21回目の誕生日

白川津 中々

 早いもので2000年からもう21年が経った。

 当時ミレニアムベイビーと呼ばれていた赤子たちはとっくに成人し大学生か社会人となっている。そういえば会社にも内定者が招かれていた。入社の暁には正社員として頑張ってほしい。

 ニートや浪人生もいるかもしれないが、まぁともかく、多くの人間が21回目の誕生日を迎える事は確かなわけであり、総量的に見てめでたい事に変わりはないだろう。ハッピーバースデイここにありだ。


 思えば2000年は色々とあった。短命に終わった森内閣の発足。バスジャック事件。そごうの破綻等々。連日連夜に渡り取り上げられるニュースはどれも刺激的だった。webもまだ浸透していなかった時代で人はテレビに釘付け。バブル崩壊のダメージも回復しつつあり、国民には幾ばくかの楽観が確かにあった。


 だが今はどうだろうか。21年経った現在。好景気だといわれながらも収入の中央値は下がり続け格差社会が拡大。非正規雇用が増加し不安定な生活を余儀なくされている人間が多数。追い討ちをかけるようにして新型コロナウィルス。経営破綻する企業も出始め株価も歪な線を描く。一部の金持ちに富が集中する不健全な社会。トリクルダウンと銘打たれた幻想は貧者をさらに貧しく不幸にするだけだった。資本主義の毒が着実に回っている。


 かくいう俺も非正規雇用。安い賃金で休みは100日余りしかない。当然昇給も賞与もなし。週5で働き手取り15万。大人一人が生きていくのにやっとの金額。情けない。



 悲しみが積み上がる。どうして俺はこうなった。いったいどこで間違った。大学生卒業間近に起こった就職氷河期。続くお祈り無い内定。首を括るも死に切れずフリーターで食いつなぐ日々は10年経っても変わらない。安普請で半額の野菜を買い、スパゲティにかけて食べる生活。娯楽はスーパーで売ってる安い酒。飲むと脳がやられる強烈なアルコール。だが飲まねばやっていられない。素面で見る現実は、あまりに残酷で悲しすぎる。


 これでは駄目だと受けた面接はいずれもお祈り。学生の時と変わらない。お前はいらないと突きつけられるメールが心を蝕む。居場所のない社会は酷く寒い。財布の中身が減る毎に寿命が縮まっていく感覚がある。命を擦り減らしながら毎日鬱屈と生きる事になんの意味があるのか。考えても答えは出ない。いや、きっと出ている。恐らく、「無意味」と。


 どうしようもない人生に自己憐憫の滴が頬を伝う。無力な自分が恥ずかしく、死にたい。生きていたくない。突きつけられた現実が心に刺さり、痛い。











 憎い。











 憎い憎い。世界が憎い。どうしてみんな幸せなんだ。何故俺は不幸なのだ。理不尽理不尽。許せない許せない。どいつもこいつも楽しそうに笑いやがって殺すぞボケカス。お前らはいつだってそうだ。他人の不幸を見て笑い「あぁならなくてよかった」と俺を軽蔑するのだ。

 ふざけるな! 運が良かっただけの人間が偉そうに見下しやがって! あぁ死ね! 死んでしまえ! 無能なくせに安定した生活を手にしたお前が憎い! 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!




 あぁ内定者! 貴様らに不幸が起きるように呪ってやる! 全員が全員涙を浮かべて地を這うよう毎日毎日毎日毎日血反吐を吐くまで! 何がミレニアムベイビーだふざけやがって! 俺の分まで不幸になるがいいクソ共! 21回目の誕生日を境に全員堕ちろ! 地獄の底へ! そこで俺は貴様らを見下してやる! お前らが俺に向けた目をしてなぁ!



 さぁ不幸になれ2000年生まれ! そして世界を憎め! 俺のように!

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