継承
僕と魔女はほとんど毎日会うようになっていた。魔法を教わりたいという気持ちもあるが、単純に魔女と過ごす時間が楽しかった。
気がつけば、友達と過ごすよりも長く魔女の家に入り浸っていた。
「あんた、友達と遊ばなくていいのかい?」
「うん、魔法教わってる方が楽しいし!」
「…そうかい。じゃ、今日は渋ーい柿を甘くしてしまう魔法を教えてあげよう。この魔法があればどんな柿だって美味しく食べられるよ。」
「やったー!僕渋いの苦手だから嬉しい!」
魔女は柿のヘタに魔法の液を漬けてビニール袋に入れていった。
「たったそれだけ?」
「あぁ。それだけだよ。でも甘くなるには時間がかかる。10日程したら食べごろだよ。お家にお土産で持って帰んなさい。」
簡単過ぎる作業でにあっけにとられながらも、魔法をかけられた柿を受け取った。
「ねぇねぇ、今日は他にどんな魔法を教えてくれるの?」
「今日はこれだけ。あたしもトシでね、長く魔法を使うと疲れてしまうのさ。」
魔女はそう言って咳をした。最近魔女はよく咳をするようになった。いつからなのか、思い出せないけど。
「魔女は何歳まで生きるの?」
「さぁ。何歳までだろうね。あたしの友達はみんな死んじまった。」
「…魔女も死ぬの?」
僕は急に寂しくなって魔女の手を握った。
「そりゃぁ、生きてるからにはいつか死ぬよ。あたしが死んだら、あんたがあたしの代わりに子供たちに魔法を教えるんだ。」
「教えられないよ…。」
「大丈夫。あんたは大人になったら立派な魔法使いになれる。その時、みんなに教えてあげるんだよ。」
柿を甘くする魔法を教わってからちょうど10日後、魔女は死んだ。ママが言うには、「ハイエン」って言う病気だったらしい。僕は泣きながら甘くなった柿を頬張った。
魔女が死んでから十数年が経ち、丘の上の古い魔女の家は取り壊され、新しい家が立っていた。
「先生!今日はどんな魔法を教えてくれるの?」
少年少女たちがキラキラした目でこちらを見ている。
「今日はね、渋ーい柿を甘くする魔法だよ!」
魔女の丘 とりすけ @torisuke
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