たち二人もそれほど目立つものではなくなる。
これから約2時間弱の船旅。海の上から港街に施されたイルミネーションを見られると思うと
それでもこんなことはもちろん生まれて初めてだから、楽しみより緊張が先走ってしまいそう。
「顔が硬いな。緊張してるか?」
「もう、あたり前に分かりきっていることを聞かないでくださいよ。初めてのことなんですから!」
すかさず「こんなのは俺も初めてだ」と先生も笑ってくれた。
「こういうことは最初から教えておいてくださいね。制服じゃなくてよかったですよ。どんな服装にすればいいか本当に迷ったんですから。結局これになりましたけどね」
笑いながら「そうだよな、夏休みの前科があるもんな」と肩をたたいてきた。
でも、先生もいつもの仕事で着ている物とは違うスーツ姿だ。もちろん私は言うまでもないけど……。
「もし制服だったら派手に目立っただろうな。そこまで完璧に変身してきたなら松本が高校2年生とはみんな思わないだろう」
「結花先生も茜音先生も同じ事言ってくれました。結花先生に今日の計画って話していました?」
「いや? 夕方から花菜を借りますとだけは言ったかもしれないけれど」
それでも、勘のいい結花先生はきっと今日これから起きることは予想がついていたのだろう。
私に特別なメイクをしてくれたのはその証拠だよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます