第8話 逃走イベントにヒロインは付き物
「なぜお前がここにいるんだ・・・、
「いたたぁ〜・・・。な、なんでって
「お、オレを・・・??」
尻餅を着いた彼女の口から出た言葉に思わず、
(雛森さん、オレを探しに来てくれたのか・・・!!)
「こーくんっ!! 来てます、後ろから来てますよあのくちびるオバケ〜!?」
だがそんな感動に浸る暇も無く、横合いから突っ込んできた柔らかい衝撃に光輝は現実へと引き戻される。
「は、離れろ
姫日葵に誤解されない為にと咄嗟に抱き着く陽花を引きはがそうとする光輝。だがそうこうしている間にアブソデュラは迫ってくる。
「才賀くん! あとその隣の子もっ! 後ろからでっかいのが来てるよっ!?」
「むっ!私の名前は
「言ってる場合かっ!逃げるぞっ!!」
「え!?恋敵って何?どういう事なの?」
「あー!!ひ、雛森っ!今は気にするな、とりあえず逃げるんだっ!!」
「えっ?な、なんの話なのっ!?」
(うおおおぉ・・・!! もう色々と最悪だぁ・・・、クソぉぉぉっ!!)
授業には出れず、化け物に追いかけられ、更には陽花のおかげで好きな人にまで変な誤解を生んでしまいそうな散々な状況に光輝は心の中で叫ぶ。だがそれも一瞬の事で光輝は頭を切り替えると姫日葵の手を掴み、優しく立ち上がらせた。
「雛森・・・、逃げるぞっ!」
「え・・・、あ、あの・・・」
そして戸惑う姫日葵の手を引くと光輝は走り出した。
「ちょっ・・・!こーくん、私をおいてかないでくださーい!!」
制服のローブに引っ付く陽花も連れて。
「シャアアアアァァァッッ!!!!」
そんな三人の後ろからムカデのように触手を伸ばしてアブソデュラがかなりの速度で迫る。対して光輝達は先程よりも走る速度が遅い。
「雛森・・・、もしかして足を挫いたのか??」
「う・・・、うん。さっき転んだ時に右足をちょっと・・・」
手を引く雛森は明らかに右足だけ力が入りきっておらず、重心がおかしかったので姫日葵が足を痛めているのは明らかだった。
(くっ・・・、これじゃ逃げられないぞ!追い付かれる、どうすれば・・・)
「才賀ぁぁー!!そこにいたか、見付けたぞっ!!」
「なっ!?ひまりんまで!?殺せーっっ!!」
まずい、と思った矢先、どこからともなく追っ手の親衛隊の男達が現れた。
「あいつら・・・、そうだ!雛森っ、あいつらに笑顔で手振って何か声を掛けてやってくれっ!!」
「えっ?えっ?なに言えばいいのっ?」
「早く頼む!なんでもいいからっ!!」
「も〜!え、えーっと・・・、みんなお疲れ様?・・・でいいのかな?」
困りながらも頬を染め、はにかみ気味に言った姫日葵の一言。その威力に親衛隊の男達がその場に釘付けになる。
「天使のようなスマイルにお疲れ様だとぉ・・・!?」
「しかも最後に小首を傾げるなどもはや悪魔的・・・!!」
「だがそこがいい・・・っ!!」
そして立ち止まってしまった彼らの背後に死刑執行人が迫る。
「シャアアアアァァァッ!!!」
「うわあああぁぁっ!?なんだこいつは・・・っ。ま、まさか・・・!?」
「オレの口を・・・、やめ、やめてくれえぇっ!?」
「うわぁ!?ファーストキスはひまりんが・・・、ひまりんがあぁっ!?」
背後から迫ったアブソデュラの唇の餌食に親衛隊達はなってしまう。阿鼻叫喚の声とゾッとするような光景から全力で目を背け、光輝は姫日葵の手を引いて走った。
(悪いがお前らのお姫様の為だ、許せ・・・!!・・・しかし息ピッタリだったなあいつら・・・)
「あの人達大丈夫なの!?才賀くん!?」
「大丈夫、魔力は抜かれるが死にはしない!・・・まあ、失う物はあるかもしれないが・・・」
そんな言葉を交わしていると陽花が光輝のローブを引き、後ろを指さして叫んだ。
「こーくん、ダメですよ!あいつまた追いついて来てますっ!!」
「なんだって!?・・・く、逃げきれないか!せめて先生が誰か来てくれれば・・・」
だが頼りの教師の姿どころか声すら聞こえない。今は授業中、そして何より学園が広すぎるのだった。どう時間を稼ごうか、そんな事を光輝が思案していた時、もっとも最悪な事が起きた。
「きゃっ!・・・つっ・・・あ、足が・・・!!」
「うおっ!?雛森っ・・・!?」
なんと姫日葵がついに足を庇いきれず転んでしまったのだ。手を引かれた光輝も足がもつれて体制を崩す。
「シャアアアアァァァッ!!」
「ヤバいですよっ!二人とも早く立ってくださいっ!!」
「雛森っ!!」
「つうっ・・・!力が・・・」
背後から迫るアブソデュラに光輝は何とか姫日葵を立たせようとするが姫日葵は足の痛みのせいで立つことが出来ない。
(抱き抱えてどうにか・・・、いやダメだ間に合わない・・・!!)
「才賀くん!いいから逃げて?魔力を吸われるだけなんでしょ?大丈夫だよ・・・?」
そんな光輝に姫日葵が恐怖の上にいつもの優しげな笑顔を貼り付けてそう言う。
「雛森・・・」
それを聞いた光輝は姫日葵の顔を見るとゆっくりと立ち上がった。
「そうだよ、才賀くん早く逃げて!」
姫日葵が催促するように光輝へと叫ぶ。確かに状況は絶望的。しかし、光輝の心の中は姫日葵の意思とは全く違っていた。
(―――何を勘違いしてるんだ雛森・・・、オレがお前を置いて逃げるなんてする訳がないだろう・・・、ましてや・・・!)
「雛森姫日葵の唇をあんなヤツに渡してたまるかぁっ!!」
「は・・・?」
「え・・・?」
美少女二人がポカンとした顔を向ける中、少年はそう叫び、化け物へと向き直った。何よりも大切な物を守る為に、そう・・・、少女の唇を守る為に―――。
大好きな愛されヒロインを口説き落としたい天才なオレ様〜スパイスに魔法と異世界を添えて〜 優夢 @unknown-U2
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