Ghost3D

ラクリエード

Ghost3D

 ねぇ知ってる? ずっと昔、こんなことがあったんだって。

 ある夜、警官さんが夜の見回りをしてたの。ずぅっと暗い、アスファルトの続く道。すれ違う車も、人もいない住宅街を、コツ、コツ。今では考えられないけど、1人で歩いてたんだよ。最近は、2人1組が最低限の絶対条件らしいけど、現場に居合わせた警官さんが被害に遭うことが多くて、そうなったんだって。

 話がそれたね。それで、その人なんだけど、声をかけられたんだ。


「もし、そこのお方」


 ボソボソと、そよ風でもかき消せてしまいそうな声が聞こえたんだ。まぁ、この時点で、おかしいよね。今は令和。おじいちゃんおばあちゃんだってそんなふうに言いやしないし。

 でも警官さんも、お仕事だから答えたんだって。声のした方、ちょうど、明かりの消えてしまった十字路の向こうに、持っていた懐中電灯を向けながら。


「帰ろうと思いましたら、あっという間に暗くなってしまいました。明かりもなく、困り果てていたところ、あなたが来られまして……」


 そこにいたのは、まぶしがる様子もなく、ぼんやりと立つ30くらいの女性が立ってたの。白い笑みを浮かべて、肩にはバッグ、そして、手には提灯。でも、警官さんは、仕事だから、近づいて、どちらまでですかって訊いたんだ。

 すると、提灯をパタリと落とした女性は、すっと手を伸ばして、


「やみ、まで」


 って言いながら警官さんの肩に乗せたの。そこから警官さんが気が付いた頃には朝で、汗ぐっしょりで路上で寝ていたんだってさ。

 その昔は、よく目撃されていた幽霊なんだけど、あるときを最後にぱったりと止んだんだってさ。もしかして、成仏できたのかな? けど、気を付けてね。誰も、成仏した、とは言ってないから。




 ある深夜のバイトの帰り道。特に急ぐまでもなく、のんびりと帰っていた。ちらほらと家に明かりがついているが、ほとんどの窓は闇をたたえていて、まぁ、いつも通りの蒸し暑い深夜だ。

 帰ったらスタミナ消費して、歯を磨いて、眠くなったら、寝る。そんな計画とも言えない計画を立てていたときのこと。


「もし、そこのお方」


 と、不意に声が聞こえた。はっきりとした、しかしどこか掠れている。

 いったいどこからと、立ち止まってあたりを見渡すと、街灯も少ないことが作り出す闇に、ゆらりと立っている存在を見つけた。視線を上げてみると、ぬっと浮き出てくる姿に、驚かずにはいられない。

 30くらいの、白い光っているような肌。肩にはバッグ、手には、提灯。刃物を持っていれば、それはもう全力ダッシュだが、見たところ、そうでもないし、空いている手をバッグに伸ばしているわけでもない。

 でも怪しい。とりあえず、挨拶をする。


「帰ろうと思いましたら、あっという間に暗くなってしまいました。明かりもなく、困り果てていたところ、あなたが来られまして……」


 困っているふうに首を傾げる女性。しかし俺みたいな学生バイトになんで声をかけるのか。近くにある交番の場所くらい、近くの家のインターフォンごしでも教えてくれるだろうし。なのになんで、わざわざ俺に声をかけてきたんだ? 考えれば考えるほど、怪しいばかりである。


「よろしければ、共に、来ては、くれませんか? どうか、どうか」


 怪しい。距離をとりつつ、交番に連れていくのが、俺にとっても一番安全か? いや、一回、実家とかに連絡して行方をはっきりさせておくとか……。都市伝説とか奇譚とか、そういうのでよくある行方不明とか、未解決事件とかそんな映像が脳裏に再生されてしまう。

 と、意識が思考に向いているうちに、気が付くと女性が目の前に立っていた。


「ああもう! 久しぶりに出てきてやったのに誘いに乗りなさいよこのヘタレ!」


 まさしく、鬼気迫る表情が、目の前に。


「やっと、やっと21回目の年が明けて出てきてやったのに何よその反応は! そんっなに我慢して、我慢して脅かしてやろうと思ったのに!」


 なるほど、何を怒っているのだこいつは。


「何よ、何よ! サイコロで明日とか明後日とか、出没する日を決めてたらさぁーあ! なんでか数日後、数日後ばっか出るからヤリガイアルワーとか思ってたら、いきなり21年と1か月、さらには10日後なんていう目が出るしさぁーあ!」


 間違いなく唾が飛ぶ勢いだが、飛び散るそれらは全く、衣服に付着しなかった。


「んで待ちに待って、噂が消えてるだろうから、臨死体験でもさせる勢いで驚かせちゃおー、とか考えてたのに、なんか警戒されちゃってるしー!?」


 果てには人差し指を突き付けてくる始末。


「あ、今、わたしのこと馬鹿にしたでしょ? あのねぇ、地縛霊だって遊びたいときくらいあんの。時を運を3個のサイコロに託してみたいときだってあるの! 分かる? めっ……ちゃ暇なんだから! この21年間、何してたか分かる? 寝てたのよ! ちょっとそこの家の部屋を借りてさぁ!」


 びしりと勢いよく指さされる先には、俺が知る限り、誰も住んでいない一軒家。


「窓から見えるお隣さんのカレンダー見て、21回、21回年を跨ぐだけなんだって、暗示かけながらさ、地縛霊になってからサイコロの導きだけは律儀に守った結果がこれだよ!」

 軽くのけぞり、長い髪をかきむしり始める、幽霊だろう女性は、


「ああ、もういい! あんたみたいなのを狙うんじゃなかった! じゃあね! さっさと怨霊に狙われて地獄行っとけ!」


 と吐き捨てて、ふわりと消えてしまった。

 嵐のような出来事に呆然としていると、帰り道だったことを思い出す。あたりに何もいないことを改めて確認してから、安息の場へと向かってまた歩き始める。




 カラカラカラ。どこかで硬いものが地面に投げられ、コロコロと転がった。

「はぁ!? 100年!? 1D100でファンブル引くなっての!!」

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Ghost3D ラクリエード @Racli_ade

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