あくまで文字通りなの。千佳の『乙女の日』

大創 淳

第七回 お題は「21回目」


 ――だから何の? と、叫びそうになってアタフタ。ここは教室。お昼休みでも、周りにはクラスメイトの姿がチラチラ。それ以前に、お傍には梨花りか可奈かながいて……じっと僕の顔を見ている。不思議そうな顔、或いは「大丈夫?」とも言ってきそうな顔。



 きっと僕は作り笑顔。「何でもないよ」という言葉を含みながら。


 ……とはいうものの、「大丈夫じゃないかも」なの。正直なところ、朝からイライラしている。きっと、男の子にはわからないこと……いや、わかってもらうと本当に恥ずかしくて……月一あるもの。本当はいうと今日は、もう春休みと思っていたのだけれど、あのね、僕の勘違いだった。それでもって梨花に笑われたのも、そう、含まれているの。



千佳ちか、今朝はごめんね。だから、もう機嫌直して」


「別に、気にしてないから」


 梨花の言葉に対し……そう答えた。笑われたことはもういいの。かといって21回、梨花に笑われたわけではない。今現在、スマホの画面にこの度のお題の「21回目」が表示されていて……何も思いつかなくて、何の心当たりもなくて、ただ頭を抱えていた。


 21から連想できるもの……


 21から連想できるものとは……今は西暦2021。2000年から21回目の年。そして化学が発展したはずのロボットアニメ。昔はお空も飛べて、合体や変形ができるという梨花が喜びそうな内容だったのが、……今はね、電源コードが外れて五分しか充電の持たないロボットではなくて、謎の多い巨大な人造人間。リアルさが増していた人間ドラマも充実していて……今度ね、映画で観ようと思っているの。一人で見る? ううん、もちろん彼氏と。中学生ながら、僕にはダーリンがいるの。


 なら、一緒に見た映画の数が、この映画で21回目。……だったらいいのだけれど、残念ながらお初なの。もしかしたら、もしかして、デートの数が21回目? ……数えていない。どのデートも新鮮で、恋はいつでも初舞台で、サプライズ・イベントだから。


 すると、……えっ?


 SNS――メッセージ入る。


『今度の日曜日、俺ん家で映画見ようぜ。この前、鉄道博物館へ行った日に、千佳が観たいと言ってたやつ、先行配信してるから。これで21回目だろ、俺たちのデート』


 と、いうことなの。


 そしてね、横に顔を向けると……わっ、近っ、


 いつの間にか、梨花が覗き込んでいた。油断も隙もなく、その反対側には可奈も。よりによって見られたの、今のスマホの画面。僕のダーリンのメッセージ……


 だから言うの、物申す。


「ねえ二人とも、僕にはプライバシーってないの?」


「まあまあまあ、怒らない、怒らない」


「心外だわ、私はただ、お友達として、あなたのこと見守ってあげたいから」


 梨花に続いて可奈まで、僕を弄ろうとする……多分その時の目つきは、ギロッ。でもでも……すぐさま、フッと和やかな心地になる。



 何でだろうね?

 とても安心感のある二人。そう思える。それでもって何時しか、痛みは治まる。


 ……女の子に月一あるものに対し。


「大丈夫みたいね。ちょっと心配してたから」

 と、梨花は言う。


「知ってたの?」


「もちろん。千佳のお姉ちゃんだから」


「あと、21回目ってこともね……私も千佳の従姉いとこだから」


 思えば21か月。つまりは今日が21回目の『乙女の日』……そして梨花は僕の双子のお姉ちゃん。可奈は僕と梨花の従姉妹にあたる。僕と梨花のお母さんと可奈のお母さんは姉妹だから。……と、言いながらも、梨花が教えてくれたことなの。それに可奈と出会っていなかったら、きっと、永遠にわからなかったことだろう。もちろん梨花とも。


「さあ千佳、これで書けるよね? 21回目」と、梨花。


「う、うん……」って、ええっ? それも知っていたの?


 そしてダーリンの名は霧島きりしま太郎たろう君。彼とのデートも、日曜日に21回目となる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あくまで文字通りなの。千佳の『乙女の日』 大創 淳 @jun-0824

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ