#05
「各クラスからご協力に来ていただいた方、ありがとうございました。みなさまのご協力で予定通り明日の入学式の準備が完了しました。本当にありがとうございました。解散していただいて結構です。生徒会役員は明日の動きについて話があるため残ってください」
椅子ならべ、飾り付けなどの全ての工程がきちんと行われていることを確認した会長が、マイクでそう伝えるとあちらこちらに固まっていた人だかりがざわざわと音を立てながら体育館から出ていく。
俺は招集のかかっている生徒会役員に含まれているため会長の元へと歩いていく。
「えっと、うん、全員集まったわね。んっんー……明日だけど君たちは朝の8時に体育館に集合してください。通常は新2、3年生は10時からのHRまでに登校になっていますが入学式中の管理役が生徒会の役割となっているのでよろしくお願いします。簡単な役割なので詳しい動きについては明日話します」
俺を含めた会長以外の役員が「はい」と返事をする。
すると会長はぽんと一度手を鳴らす。
「んじゃあ、君たちも今日は解散していいわ。ありがとう」
「解散」とはいえ生徒会役員は荷物を生徒会室に置いてあるため全員そっちの方向に移動することになる。
「内田君。ちょっといいかしら」
生徒会室から出ていこうと荷物を手に持ったところで会長から声をかけられる。
話の内容はなんとなくわかる。多分そこまで重要な話ではない。しかし、俺の性格上無視して帰ることも出来ずその場で止まる。
すると会長がスタスタと近づいて来る。しばらく黙り込んだまま近くに仁王立ちされる。俺の方が身長は高いはずなのだが「生徒会長」という肩書きのせいもあって威圧感がすごい。
教室の中で二人きりになってしばらくたってからやっと会長は口を開く。
「ところで内田君。例の件は考えてくれたかな?」
「はぁ。なんでしたっけ?」
実際は「例の件」が何を指し示すものか多分理解している。
しかし出来る事ならば「例の件」が夢であったと考えたい。
「そりゃぁもう、生徒会の4人の中で誰がタイプかに決まってるじゃないか」
「…………」
そんな俺の思いも虚しく会長は「例の件」について話し始める。
厳格な態度、身だしなみ、そして口調とは合わないような話を始める。
(人を見て目で判断してはならない)
「うんうん。みんな魅力的だし悩むのはわかるわ。でも散々時間も上げたしそろそろ聞かせてもらいたいのだよ」
「はぁ。……そうすか」
「で、誰なのだい?」
あまり興味のある話でないため答える事にあまり気乗りはしないが、このままやり過ごすわけにもいかないようだ。少しの間考え、答えを出す。
「っそうすね強いて言うなら3年生の書記の……えっとなんでしたっけ」
生徒会が招集されてからかれこれ三ヶ月ほど。ヒロの事もあり会長の名前は覚えたものの、それ以外の四人の名前はいまだに定着していない。
定着させていなくてもなんとかなってしまうのが現状だ。
「大宮か。ふむふむ。わかるぞスタイルもいいしあの透明感だもんな。確かこの前もラブレターもらってたの見たぞ」
「そうなんすか。やっぱモテるんですね」
「興味なさげだな」
会長は苦笑を見せ、そのまま話を続ける。
「私は断然2年庶務の橋本君だね。あの真面目でなんでも吸収していこうみたいな感じがすごく刺さる。今日も距離を詰められて質問された時はドキドキが止まらなくてどうなることかと」
会長の表情がみるみるうちに溶けていく。
(学校の顔が……)
「の割にその時は平然としてますよね」
基本的に会長が人前で真面目な顔を崩すことはない。例外、今。もしかしたら俺は人としてカウントされていないのかもしれない。
「そりゃあ私は日々女の子と関わって来ているからそんじょそこらの男子のような反応を見せないよ」
「そうすか」
「相変わらず反応薄いねぇ」
「いや、反応の仕方がいまいち掴めないんで」
男子生徒がどの女子が可愛いとか言うのにもうまくついていけない俺が女子生徒が本気でどの女子が可愛いなどと話しているのについていけるはずもない。
「それにしても羨ましい限りだよ」
会長は急に話題を変え、それに対する俺の返事を聞かないまま話を続ける。
「君以外みんな女子生徒なんてハーレム……うぅ許し難い」
「俺に言わせればもう一人ぐらい男子入ってた方がまだ絡みやすいんですけどね」
これに関しては100%本音である。この空間でのハーレムなんてなんのメリットもない。
単に肩身が狭くなるだけだ。
「何言っているんのだ。君は生粋のコミュ障だから男がいたところで話せないだろ」
それに対して会長は真顔で辛辣なことを言う。……事実だけど。
「否定はしません」
「この私ですら懐けるのに時間がかかったしな」
「いや懐いてないですけど」
「まぁ君がいてくれてよかったよ」
(あの、俺の言葉届いてます?さっきからちょくちょく俺の返し無視されてるんですけど)
会長の悪い癖である。
わざわざつっこむものでも無いため心の中に留めておく。
「こんな話女子生徒とは出来ないからね」
「はぁ」
「一応性別というもので括られ更衣室だってトイレだってまとめられているからね。その中に私のようなものがいるとなってはあまり心地の良いものではないのだろう」
会長は寂しそうな表情に変わる。
「でも最近はそういう人増えてるっつーか、認められるようになって来てますし……」
「だからこそでもあるのだよ。相手も私を拒みにくいだろ?気を使われる方が私的には少しな」
「そういうもんすか」
自分の知らない世界に対して何か言われてしまえばそれに対して同意するしかない。
「いくら認められるって言っても実際やってみてどうなるかもわかんないですしそこでリスク負うなんて馬鹿な話ですもんね」
「ザッツライ」
会長は急に明るい表情を作って指で銃を作って俺に向けてくる。
「でもなんで俺には言ったんすか?それでなんかマイナスになる可能性だってあるじゃないですか」
「そこは女の勘ね。実際誰にも言ってないでしょ?」
「まぁ言いふらす相手もいないですからね」
「さすがのコミュ障ね」
「否定はしません」
唯一の会話相手であるヒロは会長に惚れてるし、その状態で会長の恋愛対象が女子である事を伝えるのはあんまりだろう。
そもそも会長が言いふらされるのを好ましいと思ってない状態で話したりするような事はしない。
「それにそれを聞いても内田君は別に私を避けていないだろ?」
「まぁ避けなきゃいけないほどの事態でもないですし」
「ははっ。本当に生徒会に入ってきたのが君でよかったよ。こういうのは誰か一人でも理解者がいると結構違うからね」
会長は笑いながら言った後、少し真面目な顔になって
「自分から話しながらなんだとは思うがこれは二人だけの秘密だぞ」
このセリフを聞くのはもう数回目なのだが、本能的に「秘密」と言う部分にいつも反応してしまう。
「……誰にも言わないですし、それは安心してください」
「そうか。んじゃあ好きなタイプについてこれからも語り合おうじゃないか」
会長は急に子供じみたにやけ顔になる。
「それは遠慮しときます」
「ははっ。まぁそれはいいとして今日はもっと真面目な話をしようと思ってね」
「え、会長が真面目な話を?」
「ははっ。これでも学校の生徒会長だぞ?多くの生徒は私の事を生真面目ぐらいに思っているだろ」
「あ、そうすね。素を知ってるとなんか違和感あって……すみません」
一応は生徒会長。一応は生徒会長。一応は生徒会長。よし。
「まぁ当の私も会長面している自分には違和感がすごい。だから前から「会長」って呼ぶのはやめてくれと言っているのに君は全く変えようとしてくれない」
「会長ってなんか響き良くないすか?」
「まぁ来月あたりには呼び捨てで名前を呼び合う関係になるように頑張ろうじゃないか」
「何年経っても呼び捨てで名前を呼ぶことはないです」
俺が否定に入ると「ははっ」といつもの笑い声をあげる。
「んで真面目な話ってなんですか?」
「あぁ、私ふと思ったのだよ」
「はぁ」
俺は気の抜けた返事をする。
「私たち生徒会はどうも仲が悪いのではないかとね」
「そうすか?」
「実際さっきも体育館からここまで来るのに私語の一つも見受けられなかった」
「確かにそうっすけど、別に不仲ってわけじゃないと思いますけど」
実際定期的に行われてる会議では全員が意見を出し合い、議論を繰り広げてる。誰か一人の意見に引っ張られているわけでも無い理想的な形に見える。例外、俺。俺は他の5人の意見に「そうですね」「いいと思います」と言うだけだ。でもそれで成り立っているし問題は無し。……多分。
「そうだな。仲が悪いわけではないんだが……見る限り生徒会の活動以外でちゃんと話をしているのは私たちだけだぞ。他のメンバー同士はまるでつながりがない」
言われてみれば、生徒会の活動以外で生徒会役員同士が話しているのは見たことがない。
そもそも生徒会の活動以外で生徒会役員を気にしてないしわからないか。まぁ人のことをよく見ている会長がそう言うなら間違いないのだろう。
「んでもその事に関しては俺がなんとかできる問題じゃないっすよ。ただでさえコミュ障なのに周り全員女子とか端っこで縮こまる以外に手ぇないっすから」
会長はまたしても「ははっ」と笑う。
「でもそもそも仲良しでいなきゃいけないわけでも無いしいんじゃないすか?仲がいいに越した事はないかもですけど」
「そうだな。まぁなんか思いついたら教えてくれ」
「考えときはしまうけど……会長くらいのコミュ力なら普通に作戦とか無しでそのままいけるんじゃないっすか?」
実際このようにコミュ障と名高い俺と会話している数少ない人間である。俺からすればコミュ力の神様に値する。
「出来るには出来るがどうも話してるとな……」
会長は頭を押さえる
「あいつらの反応がいちいち可愛すぎて私の方から逃げてしまう」
(あ、そうすか)
「私の事は良いんだ。それより私以外同士がもっと話すようになってほしいと思っていてな」
会長は完全に真面目な顔に切り替わる。
「はぁ。まぁ考えときます」
そこまで言うと会長が手をぽんと叩き「さて、私達も帰るとするか」と言い二人そろって生徒会室を出、会長が鍵を閉める。
「そうだ。内田君。この後お昼でもどうかい?」
「あ、……すみません。俺ちょっと約束あるんで」
「そうかい。また神崎君か?」
流石に2回も告白されれば存在はきちんと覚えているらしく、ヒロの話になると少し申し訳なさそうな顔になる。
「あ、はい」
「そうか。私が言う事でもないが仲良くしてやってくれよ」
「まぁぼちぼちやってますよ」
「ははっ。じゃあまた明日もよろしく頼むよ。時間取らせてすまないね」
「いや、はい。お疲れ様です」
鍵を返しに行く会長と教員室で別れ、そのままヒロが待っているであろう校門まで歩いて行く
「おっせぇわ、ジン」
校門でヒロが不満気な声をあげる。
既に解散から30分経過している。それでも待つのがヒロという男だ。
「すまん。ちょっと色々あってな」
「大変なんだな。他の生徒会役員が出て来てから結構たったぞ」
「はは、いやちょっと書類をまとめなくちゃならなくてね」
「お疲れさん」
他の生徒会役員が帰っている中、自分と会長だけが学校に残っている状況を探られるかと思ったが、思ったより鈍く、逆に罪悪感にかられる。
(別に悪いことしてるわけでは無いんだけどな……詳細を言うことも出来ないし)
「昼どうする?」
「ヒロの食いたいもんでいいぞ」
「んじゃあ牛丼な。いつもんとこ行こーぜ」
何度春がやって来ても、俺に青春はやって来ない 片桐ショーゴ @shogokatagiri
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